私と夫は、夫婦になるよと宣言して結婚式を挙げたものの、法律婚はしていない。したがって我々は民法で規定されるところの「内縁関係」にあり、一般的には「事実婚」と言われる状態にある。子供たちは生まれる前に父親が認知し(胎児認知)、出生時は私の戸籍に入って私の姓を名乗ったが、諸般の事情により夫の姓に変更した(子の氏の変更@家庭裁判所)。興味がある方がいるかも知れないので、私と私の家族がこの件についてどう対応しているかを書き留めておきたい。

我々が事実婚をスタートさせた20年以上前から度々国会で議論になっていたので、数年以内には民法が改正されて夫婦別姓が可能になると思っていたが、甘かった(笑)。別姓婚を認めると、役所の仕事が煩雑になるという議論があるが、事実婚が増えても余計ややこしいことになる(実際、内縁関係にある自分達が役所や事務を若干混乱させている自覚はある)。それならいっそ別姓婚を認めた方が結果的にシンプルになりそうな気がする。我々は長い間、内縁関係を続けてきたし、仮にもし別姓婚ができるようになったからといって、婚姻関係を結びたいと思うかは非常に疑わしい。しかし法律で自分たちの関係を規定したいという気持ちはわからなくもないので、選択肢としてあった方がいいとは思う。以下、夫と内縁関係で子供を出産し、長年、家族をやってきた私が思う「問題になるかもしれない事案」についての考察である。

「子供が混乱しない?」

我が家の子供達は違う名字を持つ親のことをなんとも思っていない。それどころか、彼らは、婚姻届にはどちかの姓選んで書かないといけないことをつい最近まで知らなかった。バカすぎるが、まあ許す。今どき親の名前なんて個人情報はクラス名簿にも載らないので、同級生につっこまれもしない。娘はインター校に通っているので、周りは国際結婚、国際別居、シングルマザー&ファーザー、多様な国籍などなどの子供たちが多く、ファミリーネームなど話題にもならない。一方、(あまりフツーじゃないが一応は日本の学校に通う)息子の学校関係の書類にどうしても必要な時は、面倒を避けるために姓が同じ父親の名前を保護者名に書く。我が家には違う苗字宛の宅配便が来るが、子供たちは宅配の方に「どっち?」と聞いてサインをしている。レストランで順番待ちの時は、迷わず簡単な方の「カイ」(<カタカナ)を書いている。大変、逞しくて結構。ただし、我が家の子供たちは海外育ちなので、個人とはファーストネームで識別されるものだという意識が日本で生まれ育った子供よりも強いということはあるかもしれない。

「別姓婚により家族の絆が失われ〜云々〜」

苗字を変えたぐらいで家族愛が強くなるなら、誰も苦労はしない。そもそもほとんどの日本人が苗字を持つことが許されたのはこの150年である(平民苗字許可令)。法律婚をしていても離婚率が3割という現状を、このような主張をする方々は一体どうお考えなのか、一度、真っ向から聞いてみたい。私のパートナーと子供たちは、姓が違うだけでごくフツーの(そして多分、仲が良い部類の)「家族」である。名前や血縁ではなく、一緒に共有した時間の記憶が、その人たちを家族たらしめるのではなかろうか。

私を溺愛した母方の祖母は、母にとっては継母(母の父と再婚した女性)で、私とは全く遺伝的な繋がりがなかった。私はそのことを高校生ぐらいになるまで知らず、そのことを聞かされた時には、溺愛されていた事実との整合性がつかず(溺愛しているぐらいだから、血のつながりがあるんだろうという私の中でのアンコンシャスバイアスがあったと推測)、ある意味、衝撃を受けた。この経験から、家族を家族たらしめるのは、共に過ごした時間とその記憶であると確信するに至った。私は子供たちをそれなりに愛している自覚はあるが、彼らがもし取り違えっ子で自分の遺伝子を全く受け継いでなかったとしても、1ミリもその愛情に変わりはないと断言できる。いわんや、苗字が違うことなどは、家族を構成する上で、全くなんの支障もない。また逆に、たとえ姓を同じにしても、夫への愛が深まることはないだろう(キッパリ)。

「パートナーが死亡した際の経済的基盤」

これは確かに問題だと思う。自分に収入があったら困らないが、そうでない場合は、法律婚をしてないとパートナーが死亡した際に遺産相続ができず、経済的に困窮する事態に陥る可能性がある。子供がいれば子供が遺産を相続することになるが、いない場合は、パートナーの遺産はパートナーの親族に相続されることになる。特別縁故者として申し立てればその限りではないが、配偶者控除を受けることはできないので、相続税は法律婚のカップルよりかなり不利な条件となる。つまり、私が個人的に法律婚をした方がいいんじゃないかなと思うケースは、「収入に差がある、子供がいないカップル」ぐらいじゃないかと思う。

「家族割や家族特典、不動産などの共同財産」 その他、例えば携帯の家族割など、使えなくて不便じゃないかと思われるかもしれないが、実は私は家族割が使えなかったことは一度もない。民間のそのようなサービスは生計を共にしていれば家族と認定される。不動産の共同ローンも、若干の書類を提出したら、問題なく認められた(普通は法律婚のカップルのみに認められるらしい)。多分これは、生計を同じくする、子供もいるカップルであることだったことが大きいと思われる。


法律婚をしていないカップルに起きるかもしれない不利益を避けるべく、大阪府に設置されている「パートナーシップ制度」を利用しようと見てみたら、たったの8つの市でしか実施されていない上に(2022年9月現在)、「性的マイノリティ当事者の方を対象」に限っている。もちろん法律婚ができない同性カップルの権利は守られるべきだが、法律婚をしたくない異性カップルも含めてくれると嬉しいなと思う。まあ法律婚ができる状況で、「しない」選択をしているのはお前だろうと言われたらその通りなので、ぼそっとつぶやくにとどめておくのだが。

だからこのまま日本中が法律婚しない人で溢れる社会になったらいいなと実は思っている。フランスのような状況になるのだろうが、やらなくても困らないことをやらないのが社会を変える一助になるのではないかと思う。