非膜オルガネラの独立性を規定する天然変性領域配列パターン
細胞内相分離ルールの新知見
| 原著論文 | RNA (2026) |
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| 論文タイトル | Blocky proline/glutamine patterns in the SFPQ intrinsically disordered region dictate paraspeckle formation as a distinct membraneless organelle |
| 研究室サイト | RNA生体機能研究室〈廣瀬 哲郎 教授〉 |
概要
大阪大学大学院生命機能研究科の高桑央特任研究員(研究当時、現在米国ホワイトヘッド研究所)、山崎智弘准教授、廣瀬哲郎教授らの研究グループは、哺乳類の核質に存在するパラスペックルという非膜オルガネラ(MLO)が周囲の別のMLOから独立して存在するために働くタンパク質の天然変性領域の新たなアミノ酸配列パターンを世界で初めて明らかにしました。
相分離によって形成されるMLOは、さまざまな細胞内プロセスにおいて重要な役割を担っています。多くのMLOは、周囲の他のMLOへの取り込みや融合を回避し、細胞内空間において独立した状態を維持しています。MLOは、主に天然変性領域(IDR)を有するタンパク質による動的な多価相互作用によって形成されることが知られていますが、形成されたMLOがどのような分子原理によって独立性を維持しているのかについては、未だ理解されていませんでした。
本研究ではパラスペックルを、別のMLOである核スペックルから分離する因子として、当グループで以前同定したSFPQというRNA結合タンパク質に着目し、その中に存在するプロリン/グルタミン(P/Q)に富むIDRの機能を解析しました。SFPQ変異体を表面領域に係留したパラスペックルが、核スペックルから分離するかどうかを解析した結果、脊椎動物で広く保存されているSFPQ IDR内のP/Q残基が、その分離活性に必須であることが明らかになりました。さらに、アミノ酸組成そのものだけでなく、プロリンに富むブロックとグルタミンに富むブロックが反復的に配置された「P/Qブロック状配列パターン」が、核スペックルからの分離に必要であることが示されました。またこのP/Qブロック状配列パターンは、分子動力学シミュレーションによってIDRの自己集合特性と相反することが示唆されました。類似のP/Qブロック状配列パターンは、SFPQ以外の様々な制御因子にも存在していることから、このIDR配列パターンは、従来知られている相分離促進機能とは異なる機構を介して、MLOの独立性に寄与している可能性が示されました。
これらは、細胞内の相分離したMLOの細胞内挙動や機能の理解、さらにはMLOを標的としたの薬剤開発に重要な基盤知見となるもので、生命科学および医科学分野への大きな貢献が期待されます。
研究の背景
真核細胞内には、相分離によって形成されるMLOが多数存在しており、さまざまな細胞内プロセスにおいて重要な役割を担っています。
MLOは、主にIDRを有するタンパク質による動的な多価相互作用によって形成されることが知られています。さらにMLOは、周囲の他のMLOへの取り込みや融合を回避し、細胞内空間において独立した状態を維持していますが、どのような分子原理によってその独立性を維持しているのかについては、未だ理解されていませんでした。MLOの一種であるパラスペックルは、NEAT1_2というlncRNAを骨格にして形成されるMLOで、これまでに近傍に存在する核スペックルというMLOから独立して存在する機構として、パラスペックル表面領域に存在するSFPQというタンパク質が重要な役割を果たすことが当グループの研究で明らかになっていました(図1)。
本研究の成果
今回、パラスペックルを核スペックルから分離して独立性を維持するために働くSFPQに注目し、そのプロリン/グルタミン(P/Q)に富むIDRの機能を解析しました。SFPQのIDR配列変化させた様々な変異体をNEAT1_2 lncRNA上に人為的に係留したパラスペックルが、核スペックルから分離して独立性を維持できるかどうかを解析することによって、ヒトからゼブラフィッシュまで保存されているSFPQ IDR内のP/Q残基が、その分離活性に必須であることが明らかとなりました。さらに、アミノ酸の配列や組成そのものだけでなく、プロリンに富むブロックとグルタミンに富むブロックが反復的に配置された「P/Qブロック状配列パターン」が、核スペックルからの分離に必要であることが示されました。またこのP/Qブロック状配列パターンは、粗視化モデルによる分子動力学シミュレーションによってIDRの自己集合特性と相反することが示唆され、パラスペックル表面にP/Qブロックが分散して存在することが、核スペックルからの分離に重要であることが示唆されました。類似のP/Qブロック状配列パターンは、SFPQ以外の様々な重要な制御因子にも存在していることから、IDRのP/Qブロック状配列パターンは、従来知られている相分離促進機能とは異なる機構を介して、MLOの独立性に寄与している可能性が示されました(図2)。
研究成果のポイント
- 非膜オルガネラ(MLO)が周囲の別のMLOから独立して存在するために働くタンパク質IDR配列パターンを特定。
- パラスペックル表面領域に存在するSFPQ内IDRの「P/Qブロック状配列パターン」が核スペックルからの分離に必要。
