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「HOIL-1」酵素が細胞内のタンパク質の塊を柔らかく保ち、分解を助ける仕組みを解明

―タンパク質の塊の「硬さ」を調節する新たな仕組みを発見―

原著論文 EMBO Journal (2026)
論文タイトル Excess Met1-linked ubiquitination leads to solid aggregate formation
研究室サイト ユビキチン生物学研究室〈池田 史代 教授〉
概要

大阪大学大学院生命機能研究科のStephanie Kaypee招へい研究員(共同筆頭著者)、宮坂実祈さん(博士前期課程、共同筆頭著者)、池田史代教授(責任著者)らは、順天堂大学大学院医学研究科の小松雅明教授らとの共同研究により、細胞内に生じる異常なタンパク質の塊が硬く固まるのを防ぎ、オートファジーによる分解を促進する酵素「HOIL-1」の重要な役割を明らかにしました。
これまで、アルツハイマー病などの神経変性疾患では、ユビキチンが異常タンパク質の除去に関わる目印として働くことは知られていましたが、その詳細な仕組みはよく分かっていませんでした。
今回の研究により、HOIL-1が線状ユビキチン鎖の量を適切に調節し、その結果、タンパク質の塊が柔らかい状態に保たれ、オートファジーによる分解が進むことが分かりました。この成果は、神経変性疾患の新たな治療法開発につながることが期待されます。

研究の背景

私たちの細胞では、毎日新しいタンパク質が作られる一方で、古くなったものや異常なものは分解され、健康な状態が保たれています。しかし、アルツハイマー病やパーキンソン病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経変性疾患では、異常なタンパク質が塊となって蓄積し、神経細胞に障害を与えることが知られています。
細胞には、こうしたタンパク質の塊を取り込んで分解する「オートファジー」という仕組みがあります。しかし病気の細胞では、なぜこの仕組みが十分に機能しなくなるのか、その理由はよく分かっていませんでした。また、タンパク質の塊には「ユビキチン」と呼ばれる目印が付けられますが、この目印がタンパク質の塊の性質や分解にどのような影響を与えるのかは、十分に分かっていませんでした。

本研究の成果

研究グループは、細胞内で分解の目印(荷札)として働く「ユビキチン」というタンパク質、特に「Met1結合型(線状)ユビキチン鎖」に着目しました。通常、この目印の量は「HOIL-1」や「OTULIN(オチュリン)」といった酵素によって適切に調節されています。
今回の研究では、HOIL-1の働きを失わせた細胞や、線状ユビキチン鎖を取り除く酵素であるOTULINを減少させた細胞を用い、特殊な顕微鏡技術によってタンパク質凝集体の性質やオートファジーの働きを詳しく解析しました。その結果、次のことが明らかになりました。

  1. 目印が増えすぎるとタンパク質凝集体が硬くなる
    HOIL-1の機能が失われると、線状ユビキチン鎖が異常に蓄積します。すると、通常は液体のしずくのような性質を持つ「p62ボディ」と呼ばれるタンパク質の塊が、分子同士の結びつきを強めて硬い状態へと変化(相転移)することが分かりました。
  2. オートファジーによる分解が進まなくなる
    硬くなったタンパク質凝集体では、オートファジーによるリソソームへの輸送・分解が進みにくくなります。その結果、オートファジーによる分解が滞り、異常なタンパク質の蓄積が促進されることが確認されました。
  3. Met1結合型(線状)ユビキチン鎖を減らすと分解が回復する
    さらに、HOIL-1の機能を失った細胞において、線状ユビキチン鎖を取り除くOTULINを増加させると、過剰な線状ユビキチン鎖が減少し、タンパク質凝集体の性質が変化するとともに、その蓄積量も大きく減少することが分かりました。

これらの結果から、Met1結合型(線状)ユビキチン鎖の量を適切に保つことが、タンパク質凝集体の液体的な性質を維持し、オートファジーによる効率的な分解を進めるうえで重要であることが示されました。

研究成果のポイント
  • HOIL-1(ホイル・ワン)という酵素が、Met1結合型(線状)ユビキチン鎖の量を調節することで、細胞内のタンパク質の塊を柔らかい状態に保ち、オートファジーによる分解を助けることを発見しました。
  • アルツハイマー病などの神経変性疾患では、なぜ異常なタンパク質の塊が除去されずに蓄積するのか、その仕組みは十分に分かっていませんでした。
  • タンパク質の塊の物理的な性質を調節するという発見は、神経変性疾患の新たな治療法を考える手がかりになる可能性があります。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

