リトリート・交流会 FBSリトリート2024
日時 | 2024年6月6日(木)〜7日(金) |
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場所 | 淡路夢舞台 |
ふだんはできない交流を
新玉ねぎの旬も過ぎようとしている六月上旬、当研究科のメンバーが淡路島に集いました。もちろん、とことん研究の話題で盛り上がり、また、将来の研究につなげるためです。泊まりがけで交流するイベントはしばらく行われていませんでしたが、教職員も大学院生も、ざっくばらんに話し合う絶好の機会です。新しい研究室が次々と立ち上がるなか、リトリートの開催が久しく望まれていましたが、ようやく実現しました。五年ぶりの開催でした。
参加したのは博士号取得へむけてトレーニング中の大学院生から研究室を主催する教授まで、肩書きも経験もさまざまです。留学生もいます。研究分野もさまざまで、染色体生物学、RNA生物学、発生学、バイオインフォマティクス、腫瘍生物学、皮膚科学、生物物理学、細胞生物学、生化学、分子生物学、ウイルス学、神経科学、免疫学、エピジェネティクスなど、垣根のない交流からなにか新しい「学」を想像してみたくなります。
ふだんは同じ研究科にいても隣の研究室のことを知る機会はほとんどありません。分野が異なれば、なおのことです。研究室での実験や議論にほとんどの時間を使うのですから、それもそうなのですが、もったいない。他の研究室の人とのちょっとしたやりとりから問題解決のヒントが得られたり、おもしろいアイデアがわいてきたりします。研究室を離れたところでの出会いから、共同研究が始まるかもしれません。
ほぼ一日で共同研究提案!?
たしかに、研究者は議論することがとても好きですが、それでも分野が異なれば、控えめになるでしょう。分野の異なる研究者どうし、どうしたら交流が盛り上がるでしょうか。ふだんは顔を合わせることのない人どうし、新たな出会いを楽しみ、研究の仲間を増やしたいところです。
このたびの交流で、どのようなコラボレーションが生まれるのでしょう。あたらしい共同研究の提案をきいてみたいものです。リトリートの二日間でそれが叶えば、すばらしいのですが(ちゃんとした計画までするのはハードルが高すぎますので)研究費を申請するときのような計画を求めるのは、現実的ではありません。だからといって事前に提案を募るのも(なんのためのリトリートなのか、わからなくなってしまいますので)なかなか、悩ましい。
それならば、ぶっとんだ夢のような研究(計画)をパッと発表できるくらいなのがいいでしょう。その場でパートナーを探してチームを組んでもらい、舞台でひとつ夢を語ってもらいましょう。また、せっかくですので(競争的研究費制度ではありませんが)審査員に評価してもらい、その場でのチャンピオンも決めます。
「C-1グランプリ」です。若手漫才師の日本一を決める某テレビ番組を思わせますが、笑いのバトルではありません。「C」は「Collaboration」のこと。コラボレーションがもたらす突き抜けた研究計画が期待されます。共同研究提案のコンペティションです。リトリートは出発点にすぎません。その場での発表はエントリーとし、本戦へ進む(その後ちゃんと申請書のようなかたちで提案する)権利を得られます。本審査で認められた場合、研究科の支援を受けられるのです。
C-1グランプリへ向けてホップ、ステップ、ジャンプ
学会でも定番のポスター発表は欠かせません。ですが、それだけではそれぞれ既に興味のある話題に終始してしまうかもしれません。大勢の聴衆の前での口頭発表でも、全員が対話的になることはないでしょう。ふだん接しない研究者との交流をも促すなにかが求められるところです。
今回のリトリートでは「ワールドポスター」という少人数の場で対話を繰り返すワールドカフェ形式の交流を取り入れました。複数のテーブルに別れ、テーブルごとに司会の案内で個人の研究概略を説明し、それについての議論をします。三人分のサイクルが終わると、テーブルに司会の一人を残し、残りの参加者が異なるテーブルに散らばって、また研究説明と議論を行います。それを繰り返すことで、たくさんの参加者と交流ができます。C-1グランプリでのパートナー探しの第一歩でもあります。
