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Vol.3
大学院生小倉もな美さんと行く石井研究室ツアー 見えたもののその先に 2021.10.8

9月になったばかりのある1日。吉森研究室(細胞内膜動態研究室)D3小倉もな美さんと石井研究室(免疫細胞生物学研究室)を訪問。石井教授のお部屋をノック、そこからインタビューが開始。

教授室にて
どんな研究?研究室の歩み

小倉もな美(→小倉):D群の実習*ではお世話になっています、小倉です。最初にいきなりですが、どのようなきっかけと経緯で現在の研究に至っていますか?

  • *プロジェクト研究:博士課程の後期、自分の研究とは別途、他の研究室のもとで自分の興味や目標に合った研究に参加する科目

石井優(→石井):結構フォーマルな質問からですね。改めてという感じですが、免疫細胞の「動き」に注目して研究しています(詳細は石井研究室HP参照)。免疫は機能を発揮するため、色々なところに自ら出かけてゆき、あちこちで働くものですから、細胞のダイナミクス(動き)こそが重要です。そこで、ライブイメージング技術を使ってどうやって免疫細胞が生体内で動いているのかを観察していますが、その結果、思いもよらない発見や特殊な動きや働きをする新しい細胞がわかってきています。でも、これができるようになったのは最近です。以前は顕微鏡観察といえば、試料を化学固定した上での静止画像がメインで、形態学を想起させるものでしたが、私たちはオリジナルな系を立ち上げ、まさに生きたままに動きを捉える=動態学として、動きそのものを研究対象として扱えるようになってきました。技術の向上と我々の興味が上手く一致し、今があります。小倉さんは今回初めて、ライブイメージングに触れてみてどうですか?

小倉:独自に培われてきたというか、すぐに他のラボでは真似できそうにない印象でした。特別なツールがあるのは強みだと感じました。

石井:そうですね。通常、光学顕微鏡だと湿度を保ち、一定に整えられた条件で、(サンプル固定をして)きちんと綺麗に見る、という印象はないでしょうか。でも生き物って実際、動くし、もっと生っぽいものですから、生きた状態で見られないか、ということを考えた訳です。そのためには特殊な条件で見えるような工夫や技術が必要になります。この技術は独自のものですから、それを求めて来られる学生さんや共同研究者は少なくないと思います。

小倉:以前はホームセンターに通い、お手製の固定具を作成されていたと聞いて驚きました。

石井:始めた当時はそんな感じでした。動物の状態をできるだけ健康なままに、組織や臓器を動かさずに固定して観察するのは思うより難しいのです。全体は1ミクロンも動かさずに、でも(内側で)動く細胞を捉えたいという矛盾がありましたから。それなりの(教科書にない)メソッドや工夫が必要なわけです。そのためのツールを手探りに自作しましたが、失敗作は数知れません。旋盤とかハンダゴテを使って器具からの作成でしたからね。しかし、ラボのメンバーも増え、いつまでも手作業というわけにもゆきません。各種技術の向上もありましたし、より汎用性の高いものを、と業者さんと連携して市販のデバイスも作ってきました。そういう作業が好きな人はここでの研究に向いていたかもしれません。

小倉:職人技ですね、私は今回ここで画像を撮らせてもらったのですが、ブレてしまったりで、スキルも大事なんだな、と思いました。

石井:やっていたらできますよ。カメラマンと同じです。とはいえ、同じものを使っても熟練の技ってありますから、誰がやってもすぐできるものでもなく、ある程度の慣れは必要です。でも皆さん大抵、数か月くらいで習得されます。だからコツやノウハウを教えあうみたいなものも大切になってきます。誰かに教えてもらわないとどうにもならないですからね。

小倉:そのような教えあいの環境は大切ですよね。1週間滞在してみて、ラボ内で実験の話や研究のサジェスチョンが随所で行われていて、自分以外の研究テーマに対して情報を共有、アドバイスし合う、そんな雰囲気があるなあ、と。

石井:そうありたいと思っています。科学の中でも理論物理学者、数学者などは、一人の頭の中で向き合うものかと思いますが、ライフサイエンスは、自分一人でやるには無理があります。テクノロジーの力も必要な訳で、やはり自分以外の人と情報交換し、技術を取り入れ、ディスカッションを重ねることで、見えてくることがあり、展開して行きますから。だから、ラボミーティングだけではなく、色んなやりとりが随所で飛び交い、誰に何を聞いても良い雰囲気が成り立つラボにしたいと常に思っています。人が集まっていても、個人だけで仕事をしていたらそこにいる意味はないですよね。自分の仕事以外にも興味を持って情報交換、交流することがすごく大事だと思っています。

