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老化進行や神経変性疾患などの発症メカニズムの解明へ

オートファジーが開始する仕組みを解明

ULK1のパルミトイル化が鍵

原著論文 Nat. Commun. 15(1):7194 (2024)
論文タイトル Palmitoylation of ULK1 by ZDHHC13 plays a crucial role in autophagy
概要

大阪大学大学院生命機能研究科細胞内膜動態研究室の田端桂介助教(研究当時、現:順天堂大学大学院医学研究科生理学准教授)と濱崎万穂准教授、医学系研究科保健学専攻総合ヘルスプロモーション科学講座の吉森保特任教授の研究グループは、欧州分子生物学研究所(EMBL)のRainer Pepperkok教授らとの共同で、オートファジーの開始に必要な新たなメカニズムを明らかにしました。

オートファジーは、細胞内の不要な分子や構造物を分解する仕組みで、オートファゴソームという膜構造で囲み、リソソームで分解されます。このオートファゴソーム形成には複数のオートファジー関連タンパク質群が協調して機能することが知られています。

これまでに研究グループは、細胞内のミトコンドリアと近接する小胞体膜上でオートファゴソーム形成が起こることを明らかにし、オートファジー関連タンパク質群のひとつであるPI3K複合体がオートファゴソーム形成に必須であることを見出しています。そのPI3K複合体の活性を制御するのがULK1複合体です。ULK1複合体は、オートファジー開始時に細胞質からオートファゴソーム形成部位である小胞体膜上に移行することが知られていますが、そのメカニズムや重要性はよく分かっていませんでした。

今回、研究グループは、ZDHHC13という酵素がULK1をパルミトイル化し、オートファゴソーム形成部位に局在させることを発見しました。ULK1のパルミトイル化により、PI3K複合体のATG14Lタンパク質がリン酸化されることで、PI3K複合体の活性化、オートファジーの開始につながります。

オートファジーが開始する際の分子メカニズムの解明により、分子機構の解明が進むだけでなく、オートファジーが関連する老化進行および神経変性疾患などの病態発症、進行の理解につながることが期待されます。

 

研究の背景

オートファジーは、細胞内の成分をリソソームに運んで分解する細胞内の仕組みです。オートファジーはその分解によって、通常、細胞成分を少しずつ入れ替えることで細胞内の恒常性を保っています。また、細胞内の栄養不足、細胞内小器官(オルガネラ)の損傷、病原体、凝集した異常蛋白質蓄積などによってオートファジーが誘導され、栄養源確保や異物の除去等に貢献することが知られています。オートファジーは、ガンや神経変性疾患のような病態の発症や進行に関与すると言われ、近年では老化や寿命にも影響することが明らかになってきました。オートファジーでは、細胞内にオートファゴソームと呼ばれる特徴的な膜構造が形成されます。オートファジー開始やオートファゴソーム形成に関わる分子機構の解明に向けて、国内外で活発に研究が進められています。本研究グループでは、これまでに、細胞内のミトコンドリアと近接する小胞体膜上でオートファゴソーム形成が起こることを明らかにし、オートファジー関連タンパク質群のひとつであるPI3K複合体がオートファゴソーム形成に必須であることを見出しています。そのPI3K複合体の活性を制御するのが最上流ではたらくULK1複合体です。ULK1複合体は、オートファジー開始時に細胞質からオートファゴソーム形成部位である小胞体膜上に移行することが知られていますが、そのメカニズムや重要性はよく分かっていませんでした。

本研究の成果

今回、本研究グループは、オートファジー開始に関与する細胞内因子を探索し、パルミトイル化酵素であるZDHHC13を発見しました。ZDHHC13の発現抑制によって、オートファジー開始が阻害されることから、ZDHHC13による基質タンパク質のパルミトイル化がオートファジー開始に重要である可能性が考えられました。

また、候補基質タンパク質としてULK1に着目しました。ULK1はオートファジー開始時に小胞体膜上に局在することが知られています。および過去のパルミトイル化データベースの調査をもとに、実際に調べると、ULK1はZDHHC13によってパルミトイル化されることが分かり、その修飾に重要なシステイン残基を見出しました。そのシステイン残基に変異を入れてパルミトイル化されないULK1変異体を作成し、機能解析したところ、ULK1のパルミトイル化がULK1複合体のオートファゴソーム形成部位への局在に必要であることが明らかになりました。さらにULK1のパルミトイル化がPI3K複合体のATG14Lタンパク質をリン酸化に関わることでPI3K複合体の活性を制御することが分かりました。以上のことから、パルミトイル化によるこれらの一連の反応が、オートファジー開始に重要であると考えられます(図1)。