ワールドポスターでは研究科で行われている研究について広く、要点を知ることができます。そこで興味を持った研究については、ポスター発表の時間に詳しくきくことができます。より自由に他の研究室の人と議論できる時間でもあります。ワールドポスターからポスター発表へ。そしてパートナーを見つけてC-1グランプリへ。
C-1グランプリにエントリーしてみたい気もするけれどアイデアやパートナーが見つからなくて・・・という参加者のために、にわかに相談ブースも開設されました。専門や関心などプロフィールをきいて研究者のマッチングをすることで、何組ものチームが生まれました。
教授がとっておきの一枚を全力で語る
今回の企画のなかでも注目を集めたのは、教授による教授本人についての話です。いまや研究室を主催して数々のプロジェクトを率いている教授は、どのようにして研究者として生きる道を選んだのでしょう?どのような発見、どのような人との出会いがその道を決定づけたのでしょう?このたびは「この一枚が人生を変えた!」といえる図、写真などを選んで原則スライド一枚で語っていただきました。持ち時間は十分間。
ある教授は大学院生時代に寝食も忘れるほど取り組んだ問題を、ある教授はポスドクとして留学した研究室の恩師との写真を、またある教授は研究費獲得の面接で使用したスライドを持ち込むというふうに、次から次へと展開されました。ひらめきの瞬間の興奮や、チャンスを逃さないようにするヒント。また、なぜ研究をするのかという問いかけなど、ふだんはきくことのない話ばかりです。
本音で話したい
博士課程の大学院生(当研究科では三年次以降)はそれぞれの研究室でどのようなことを想い、日々を過ごしているでしょう。成果のあがらない日々に悩みながらも研究者になることをあきらめないようにしていたり、あるいは、研究は楽しいけれどアカデミアではない進路が良いのかと思ってみたり・・・ほんとうのところ、どうなのでしょう?
ふだんはきけないことでも、本音をきいてみたい!ということで、大学院生チームが全員参加型のセッションを企画してくれました。それぞれが抱えている悩みや不安を取り上げてパネルディスカッションをしようというものです。パネリストとして大学院生二人と、教授、准教授、助教それぞれ一人ずつ、あわせて五人が登壇しました。新任の教員もいます。
舞台のスクリーンにはライブアンケートの様子が投影され、客席もリアルタイムに参加できます。所属している研究室はどんな雰囲気?あらためて入学するとしたら、どの研究室がいい?研究室のメンバーに求めることはなに?という問いかけもあれば、進路の相談もあります。失敗談なども、きいてみたくなるものです。どのようなことでも、大学院生と教員が交わし合うことで、より良い研究科となるのでしょう。
コラボレーションの王者は?
さまざまな困難をのりこえ、十九組もの挑戦者がC-1グランプリの舞台に立ちました。準備にたったの一日です。パートナーを探さないとならない焦りや、発表の準備が十分でない不安もあったと思います。実現可能な研究かどうかも不確かなままでしょう。大学院生にとっては、大勢の聴衆の前で発表することすらはじめてだったかもしれません。それでも、立案をとことん楽しんでいるのはすぐに伝わります。
薬剤耐性菌に対する新薬の開発を目指すもの、ブレイン・マシン・インターフェースの技術を改良しようとするもの、タンパク質の超解像イメージングを試みるもの、音楽のここちよさを解明しようとするもの、デジタル生物学を開拓しようとするものなど、審査員を本気にさせるほど自由な発想が湧き上がりました。
エントリーされた共同研究提案は、本戦へむけてさらに磨き上げられるのでしょう。また、このたびのリトリートでアイデアにならなかったとしても、たくさんのタネができているのではないでしょうか。これから研究科に芽生え、花咲く研究を楽しみにさせてくれます。