2022年、11月30日から12月2日にかけて開催された第45回分子生物学会年会は盛況のうちに幕を閉じ、プログラム委員長たる私の役目も、あとは締めの組織委員会を残すのみとなり、ほぼ、任務は完了した形となった。足掛け3年、壮大なお祭りが終わり、ほっと一息ついているところである(しかし片付けはまだ続行中)。

いや、長かった、、、めちゃ長かった。そして頑張った。ご存知の通り、今年は普段やらない企画が目白押しだったので、当日トラブルなどもあったが、やりきった。共闘した仲間は以下の通り。

組織委員会

年会長
深川 竜郎(大阪大学大学院生命機能研究科)
副年会長
永井 健治(大阪大学産業科学研究所)
組織委員長
原田 慶恵(大阪大学蛋白質研究所)
プログラム委員長
甲斐 歳惠(大阪大学大学院生命機能研究科)
組織委員
樺山 一哉(大阪大学大学院 理学研究科)
神田 元紀(理化学研究所生命機能科学研究センター)
須藤 雄気(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
野間 健太郎(名古屋大学大学院理学研究科)
茂木 文夫(北海道大学遺伝子病制御研究所)

ツイートや直接お会いした方達の感想をまとめると、やはりあの会場内にできるだけいろんなものを詰め込んだのが功を奏したように思う。第1回組織委員会で話し合ったことを思い出してみる。まずは深川年会長の「議論できる年会を取り戻す」という暑苦しい熱い思いから端を発しているこの会場構成。どうやったらそれを実現できるのかを我々は話し合った。会場内会場を作るのは深川年会長が最初からかなりこだわっていたので、それは基本方針として据えた。以下は第一回組織委員会の議事録からの抜粋である。

「議論できる学会」「生物物理との融合/異分野融合」「国際化/諸外国の学会との連携」という3つの柱を念頭に、老若男女、上下の区別なく議論を通じて学問を深める年会のイメージを特徴づけるキャッチコピーとして、対話、interactive、双方向、相互作用、談話、おしゃべり、チャット、サロンなどのキーワードが挙がったなかから、人が集う広場を意味するギリシア語の「アゴラ」が採用され、年会のキャッチコピーを『分子生物アゴラ~激論コロッセオ』とすることとなった。

このコンセプトをベースに企画を展開したのだが、ビジュアルは大事ということで、プログラム委員長として私が最初に取り掛かったのはポスター制作であった。詳細は割愛するが、イラストレーターさんたちのリストと作風から候補を検討し、組織委員会での議論を経てウチダヒロコさんにご依頼することとなった。ウチダさんとの打ち合わせでコンセプトやざっくりとしたイメージをお伝えし、ラフ画をいただき、細かい修正をへて完成となったが、ラフ画は実は前年の年会ポスターより早く出来上がってしまった。年会企画を詰めていく中で、コンセプトを体現するポスターがあったのは、非常に大きかった。特に組織委員会が立ち上がった時には想定もしていなかったコロナ禍に見舞われる中、議論できる年会をやりたい、という気持ちを最後まで維持できたのは大きかったように思う。

会場候補はいくつかあった。幕張、インテックス大阪、沖縄。年会長がこだわった「会場内会場」を実現するにはどうしてもだだっ広い会場が必要だった。組織委員会のコアメンバーが大阪大学所属だったので、大阪で開催したかったが、諸般の事情で実現しなかった。組織委員会が立ち上がった時はまだ場所は決定しておらず、組織委員会を開きつつ、別途、年会長と事務局が現地視察し、最終的に幕張に決定した。千葉県からの助成もいただけることになり、また千葉プラスキャンペーン等でも分生年会を加えてくださり、参加者にとっても大変楽しく過ごせたと思う。千葉県や幕張メッセの皆様方には心から感謝をお伝えしたい。特に年配の方からは「幕張なんか何もない」と陰口を叩かれていたが、いい意味で裏切れたのは非常に嬉しい。会場から駅までが近く、駅周辺には飲めるところも十分にあり、東京からのアクセスもよく、楽しい3日間を過ごさせていただいた。今回の年会で、幕張のポテンシャルを見出せたのは大きかった。今回のことが契機になり、生物系の大きな学会がまた幕張メッセで開かれると確信している。

あとは SNS の活用と、ウェブベースの年会サイトへの注力である。こちらは組織委員の神田さんや樺山さんが中心となって動いていただいた。ウェブサイトは、ハイブリッドで年会を開催した前年会と同じ企業にお願いすることになったが、使い勝手の悪いところを大いに改善するご提案を飲んでいただいての採択となった。ICT を大いに活用すべしとのことで、会員証に QR コードを載せたり、それによって展示ブース訪問のデータを取ったり、ポイントを溜めて抽選に使ったりと、参加者のみならず、協賛いただく企業にとっても出資に値する年会を開きたいと考えていた。企業さん側からのフィードバックもいただければとても嬉しい。組織委員会で抽選の景品に至るまであれこれと議論したのは非常に楽しかった。

