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動物のふしぎな模様、どうしてできる?

複雑なパターンを生み出すシンプルなしくみを解明

原著論文 Sci. Adv. 6(49):eabb9107 (2020)
論文タイトル Pattern blending enriches the diversity of animal colorations
研究室サイト パターン形成研究室〈近藤 滋 教授〉
概要

大阪大学大学院生命機能研究科の宮澤清太招へい研究員は、動物の体表に見られる複雑な模様パターンが、シンプルな模様モチーフを「混ぜる」という意外なしくみによってつくり出されてきたことを明らかにしました。シマウマのシマシマ、キリンの網目など、動物の体表には多彩な模様が見られます。こうした鮮やかで豊かな模様の多様性がどのように生じてきたのか、これまであまりよくわかっていませんでした。とくに、迷路模様など複雑でふしぎな模様パターンについては、どのようなしくみで生まれるのか、大きな謎となっていました。今回、宮澤清太博士は、魚類18,000種以上を対象としたこれまでにない規模の模様解析や、ゲノム解読、シミュレーションなどから、水玉模様のようなシンプルな模様をもつ魚の種間交雑によって「模様が混ざる」ことで、迷路模様のような複雑な模様パターンがつくり出されたということを明らかにしました(図1)。この発見は、多彩な動物の模様パターンがどのように進化してきたのかという謎の一端を明らかにする重要な成果であるとともに、交雑による種分化など、生物の進化のメカニズムを考える上でも大きな示唆を与えるものです。

研究の背景

「シマウマはなぜシマシマなのか?」「ヒョウはどうして斑点をもつのか?」といった疑問は、誰もが一度は抱いたことがあるのではないでしょうか。動物の多彩な模様パターンがもつ役割について、これまでにさまざまな仮説(擬態、体温調節、虫除けなど)が提唱され、実証が試みられてきました。これらの研究は、「模様は何のためにあるのか?」という視点から、「なぜ?どうして?」という上記の疑問への答えを探そうとするものです。一方、そのようなアプローチでは答えることのできないもう1つの大きな謎が、模様の「なぜ?どうして?」には残されていました。「模様はどのようにしてできたのか?」という問題です。最近の研究から、昆虫の翅に見られる水玉模様など一部のシンプルなパターンについては、「どのようにしてできたのか?」についての手がかりが得られつつあります。こうしたシンプルな模様は、体の特定の構造物やあらかじめ区画分けされた領域を「ぬりえ」のように色付けしていくことで描かれてきたと考えられます。しかしながら、より複雑なパターン、例えば入り組んだ迷路模様などの模様パターンは、「ぬりえ」の下絵に相当するような区画分けや基準となる構造物が見当たらないため、単純な「ぬりえ」のしくみでは描けそうにありません。そのため、複雑で精緻な模様パターンがいったいどのようにして生じてきたのか、その進化的なメカニズムは依然として謎に包まれていました。

本研究の成果

こうした模様パターンの謎を解くため、宮澤博士はまず、魚類18,000種あまりを対象とした大規模な模様パターン解析を行い、水玉模様やしま模様、迷路模様といったさまざまな模様モチーフの間にどのような関連性があるかを調べました。その結果、淡色斑(黒地に白い水玉)や暗色斑(白地に黒い水玉)のようなシンプルな斑点モチーフと、これらとは見た目が大きく異なる「迷路模様」との間に、予想外の強い関連性を発見しました(図2)。複雑な「迷路模様」をもつ種は、淡色斑をもつ種・暗色斑をもつ種が近縁に存在する場合に、より出現しやすい、という傾向が見られたのです。

一方、コンピューター上でさまざまな模様パターンをつくらせるシミュレーションによる解析から、こうした強い関連性を説明付ける仮説が得られていました。シミュレーションでは、異なる模様をもつ仮想的な動物同士を掛け合わせることで、模様パターンを「混ぜる」ことができます。淡色斑と暗色斑を混ぜ合わせると、生まれてくる仮想的な交雑個体には、必ず「迷路模様」があらわれます(図3左)。ここから考えられるのは、「迷路模様」をもつ動物が、淡色斑をもつ種と暗色斑をもつ種の「種間交雑」によって模様が「混ざる」ことで生じてきた、という可能性です。

宮澤博士は、フグの仲間の魚たちがもつ模様パターンとゲノム情報とを解析することで、この「模様の混ぜ合わせ」仮説を検証しました。その結果、「迷路模様」をもつ複数の魚が、実際に淡色斑の種と暗色斑の種の「種間交雑」によって生まれたものであることがわかったのです(図3右)。さらに詳細な解析により、こうした「模様の混ぜ合わせ」が他の主要な魚類でも生じていて、模様パターンの多様性の創出に関わってきたという可能性も示唆されました。

