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DNAワクチン等の課題に光!

生きた細胞で外来DNAが核に取り込まれるメカニズムを可視化

DNA治療薬の開発に繋がる新知見!

原著論文 Commun. Biol. 5(1):78 (2022)
論文タイトル Transfected plasmid DNA is incorporated into the nucleus via nuclear envelope reformation at telophase
研究室サイト 細胞核ダイナミクス研究室
概要

大阪大学大学院生命機能研究科の原口徳子特任教授、平岡泰教授らの研究グループは、細胞内に外から導入したプラスミドDNAが、核膜再形成がおこる細胞分裂期終期に核へ取り込まれていくことを、世界で初めて明らかにしました。

生命科学の分野では、遺伝子操作や目的タンパク質の発現を目的として、プラスミドDNAを細胞内に導入することが必須の技術となっています。プラスミドの細胞内導入には、安全性の高いトランスフェクション法として、非ウイルス性ベクターとトランスフェクション試薬が、よく使われています。このトランスフェクション法は、ウイルス性ベクターとウイルスを使ったトランスフェクション法と比較して効率が悪いこと、さらに非増殖性の細胞では有効でないことが問題になっていました。しかし、その理由は不明であり、DNA治療薬を効率良く核内伝送する際の課題となっていました。

今回、原口特任教授、平岡教授らの研究グループは、外来DNAを可視化するために、特殊なDNA配列(lacO配列がリピートした配列)を持たせたプラスミドDNAを作製しました。このDNA配列は細胞質内に入るとGFP-LacIと結合することで、その位置を、GFPの蛍光を指標に可視化することができます(図1)。また、このDNAから遺伝子発現が起こると、赤色蛍光の出現を指標として可視化することができるようになっています。このDNAを細胞内に導入し、生きた細胞で観察したところ、そのDNAからの遺伝子発現は、細胞分裂後にのみ起こることが分かりました。プラスミドDNAの挙動を、蛍光顕微鏡法に加えて蛍光電子相関顕微鏡法などの方法を使って調べたところ、細胞分裂終期の、特に核膜が再形成される時期に、外来のDNAが核に取り込まれていくことが分かりました。この成果は、DNAワクチンなどのDNA治療薬を、核に効率良く伝送する方法の開発に貢献することが期待されます。

研究の背景

生命科学の分野では、遺伝子操作や目的タンパク質を発現させる目的で、外来遺伝子を細胞内に導入することが不可欠な技術となっています。非ウイルス性のトランスフェクション試薬は、安全な試薬として多くの基礎研究で用いられていますが、増殖性の細胞でしか有効でなく、またトランスフェクション効率が悪いことが問題となっています。しかし、その理由は不明でした。DNA治療薬などのDNAを効率よく核内伝送するトランスフェクション技術を開発するためには、この理由の解明が求められていました。

本研究の成果

原口特任教授および平岡教授らの研究グループでは、トランスフェクションによって細胞内に導入するプラスミドDNAを、生きた細胞で可視化する方法を開発しました。プラスミドが細胞内に入ると、そのプラスミドにGFP蛍光が集合した塊を作ることで、プラスミドの位置を可視化することができます。また、プラスミドが核内に入ると、赤色蛍光タンパク質(RFP)が発現するように設計されているので、赤色蛍光の出現時期を調べることで核内に入った時期を推定することができます。これを用いて、細胞内に導入したプラスミドの挙動を可視化し、そのプラスミドからの遺伝子発現の時期を調べたところ、プラスミド塊は細胞質では核膜様の膜構造に覆われていて核移行しないこと、プラスミドからの遺伝子発現は細胞分裂後にのみ起こることを発見しました(図2)。

さらに、細胞分裂期でのプラスミドの挙動を、超解像顕微鏡法や、蛍光顕微鏡と電子顕微鏡を併用したCLEMイメージング法、免疫電顕法と組み合わせたiCLEMイメージング法を用いて調べたところ、細胞分裂期には、プラスミドはバラバラに散らばっていること(図1)、核膜が形成される時期に核内に取り込まれていくことが分かりました(図3)。

核膜形成に関与する因子のうち、核膜タンパク質barrier-to-autointegration factor(BAF)を減少させると、核膜形成の遅延(30分程度)に伴って、遺伝子発現が同程度遅延することが分かりました。この結果は、細胞分裂期の核膜再形成が、プラスミドの核への取り込みに重要であることを示しています。

核膜に針を刺して一過的に穴を開けると、分裂期を経ないでも、遺伝子発現が起こることを示すことで、「正常な」核膜がプラスミドの核移行を阻むバリアとして働くことを示しました。

本研究によって、細胞質に導入されたDNAは、核膜の存在下では(核膜孔を通って)核内に移行することができないことが明らかとなりました。この結果は、間期細胞でも有効なDNAトランスフェクション法の開発には、核膜を傷つけるか、核膜孔を通過するための特別な仕掛けが必要であることを示唆しています。細胞内に導入されたDNAは、核に入らないと遺伝子発現は起こりません。従って、我々の発見は、DNAワクチンのように、遺伝子発現を必要とする医薬品では、(特殊な仕掛けがされていない限り)分裂しない細胞では、あまり有効に働かないことを示しています。この発見は、DNAトランスフェクションの効率化に重要な知見を与えるものであり、有効なDNAワクチンなどの核酸試薬の開発に貢献するものです。