テーマの進め方

小倉:テーマの進め方はどんな感じでしょうか。

石井:基本的にラボ内は、グループ分けなく、学生もスタッフ誰からでも何らかの指導が受けられる形ですよ。学生さんには、ファーストコンタクトができるスタッフは決めていますが、誰にでも聞いたら良いと思います。タテ割りにしてしまうとギスギスする心配もありますが、それよりスキルの習得や共有が叶わないと勿体ない。研究自体は一人で主体的に進めるものだと思いますが、一方で完全に独立してやれるわけじゃないから、やはり自由に聞けること、そういう雰囲気は大切です。研究って人で創っていくものですからね。だから一人ずつのテーマを独立して持ってもらうようにと思っています。一人で複数のテーマを行うケースはありますけど、一つのテーマを複数人ですることはありません。プロジェクトをシェアすると自分がしなくても済むようになりますからね。自分がエキスパートになって欲しいというか。自分しかできないって誇りですよね。自分しかやれない感覚といいますか。もちろん、ライバルでもありますが、多くの人と情報を共有し、協力し合い、それぞれがそれぞれの場所で、いい仕事をしようという雰囲気にできればと思っています。現場の連帯感も大切にして欲しいと思っています。

小倉:独自性を尊重されつつ、協力関係が取れるのは理想的ですね。

ラボの1日

小倉:さて、ラボの1日はどんな感じですか?

石井:現場でも聞いてもらえればと思いますが、人それぞれですよ。時間は細かく管理したくないですからね。特に生き物を扱う実験の準備には相応のステップもあり、プランによっては夜遅くなることもあるわけですから、無駄に周りの目を気にして意味なく長時間やるのは無駄です。進捗の把握は、週一回のミーティングで報告がありますし。実験系はやり出したら長い日もあり、サンプルの調整が上手く行く日もあればそうでない日もあって、どんどんできる日、進められる日は一気にやってしまうのも手です。ライブイメージングは農業というよりは、狩猟みたいなイメージでしょうか。時間をかければよいともいかないのが難しいところです。

小倉:実験の再現性や有意差の取り扱いはどんなでしょうか。

石井:イメージングで、見えましたということだけで、論文になっていたのは昔の話。奇跡の一枚じゃダメです。イメージングも定性的ではなく、定量的に数字として抽出するのは大事ですね。

小倉:数値化には課題を感じることはあります。(自分の実験系でも、、、)

石井:画像データからどう数値を抽出するか、パラメーターの設定が鍵です。

小倉:難しくないですか?

石井:いや面白いですよ。昔、細胞の混在度(混じり合っているように見えた)をどうやって表せばいいのか、を考えた時のことですけどね。混じり合いは見えるけど、その様子をどう数値として統計的に示すか。で、ジニ係数*って社会学で使われる数字があるのですけどを使えば、見ていた現象を示すのに有効だった経験があります(Furuya et al., Nature Commun, 2018)。

  • *イタリアの統計学者コラド・ジニにより考案された所得の不平等さを測る指標

小倉:なるほど。いろんな切り口から解が得られるのですね。

石井:見えてきたことで終わりではなく、そこからなんですよ。それ故にイメージングツールをやみ雲に使うばかりでもなく、実際何を見出そうとしているのか、その塩梅も大切です。つまりイメージングに振り回されないというか、たかがイメージングされどイメージングということですね。

小倉:パワフルなツールだからこそ、それに囚われすぎないということでしょうか。

石井:見えてからが勝負!ということで。では、現場の方も見学して見てください。

小倉:これからますます面白いものが見えてきそうな予感ですね。ありがとうございました。

実験室にて

准教授の菊田先生の案内で実験室へ。皆さん、黙々と実験。イメージング実験の準備をされている方、画像処理されている方、各々忙しそうです。

菊田順一(→菊田):先ずは、石田さん(上の写真右端、D1)に何の画像を見ているのか聞いてみましょうか。

石田彩佳(→石田):肝臓のイメージング画像です。肝臓に炎症を引き起こしたマウスを観察していて、白く抜けしている部分が傷害を受けた部分です。

小倉:白い部分に炎症性の細胞が集まってくるのを見たりするのですか?

菊田:そうです。そこに集まってくる細胞を蛍光標識して、可視化できます。病気と健康なマウスでの違いを比較したり、薬剤で炎症が抑えた時に、細胞の動きがどう変わるのか解析したりしています。

小倉:この実験をする時の課題はありますか?

石田:肝臓は肺に近いので、呼吸による横隔膜の動きの影響で画像がブレがちなことですね。

小倉:コツを掴むには誰かに聞く感じですか?