また好評をいただいた千葉の地酒販売やワンコイン利酒も、コロナ禍でどうなることかと思ったが、実施できたのは良かったと思う。正副年会長が酒好きの御仁なので、幕張視察にしっかり地酒協会が組み込まれてて大丈夫かと思ったのは内緒だ。ワンコイン利酒は、実は幕張の視察直前に大阪の万博公園の梅園で開催されていた梅酒利き酒にヒントを得て、私が酒造協会にご提案させていただいたのだが、素晴らしい企画を作り込んでいただき、感謝申し上げます。

年会長が大方針を決め、それぞれのメンバーが担当している仕事をきっちりとこなすという流れがとてもよくできていた委員会だと思う。深川先生はセントロメア研究で知らぬ人のいない御仁ではあるが、エラい先生にしては珍しく、実務の人である。副年会長はあの伝説の宮崎生物物理年会の年会長だったこともあり、神田さん、樺山さん共に、アイデアの御仁たちである。AE 企画さんやシステム企画担当さんを大いに振り回し、また困らせてしまった組織委員会ではあったが、終わってみればあっという間の3年回だった。心からお礼申し上げたい。

また暑苦しいテーマソングを作成してくださったネガティブセレクションの皆様方に心からお礼を申し上げたい。会場でバイオリンの生演奏のピアノ伴奏者としても参加した長谷川さんは、杉本先生@東北大やネガティブセレクションを率いている河本先生@京都大の以前のラボで秘書をしていたこともある強者で、テーマソングについて相談したら、即座にネガティブセレクションを推薦してくれた。音大卒→生物系秘書→司法書士→弁理士というマルチな経歴を誇る彼女には、海外参加者のビザ問題なども相談にのってもらったり、司法書士の方を紹介いただき、大変ありがたかった。ネガティブセレクションの先生方には閉会式で恐れ多くも生演奏をいただき、生メタ爺のご尊顔を拝することができたのは楽しかった。

最後の2–3ヶ月の追い込みはすごいものがあった。特に樺山さんや神田さんらによる、フォトスポットやガイドマップ、Meet the hero/heroine らは、終盤ギリギリまで調整が続いた。また彼らはツイートも主に担当してくださった。特に年会1週間前からは怒涛のツイート攻勢をかけ、当日はとうとう学術年会なのに「分生」が Twitter でトレンド入りしてしまうという快挙を成し遂げた。

私が主に担当していたサイエンスピッチやポスタークリニックなども多くの人が絡むセッションなので、最後まで混迷を極めたが、運営組織のAE企画の皆さんのバックアップもあり、なんとかやりきった。特に最終日のサイエンスピッチからアワードの発表まではあまり時間もなく、事務局裏方の皆さんと共に必死で集計していたのだが、間に合ってよかった。シンガポール時代の同僚でもある茂木さんには細かいところで詰めていただいたり、野間さん・須藤さんにもお世話になった。ポスドク時代からの悪友とも言える鹿糠さんにも感染アドバイザリーとして参加してもらい、ありがたかった。サイエンスピッチアワードプライズのクリスタル盾は神田さんの推薦で採用となったが、クールすぎるプライズに組織委員一同の垂涎の的で(アワードの分しか発注しておりません、、、)、アワードをゲットできた参加者の健闘を讃えると共に、非常に羨ましくもある(笑)。

本大会では錚々たるプレナリーの演者にご登壇いただいたが、残念ながら3名ともが zoom 参加となった。しかし良くも悪くも気軽に参加していただけるという点においてはよかったのかもしれない。今回はこのプレナリーを公開配信とすることで市民講座の代わりとさせてもらった。

またシンポジウムやワークショップについてはハイブリッドとし、リモートでの視聴も可能であったことで、会場でもリモート参加している人たちをちらほらと見かけた。本音を言えば、せっかくその場にいるのだから、リアルな場での科学討論に参加してほしいとは思ったが、会場が狭かったり立ち見が溢れていたり、またデータの見やすさについても PC からの視聴に軍配が上がるところは理解できる。あるいはなんらかの事情で学会会場に来れないケースがあることもよくわかる。そういう意味では、一部にハイブリッドを残すのも、より多くの人にとって参加しやすい年会だったと思う。

私自身、大きな学術集会を作り込む大変さと楽しさを学ばせていただいて、心から感謝している。参加していただいた皆さん、ありがとうございました。若い人たちが、学会っていいな、議論っていいな、って思ってもらえたら嬉しいです!!