研究成果のポイント
  • プラスミドDNAやそのDNAからの遺伝子発現を生きた細胞で可視化することに成功
  • トランスフェクション試薬で導入したプラスミドDNA由来の遺伝子発現は細胞分裂後にのみ起こることを証明
  • プラスミドDNAは、細胞分裂期終期の核膜形成の際に核内に入ることを解明
  • 細胞質内のプラスミドDNAは、核膜の存在下では、核内に入れないことを証明
  • DNAワクチン等、DNA治療薬の有効的利用法の開発へ貢献することが期待される
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

これまで不明だったプラスミドの細胞内での挙動が明らかになったことで、高効率なトランスフェクション試薬・方法の開発に繋がるものと考えられます。特に、DNAワクチンのように、遺伝子発現を必要とする核酸医薬品では、核に外来DNAを効率よく入れることが重要になります。今回得られた知見は、新たなDNAトランスフェクション法の開発に繋がるだけでなく、有効なDNAワクチンなどの核酸試薬の開発に貢献するものと期待されます。

特記事項

本研究成果は、2022年1月20日(木)19時(日本時間)に国際学術誌「Communications Biology」(オンライン)に掲載されました。

本研究は、国立研究開発法人情報通信研究機、慶應義塾大学、理化学研究所、東京大学との共同研究として行われました。

なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的研究(萌芽)「トランスフェクション効率化のための外来DNAの核移行メカニズムの解明」(研究代表者:原口徳子)、同新学術領域研究「再構成とエピゲノム編集による初期胚核の機能性獲得機序の理解(研究代表者:山縣一夫)」、同新学術領域研究「減数分裂における細胞核・クロマチン構造の変換メカニズム(研究代表者:平岡泰)」などの一環として行われました。

図1.
超解像顕微鏡が捉えた細胞内のプラスミド(白:プラスミド、マゼンタ:染色体)

図2.
プラスミドからの遺伝子発現(赤色)。染色体(白)が分裂後に赤色が出現したのが分かる。数字は分裂後の時間(時:分)。

図3.
CLEMイメージングが捉えた核膜再形成時期のプラスミド。緑色がプラスミド。核内に取り込まれつつあるのが分かる。

用語解説
  1. プラスミドDNA
    細胞内でゲノムとは別に維持されるDNA分子。外来のDNAをホスト細胞(今回の例ではヒト培養細胞)に導入するために用いられる。ホスト細胞内に導入されると外来遺伝子を発現する。
  2. 遺伝子発現
    遺伝子の情報が細胞における構造および機能に変換される過程をいう。具体的には、普通は遺伝情報に基づいてタンパク質が合成されることを指す。
  3. トランスフェクション
    外来のDNAをホスト細胞に導入する方法
  4. 核膜
    真核生物の核を細胞質から隔てている生体膜で、遺伝物質を内包しており、内膜と外膜からなる二重の脂質二重層構造から成る。
  5. ウイルス性ベクター
    分子生物学研究において遺伝物質を細胞に送達するために一般的に使用される遺伝子の運び屋であるベクターのうち、ウイルスをベースとしたもの。
  6. lacO配列
    バクテリア由来のラクトースオペロンのDNA配列。リプレッサータンパク質が特異的に結合することにより、ある種のタグとして使える。
  7. GFP-LacI
    lacO配列に特異的に結合するリプレッサータンパク質の結合領域LacIに緑色蛍光タンパク質GFPを融合させたタンパク質。lacO配列に結合することにより、その領域を可視化する。
  8. 蛍光電子相関顕微鏡法
    光学顕微鏡による蛍光像と電子顕微鏡像を相関させて画像を重ね合わせる手法。蛍光タンパク質を用いて細胞や細胞小器官を標識し、超微細構造を電子顕微鏡で解析することが可能。
  9. 超解像顕微鏡法
    従来の光学顕微鏡が持つ回折限界を超えた分解能を発揮する光学的手法
  10. 免疫電顕法
    超微形態レベルで抗原分子の局在を、特異抗体を用いて観察する免疫組織化学法。
  11. 核膜孔
    核の内外を連絡する穴である。真核生物の核膜の内膜と外膜が融合する場にあり、核と細胞質間の物質の移動はこの核膜孔を介して行われる。
  12. 間期
    「前の細胞分裂」と「次の細胞分裂」の間の時期
原著論文 Commun. Biol. 5(1):78 (2022)
論文タイトル Transfected plasmid DNA is incorporated into the nucleus via nuclear envelope reformation at telophase
著者

Tokuko Haraguchi (1, 2), Takako Koujin (1, 2), Tomoko Shindo (3), Şükriye Bilir (1), Hiroko Osakada (2), Kohei Nishimura (1), Yasuhiro Hirano (1), Haruhiko Asakawa (1), Chie Mori (2), Shouhei Kobayashi (2), Yasushi Okada (4, 5), Yuji Chikashige (2), Tatsuo Fukagawa (1), Shinsuke Shibata (3), Yasushi Hiraoka (1, 2)

  1. Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University, 1-3 Yamadaoka, Suita 565-0871, Japan.
  2. Advanced ICT Research Institute Kobe, National Institute of Information and Communications Technology, 588-2 Iwaoka, Iwaoka-cho, Nishi-ku, Kobe 651-2492, Japan.
  3. Keio University, School of Medicine, Shinjuku-ku, Tokyo 160-8582, Japan.
  4. RIKEN Center for Biosystems Dynamics Research (BDR), Suita, Osaka 565-0874, Japan.
  5. Department of Cell Biology, Department of Physics, Universal Biology Institute (UBI) and International Research Center for Neurointelligence (IRCN), the University of Tokyo, Tokyo 113-0033, Japan.
PubMed 35058555

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