私はコテコテの泉州・岸和田人である。自慢じゃないが駅前商店街で生まれ育ち、ハタチまでは地車(だんぢり)を轢いていたのである。泉州のオナゴとして胸を張って言えるのは、「ドスの聞く言い回しがうまい」ことである。齢50を迎えんとするこの年になってようやく丸くなってきたが(きっと、多分)、元々がガラが悪いのである。子供が宿題をしない、目も当てられない成績をとる、お願いしていた家事労働を分担せず眠りこけていた、等々の事態が出来すると(大体は息子だ)、我が家に泉州弁の怒号が轟き、逃げ足の早い猫がカーテン裏に隠れて身を震わせる。

泉州弁の怒号とはかくの如きおっさん言葉だ↓ 参考までに私がよく発するフレーズをマイルドな順に並べてみる。 なめとんのか、コラ > シバく、コラ > いてまう、ワレ > どつく、オンドれぇ!

しかし語尾が「ぞ」のうちはまだいい。これが本当にキレると、語尾が「ど」になる。もうそれはそれは、おどろおどろしいオッサンの泉州弁である。

シバく、コラァ💢 いてまう、ワレェ!💢

かように、語尾が「ど」になることは滅多にないが、なったときは本当にヤバイ。

私はそんな風に親に怒られたことはほとんどない(と思う)。親に説教して怒鳴られたことは多々あるが、「素行が悪くて怒られる」というのは未経験なので、正直、新鮮でもある。だいたいからして30年も前に金になりそうにない理学部に進学し、あまつさえ博士号をとってしまうオナゴなぞ生意気以外の何者でもないので、小学生の頃から親に説教していた。

で、うちの子供達は私に説教するかと聞かれれば、しない。母親に返り討ちにあって終了である。

子供たちとおどろおどろしい泉州弁で怒鳴り合いたいと(ちょっとだけ)思う。岸和田はおろか、日本ですら育たなかった我が家の子供たちの怒りの日本語ボキャブラリーは貧弱である。さすがにもうしなくなったが、以前、娘が本気で怒った時に英語で罵声を浴びせられてボーゼンとしたことがある。怒りや悲しみにとらわれた人間が咄嗟に発する言語、魂の叫びがその人の母語である。寂しいなと思う。娘とは「魂の言語」が違うのだ。そんな一抹の寂しさを抱えて、ボヘミアンな人生は過ぎていく。