- 相分離して形成されるMLOの細胞内挙動や機能、それを標的とした薬剤開発のための基盤知見。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
細胞内の相分離現象は、様々な生理現象や疾患機構に関わっており、近年大きな注目を集めています。本成果は、MLOの基盤知見にとどまらず、MLOを標的としたの薬剤開発に重要な基盤知見として、生命科学および医科学分野への大きな貢献が期待されます。
研究者のコメント
細胞内相分離の研究は、急速に発展を続けている新しい研究分野で、様々な相分離体の挙動を規定する関連因子の「分子文法」の確立が急務です。今回のMLOの独立性を規定する新たな配列ルールの発見は、その一つの基盤となる規則性として、今後相分離の基礎・応用研究ための重要な基盤情報として当該分野の発展に貢献すると考えています。(廣瀬哲郎)
特記事項
本研究成果は、2026年1月23日(木)に国際科学誌「RNA」(オンライン)に掲載されました。
なお、本研究は、以下の研究費の支援によって行われました。
- JST戦略的創造研究推進事業CREST「動原体超分子複合体の構造ダイナミクス」(研究代表:廣瀬哲郎(大阪大学大学院生命機能研究科教授))
- 科学研究費補助金 学術変革領域(A)「非ドメイン生物学」計画研究(研究代表:廣瀬哲郎(大阪大学大学院生命機能研究科教授))
- 創発的研究支援事業「RNAが誘導する細胞内相分離の体系的理解」(研究代表:山崎智弘(大阪大学大学院生命機能研究科准教授))
- 科学研究費補助金 学術変革領域(A)「マルチファセット・プロテインズ:拡大し変容するタンパク質の世界」公募研究(研究代表:山崎智弘(大阪大学大学院生命機能研究科准教授))

図1.NEAT1 architectural RNAによるパラスペックルの形成と独立性維持

図2.パラスペックルの独立性維持に関わるSFPQ IDRのアミノ酸配列パターン
用語解説
- パラスペックル(paraspeckle)
パラスペックルは、哺乳類細胞の核質に存在する非膜性の核内構造体(非膜オルガネラ)であり、長鎖ノンコーディングRNA NEAT1_2 を足場として形成される。主にSFPQ、NONO、PSPC1などのRNA結合タンパク質を含み、転写後制御やストレス応答に関与することが知られている。細胞の状態に応じて動的に形成・消失し、遺伝子発現制御の空間的基盤として機能する。 - 非膜オルガネラ(membraneless organelle)
非膜オルガネラは、生体膜によって囲まれていない細胞内構造体の総称であり、液-液相分離などの可逆的な分子集合機構によって形成される。タンパク質やRNAの多価相互作用を基盤とし、必要に応じて迅速に組み立て・解体されることで、特定の生化学反応や分子制御を空間的・時間的に効率化する役割を担う。代表例として、核小体、ストレス顆粒、パラスペックルなどが挙げられる。 - 天然変性領域(intrinsically disordered region, IDR)
天然変性領域とは、タンパク質中に存在する、特定の安定した立体構造をとらないアミノ酸配列領域である。柔軟な構造特性を持つため、多様な分子と可逆的に相互作用でき、シグナル伝達や転写制御、非膜オルガネラ形成などに重要な役割を果たす。 - 多価相互作用(multivalent interaction)
多価相互作用とは、1分子中に存在する複数の相互作用部位が同時に複数の分子と結合することで生じる相互作用様式である。個々の結合は弱くても、集合的に強い結合力を生み、非膜オルガネラ形成や相分離現象の基盤となる。 - 核スペックル(nuclear speckle)
核スペックルは、細胞核内に存在する非膜性構造体で、スプライシング因子をはじめとするRNA代謝関連タンパク質が高濃度に集積している。転写活性の高い遺伝子近傍に局在し、前駆体mRNAのスプライシングや遺伝子発現制御に関与する。 - 分子動力学シミュレーション(molecular dynamics simulation)
分子動力学シミュレーションは、原子や分子の運動を物理法則に基づいて計算し、時間発展として解析する計算手法である。タンパク質や核酸の構造変化、相互作用、動的挙動を原子レベルで理解するために用いられる。 - lncRNA(long noncoding RNA)
lncRNA(長鎖ノンコーディングRNA)は、一般に200塩基以上の長さを持ち、タンパク質をコードしないRNA分子の総称である。転写制御、クロマチン制御、RNAプロセシング、非膜オルガネラ形成など多様な細胞機能に関与する。
| 原著論文 | RNA (2026) |
|---|---|
| 論文タイトル | Blocky proline/glutamine patterns in the SFPQ intrinsically disordered region dictate paraspeckle formation as a distinct membraneless organelle |
| 著者 | Hiro Takakuwa (1), Takao Yoda (2), Tomohiro Yamazaki (1, 3), Tetsuro Hirose (1, 3, 4)
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| PubMed | 41571439 |