研究成果のポイント
  • オートファジーの開始に必要な新たなメカニズムを解明
  • オートファジーに必須なパルミトイル化酵素ZDHHC13を新たに発見
  • ZDHHC13によるULK1複合体のパルミトイル化を起点としてオートファジーが開始するというメカニズムを発見
  • オートファジーが関連する病態発症、進行の理解促進に期待
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

細胞の恒常性維持に必須な役割を果たすオートファジー研究において、どのようなメカニズムでオートファジーが開始するのかという分子機構が完全に分かっていませんでしたが、本研究成果により、ULK1のパルミトイル化がオートファジー開始の一連の反応を引き起こすトリガーになることが明らかになりました。ZDHHC13変異はハンチントン病などの疾患の原因となる可能性が指摘されており、オートファジーもガンや神経変性疾患のような病態の発症や進行に関わると言われています。今後、このような病気の発症機構の解明に貢献すると期待されます。

研究者のコメント

細胞内分解機構であるオートファジーは、栄養源確保だけではなく細胞内を正常に維持する機能があり、様々な病態発症予防にも貢献しています。オートファジーがどのような仕組みで開始するかを更に明らかにすることで、関連病態発症機構の理解が進むことを期待しています。(田端桂介(研究当時大阪大学助教、現:順天堂大学准教授)

特記事項

本研究成果は、2024年8月22日(水)(日本時間)に国際科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。

なお、本研究はJST戦略的創造研究推進事業CREST(吉森保、田端桂介、上西達也)、小野医学研究財団研究奨励助成(田端桂介)、UCL-OU共同研究プロジェクト(田端桂介)、科研費(吉森保、濱崎万穂、田端桂介、上西達也)、MSD生命科学財団研究助成(田端桂介)、新学術領域研究(吉森保、濱崎万穂)の一環として行われ、欧州分子生物学研究所(EMBL)のRainer Pepperkok教授らの協力を得て行われました。

図1.ZDHHC13によるULK1パルミトイル化がオートファジー開始に必須である
細胞がストレス環境に晒されると、ULK1複合体のULK1がパルミトイル化され、複合体はオートファゴソーム形成部位に集積する。そこでATG14Lを含むPI3K複合体を活性化することでオートファジーが開始する。

用語解説
  1. オートファジー
    細胞が自己の細胞内の一部の成分を分解する仕組み。オートファゴソームと呼ばれる脂質二重膜構造によって細胞内成分が隔離され、それがリソソームと融合した後、リソソーム内の加水分解酵素により分解される。初めてオートファジー関連遺伝子群を発見した大隅良典博士(東京工業大学特任教授)が2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
  2. リソソーム
    リソソームは、細胞内の分解の場としてはたらく膜に包まれた細胞内小器官であり、その内部には分解に必要な消化酵素を含んでいる。
  3. ULK1複合体
    オートファジー開始複合体であり、ULK1、FIP200、ATG13、ATG101の4つのタンパク質の複合体として機能する。ULK1はリン酸化酵素であり、細胞ストレスにより活性化したULK1は、下流因子をリン酸化し、オートファジー開始の一連の反応を開始させる。ATG14Lは、ULK1によってリン酸下される顆粒因子の一つとして知られている。
  4. パルミトイル化
    合成されたタンパク質に脂質が付加する反応のひとつ。基質タンパク質のシステイン側鎖のチオールに対して、主に飽和脂肪酸のパルミチン酸がチオエステル結合で付加する反応であり、S-アシルカ修飾とも呼ばれる。アシル化転移酵素ZDHHCファミリータンパク質がパルミトイル化酵素としてはたらく。パルミトイル化は細胞内で見られる一般的な修飾であり、基質タンパク質の局在や動態制御に関わる。
原著論文 Nat. Commun. 15(1):7194 (2024)
論文タイトル Palmitoylation of ULK1 by ZDHHC13 plays a crucial role in autophagy
著者

Keisuke Tabata (1, 2), Kenta Imai (1, 2), Koki Fukuda (1, 2), Kentaro Yamamoto (1, 2), Hayato Kunugi (1, 2), Toshiharu Fujita (1, 2), Tatsuya Kaminishi (2, 3), Christian Tischer (4), Beate Neumann (4), Sabine Reither (4), Fatima Verissimo (4), Rainer Pepperkok (4, 5), Tamotsu Yoshimori (1, 2, 3), Maho Hamasaki (1, 2)

  1. Laboratory of Intracellular Membrane Dynamics, Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University, Osaka, Japan.
  2. Department of Genetics, Graduate School of Medicine, Osaka University, Osaka, Japan.
  3. Integrated Frontier Research for Medical Science Division, Institute for Open and Transdisciplinary Research Initiatives (OTRI), Osaka University, Osaka, Japan.
  4. Advanced Light Microscopy Facility, EMBL, Heidelberg, Germany.
  5. Cell Biology and Biophysics Unit, EMBL, Heidelberg, Germany.
PubMed 39169022

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