研究成果のポイント
  • 複雑な模様パターンが、シンプルな模様の「混ぜ合わせ」で生まれてきたことを発見
  • 魚類を対象にしたこれまでにない規模の模様解析と、ゲノム解読、シミュレーションから明らかに
  • 多彩な動物の模様がどのように進化してきたかという謎を解く重要な成果
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

体のかたちやサイズなど、動物の主だった特徴は、近縁な動物ほど似ていて、系統的に遠く離れるほど異なっている、というのが普通です。ところが、模様パターンを見てみると、系統的に近い「親類」のような動物の間でぜんぜん似ていない、ということが多々あります。一方、遠く離れた「赤の他人」のような動物の間で驚くほどよく似た模様パターンが見つかる、というケースもめずらしくありません(図4)。本研究で明らかとなった「模様の混ぜ合わせ」というしくみは、こうした興味深い生物多様性の謎を解くヒントとなるかもしれません。また、本研究は、異種間の交雑が動物の進化に新たな原動力をもたらす可能性を示したという点で、より一般に生物進化のメカニズムを考える上でも大きな示唆を与えると期待されます。

研究者のコメント

本研究では、一般公開されている魚類写真資料データベース「FishPix」や魚類情報データベース「FishBase」の写真資料を1枚1枚見ていくことで、18,000種を超える魚種の模様解析を行いました。これらのデータベースの構築・運営に携わる方々、ならびに写真資料を提供されたすべての魚類研究者・魚類愛好家のみなさまに深く感謝いたします。(宮澤清太)

特記事項

本研究成果は、国際科学誌「Science Advances」に、12月3日(木)午前4時(日本時間)に公開されました。

本研究の実施にあたり、国立科学博物館、神奈川県立生命の星・地球博物館、下関市立しものせき水族館「海響館」、生きているミュージアム「NIFREL(ニフレル)」、沖縄美ら海水族館、鹿児島大学総合研究博物館等の各機関、および魚類情報データベース「FishBase(http://www.fishbase.org/)」、魚類写真資料データベース「FishPix(http://fishpix.kahaku.go.jp/fishimage/)」より研究試料・資料のご提供、ご協力をいただきました。本研究の一部は、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所が有する遺伝研スーパーコンピュータシステムを利用して行われました。また、本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究(B)「くらべてわかる、動物体表模様パターンの多様性形成メカニズム」(研究代表者:宮澤清太)(JP15H04415)、新学術領域研究「複合適応形質進化の遺伝子基盤解明」(領域代表者:長谷部光泰)における公募研究「動物体表の『やわらか模様』の進化と分子機構」(研究代表者:宮澤清太)(JP25128709)、挑戦的萌芽研究「網状模様パターンの網状進化」(研究代表者:宮澤清太)(JP15K14593)、基盤研究(B)「大規模パターン解析と比較ゲノムで探る動物体表模様の局所的・大域的多様性と進化」(研究代表者:宮澤清太)(JP19H03283)の一環として行われました。

図1.
模様の混ぜ合わせ。シンプルな模様をもつ動物種間の交雑によって「模様が混ざる」ことで、複雑な模様をもつ動物が生まれる。

図2.魚類の模様パターン多様性の解析。
18,000種を超える魚種の模様パターン解析(左上)から、模様モチーフ間の関連性を明らかにした。複雑な迷路模様とシンプルな斑点モチーフ(淡色斑・暗色斑)との間に強い関連性が見られる(右下)。

図3.
交雑シミュレーションで斑点模様を「混ぜる」と、「迷路模様」があらわれる(左)。右は、実際に交雑由来であることがわかった「迷路模様」をもつ魚と、斑点模様をもつ親種。(写真:1瀬能宏、神奈川県立生命の星・地球博物館、2鹿児島大学総合研究博物館、3松浦啓一)

図4.動物の模様パターンに見られる特徴的な多様性。

用語解説
  1. 魚類
    2020年11月現在、淡水産、海産を含む35,672種が知られている(Fricke, R., Eschmeyer, W. N. & Van der Laan, R. (eds) 2020. ESCHMEYER'S CATALOG OF FISHES: GENERA, SPECIES, REFERENCES. http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.aspによる)。
  2. 種間交雑
    異なる種間で交配が行われ、子孫を生じること。交雑によって生じる個体を交雑個体という。種間交雑が不可能な場合や、交雑個体が妊性をもたない(子孫を作る能力をもたない)場合も多いが、生物種の組み合わせによってはほとんどの交雑個体が妊性をもつというケースもある。
  3. 交雑による種分化
    種間交雑によって新たな種が生まれること。植物では多くの例が知られている。動物では極めて稀な現象であると長い間考えられてきたが、近年、現生人類を含む多くの動物種において、進化の過程で交雑現象が関わっていたという可能性を示す知見が報告されている。
原著論文 Sci. Adv. 6(49):eabb9107 (2020)
著者

Seita Miyazawa (1)


  1. Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University, Suita, Osaka 565-0871, Japan.
PubMed 33268371

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