アルツハイマー病などの神経変性疾患では、異常なタンパク質の蓄積が病気の進行に深く関わることが知られています。しかし、なぜ細胞の分解システムが十分に働かなくなるのか、その仕組みはよく分かっていませんでした。
今回の研究により、HOIL-1による線状ユビキチン鎖の調節が、タンパク質凝集体の「硬さ」や「流動性」といった物理的な性質を変化させ、オートファジーによる分解に影響することが示されました。今後、HOIL-1やOTULINによるMet1結合型(線状)ユビキチン鎖の制御機構について理解が進めば、硬くなったタンパク質凝集体を再び分解されやすい状態へ戻し、細胞本来の掃除能力を回復させる新しい治療法の開発につながる可能性があります。
本研究成果は、アルツハイマー病やパーキンソン病など、異常タンパク質の蓄積が関わるさまざまな疾患の治療法開発に新たな視点を提供するものと期待されます。

研究者のコメント

異常タンパク質につく「目印」が多すぎることで、かえって分解されにくくなるという結果は予想外でした。共同筆頭著者のKaypeeさん、宮坂さんらが粘り強く実験を重ねたことで、この発見につながりました。今後は動物モデルで検証を進め、神経変性疾患をはじめとする様々な病気の理解と治療法の開発に役立てたいと考えています。(池田 史代)

特記事項

本研究成果は、2026年9月28日(月)18時(日本時間)に欧州科学誌「EMBO Journal」(オンライン)に掲載されました。

なお、本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP21H04777, JP23K19350, JP23K20044, JP24H00060, JP25H01323, JP24K01971, JP24H01882, JP26H00923)、日本医療研究開発機構(AMED)(JP22gm1410004h0003, JP25gm6910004)、武田科学振興財団、「大阪大学産学連携プロジェクトMEETおよび田辺三菱製薬株式会社」などの多大な支援を受けて実施されました。また、順天堂大学大学院医学研究科の小松雅明教授、坂巻純一氏らの協力を得て行われました。

図1 HOIL-1によるタンパク質凝集体の分解制御モデル。HOIL-1が正常に働くと(左)、タンパク質凝集体は柔らかい状態に保たれ、オートファジーによって効率よく分解されます。一方、HOIL-1の機能が失われると(右)、線状ユビキチン鎖が過剰に蓄積して凝集体が硬くなり、オートファジーによる分解が進みにくくなるため、細胞内に蓄積します。

用語解説
  1. オートファジー
    細胞に備わった分解システムの一つです。不要になったタンパク質や細胞内の構成要素を膜で包み込み、リソソームへ運んで分解します。
  2. ユビキチン
    細胞の中で、不要になったり異常が生じたりしたタンパク質に付けられる小さなタンパク質です。タンパク質の運命を決める「目印(荷札)」として働き、分解や細胞内での輸送などを調節します。
  3. Met1結合型(線状)ユビキチン鎖
    ユビキチン同士が一本の鎖のようにつながった特殊な構造です。細胞内の情報伝達や、オートファジーによるタンパク質凝集体の除去を調節する重要な役割を担います。
  4. 相転移(そうてんい)
    細胞内では、一部のタンパク質が集まって、水滴のような柔らかい構造をつくることがあります。この現象を液-液相分離と呼びます。一方、このような柔らかい状態が失われ、より硬い状態へ変化することを「相転移」と呼びます。
原著論文 EMBO Journal (2026)
論文タイトル Excess Met1-linked ubiquitination leads to solid aggregate formation
著者

Stephanie Kaypee (1, 3), Minori Miyasaka (1, 3), Takuto Nakajima (1), Hiromi Nishimura (1), Jun-ichi Sakamaki (2), Masaaki Komatsu (2), Fumiyo Ikeda (1)

  1. Graduate School of Frontier Biosciences, The University of Osaka, 1-3 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japan
  2. Department of Physiology, Juntendo University Graduate School of Medicine, 2-1-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8421, Japan
  3. These authors contributed equally.
PubMed 42806159

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