石田:肝臓のイメージングをやっている先輩がいるので、その方に聞いてあとは試行錯誤ですね。研究室に入るまで、全く扱ったことないものだったので、慣れるまで大変でした。

小倉:実習でこの研究室に1週間滞在しているとあちこちで皆さんがディスカッションや質問しているところに出くわすのですが、石田さんもよくディスカッションをされているのですか?

石田:もちろんです。皆さんのイメージングのノウハウは観察臓器が違っても応用できるものはありますし、蓄積されたアイデアは教えてもらえたら助かりますね。

小倉:誰でも聞ける雰囲気があって、教えてもらえるのは心強いですね。

菊田:他の研究室とのコラボレーションも沢山ありますから、こういったコミュニケーションが普通に起きやすい素地はあるかもしれません。医学部だけじゃなくて、情報科学研究科や工学部など分野の異なるラボともコラボレーションしています。画像解析の時にプログラミングが必要になることもありますので、餅は餅屋に聞いています。

小倉:新しいアイデア、解釈はこういったところから得られるのかもしれませんね。ちなみにどのくらいの時間間隔で見ていくのですか?

石田:この画面は30秒おきに撮影しています。

菊田:見ている臓器や細胞で、時間の設定は随分違いますよ。血管の中を流れる細胞を見る時は秒単位で撮影しますが、本当にちょっとずつしか動かないような細胞を見る時は30分間隔で画像を撮ることもあります。がん細胞とかとてもゆっくりですね。夜通し細胞を追いかけることもよくあります。

小倉:難しいもの程、撮れた時は嬉しいでしょうね。セルバイオロジーだと、予測しつつ観察を進めていくような場面もありますが、それとは違う感じでしょうか。

菊田:そうですね、観察によって見えたことが、一体何を意味するのか考えることも少なくないです。生体で実際に起こっている生命現象を見ているので、培養条件の細胞で見ているものとも結構違いますね。

岡本徳子&上野沙和(→企画広報室):NHKの人体とかの(免疫の)映像とかって、ここで見ているものに近いですか?

菊田:実際取材班が来られてますよ、結構緻密に再現されています。

小倉&企画広報室:いろんなお話をどうもありがとうございました。

実験中の鈴木さん(D3)へ直撃インタビュー

小倉:初めまして。突然ですが、どんな実験をしているのですか?

鈴木章生(→鈴木):僕は肺線維症の病態形成に関わるマクロファージを見ています。肺のイメージングを使ってコラーゲン線維を可視化して、線維の過剰な蓄積過程を調べたり、どういった種類のマクロファージが病気に関わっているかを研究しています。学部の時は大腸菌を扱っていたので、全然違う分野から石井研に移りました。以前は遺伝子に変異を入れて抗生物質耐性の指標でスクリーニングするような実験系でしたが、生体の組織を観察することで、実態が具体的に見えるような研究がやってみたいと思うようになったんです。

小倉:スケール感とか見るものが違うと驚きや気づきがありますね。私は学部時代にマウスを使って肺の研究をする中で、細胞の中で何が起こっているのかに興味を持ち、今の研究室に入ったので逆ですね。日頃、こういう話を同級生としたことがなくて興味深いです。同じ学年ですけど、研究室が違うとなかなか話せる機会ないですね。

鈴木:修論発表会(中間考査)でこんなに人がいたんだ、みたいな。

小倉&鈴木:そうですよね。

その後、研究のこと、研究科、コロナ禍の日々あれこれについて話が弾みました。

小倉:色々話を聞かせて下さりありがとうございます。日々の研究とは異なる実験をして、研究室以外の人と話す機会が与えられたことで、新たな気づきもあり、貴重な時間でした。

最後に(上記には書ききれなかったのですが)鎗伸弥さん(D3)の画像撮影現場へお邪魔、見学させてもらいました。たまたまD3三人が揃い、和気藹々と話に花咲きました。今日は良い画像が撮れているとのことで、ウキウキと実験に専念しておられた様子が心に残っています。夜更けまで篭る、とのことでしたがその後は上手く進んだことでしょうか。何より、皆さん熱心に、研究を進められている姿が印象的でした。特に「技術や知識は、詳しい人(誰かに)教えてもらえるから」この言葉を幾人からも聞きました。研究の積み重ね、簡単なことばかりじゃないかもしれませんが、周りと躊躇なく協力しあえる環境はなんと心強いことでしょう。最先端の機器を使うとはいえ(だからこそ)職人的な感覚も必要であることに改めて気づかされました。最先端のツールと智慧を結集して研究に没頭できるとは、理想的な研究環境。メンバーの皆様のご活躍、さらなる研究の進展に期待が膨らみました。ご関係者の皆様には貴重な時間に感謝いたします。

(岡本徳子&上野沙和)

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