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自分の顔を優先処理する脳の仕組みを発見

潜在意識に入った自分の顔がドーパミン報酬系を駆動

原著論文 Cereb. Cortex (2021)
論文タイトル Self-face activates the dopamine reward pathway without awareness
研究室サイト ダイナミックブレインネットワーク研究室〈北澤 茂 教授〉
概要

大阪大学大学院生命機能研究科の中野珠実准教授らの研究グループは、潜在意識に入った自分の顔の情報がドーパミン報酬系を活性化させることを世界で初めて明らかにしました。

人は、自分の顔が表示されると、他者の顔よりも素早く、正確に反応することが知られています。この自己顔の優位効果は、意識に上らないように(サブリミナル)提示された時でも観察されるため、潜在意識レベルの脳内処理が関係しています。しかし、自己顔の優位効果を生み出す脳の仕組みはこれまで明らかになっていませんでした。

そこで本研究では、サブリミナルに表示された自分の顔と他者の顔に対する脳の活動を機能的磁気共鳴画像法を用いて調べました(図1上)。すると、自分の顔が表示されたことに気づいていないにも関わらず、自分の顔に対して、脳の深部にある腹側被蓋野という領域が強く活動することを発見しました(図1下)。この腹側被蓋野は、ドーパミンを放出し、やる気を引き出す報酬系の中枢です。つまり、ドーパミン報酬系が働くことで、自分の顔の情報に対して自動的に注意が向き、反応が促進されるため、自己顔の優位効果が生じるのだと考えられます。

自分の顔をサブリミナルに表示するだけでドーパミン報酬系が活動するという発見は、自己意識を生み出す神経機構の解明につながるだけでなく、潜在意識に働きかけて意欲を操作するなどの応用も期待されます。

研究の背景

これまで、人は自分の顔の情報に対して、自動的に注意が向いたり、素早く正確に反応する現象が知られていました。この自己顔優位効果は、意識に上った情報だけでなく、サブリミナルに情報を提示しても潜在意識レベルで生じることが報告されています。しかし、この自動的な自己顔優位効果を生み出す脳の仕組みはわかっていませんでした。

本研究の成果

中野准教授らの研究グループでは、複雑な形の絵(マスク刺激)を顔の前後で表示することで、顔の情報が意識に上らない状態にして(図1上)、自分の顔と他者の顔に対する脳活動の違いを機能的磁気共鳴画像法で調べました。その結果、被験者は自分の顔が表示されたことに気づいていないにも関わらず、脳の深部にある腹側被蓋野という場所が、自分の顔に対して強く賦活することを発見しました(図1下)。これは、自分の顔の情報が入ると、意欲ややる気を引き起こすドーパミンの報酬系の中枢が自動的に活性化し、その結果、自分の顔に対する注意が高まり、情報処理が優先されることを示唆しています。

さらに、写真の加工により表示する顔の目やあごの大きさを変えても、自分の顔に対する腹側被蓋野の活動は高いままでした。このことから、潜在意識レベルでは、顔のバランスではなく、目や鼻など顔のパーツの形に基づいて、自分と他者の顔を見分けていることがわかりました。

研究成果のポイント
  • サブリミナルに提示された自分の顔に対してドーパミン報酬系の中枢が活動することを発見
  • 人はなぜ自分の顔に自動的に素早く反応できるのかは謎であったが、潜在意識に入った自分の顔に対する脳の活動を計測することで、その脳の仕組みを特定
  • 人の自己意識の脳内メカニズムの解明や、潜在意識に働きかけてやる気を操作する技術への応用に期待
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、サブリミナルに自分の顔の情報を表示することで、意識の邪魔をすることなく、やる気や意欲を操作することへの応用が期待されます。また、人の高次な自己意識を作り出す神経メカニズムの解明の糸口になることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2021年4月16日(金)に英国科学誌「Cerebral Cortex」(オンライン)に掲載されました。

なお、本研究は、JST戦略的創造研究推進事業さきがけ「人と未来のインタラクション」における研究課題「SNSが生み出す自己像の歪み形成機構の解明とその補正法の開発」(研究者:中野珠実)の一環として行われました。

図1
(上)サブリミナルに顔の情報を表示する方法
(下)自分の顔に対して強く活動した脳の場所

用語解説
  1. サブリミナル
    非常に短い時間だけ情報を提示したり、前や後に情報量の多い刺激(マスク刺激)を表示することで、意識には上らないけれども(閾値下)、潜在意識には情報が入ることで、何らかの効果を引き起こすことができる。
  2. 自己顔の優位効果
    自分の顔に対して自動的に注意が向けられたり、素早く反応できる現象。大勢が写った写真の中からでも自分の顔はすぐ見つけられる、などが例として挙げられる。
  3. 機能的磁気共鳴画像法
    MRI装置を使って脳の血流の変化を測定することにより、脳のどこで神経活動が生じたかを調べる方法。
  4. 腹側被蓋野
    脳幹にある小さな領域で、ここからドーパミンが放出されることで、やる気や意欲などに関連した報酬系が賦活される。
原著論文 Cereb. Cortex (2021)
著者

Chisa Ota (1), Tamami Nakano (1, 2, 3)

  1. Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University, Suita, Osaka, 565-0871, Japan.
  2. Graduate School of Medicine, Osaka University, Suita, Osaka, 565-0871, Japan.
  3. Center for Information and Neural Networks (CiNet), Suita, Osaka, 565-0871, Japan.
PubMed 33860315

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