個体機能学講座
初期胚発生研究室
キーワード:
細胞間コミュニケーション、胚発生、マウス、細胞競合、Hippoシグナル
正確な発生を支える細胞間コミュニケーションを理解する
体はたくさんの細胞が集まってできています。発生の重要な特徴の一つは正確性であり、細胞の集団が正確に体や組織を作り上げるためには、個々の細胞が周囲の細胞とコミュニケーションし、全体としてふるまいを調和させることが必要です。胚の中の細胞がどのようにして周囲の細胞の状態を認識して挙動を調和させるのか?私たちの研究室では、その様な細胞間コミュニケーションのしくみと胚発生における役割とを明らかにするために、マウスと培養細胞とを用いて、細胞間の接着によるコミュニケーションに関わるHippoシグナル経路や、隣接細胞の状態の違いを認識する細胞間コミュニケーションである細胞競合に注目して研究しています。
(A)着床前胚の細胞分化時における細胞競合による品質管理。初期胚盤胞の内部細胞塊から後期胚盤胞に存在する多能性細胞組織であるエピブラストが形成される際には、細胞の遺伝子発現に多様性が生じ、細胞競合により多能性因子の発現が低い低品質な細胞をアポトーシスにより排除することで、高品質な細胞からなるエピブラストが作られる。
(B)エピブラスト形成における細胞競合の重要性。(左)正常な後期胚盤胞ではすべてのエピブラスト細胞が多能性因子(緑色)を強く発現している。(右)薬剤処理により細胞競合による細胞死を抑制した胚では、多能性因子の発現が不均一になり、配置も乱れる。
メンバー
佐々木 洋 教授 | sasaki.hiroshi.fbs[at]osaka-u.ac.jp |
---|---|
橋本 昌和 准教授 | mhashimo[at]fbs.osaka-u.ac.jp |
内川 昌則 助教 | uchikawa[at]fbs.osaka-u.ac.jp |
下條 博美 助教 | hshimojo[at]fbs.osaka-u.ac.jp |
田辺 仁紀子 事務補佐員(秘書) |
研究者の詳細を大阪大学研究者総覧やResearch Mapで検索できます。
- ※メールアドレスの[at]は@に変換してください
Q&A
- 現在注目しているテーマは何ですか?
- 着床前胚における細胞競合の仕組みとその役割についてです。私たちは最近、着床前胚において多能性細胞のエピブラストが形成される際に、細胞競合が遺伝子発現の低い低品質な細胞を細胞死で排除する品質管理機構として働いていることを見出しました。この品質管理が、どのようなしくみで起こっているのか、また、この品質管理が起こらないとその後の胚発生や成体の健康にどのような影響を及ぼすのか、明らかにしてゆきたいと考えています。
- 最新のブレイクスルー、研究成果について教えてください。
- マウス着床前胚で多能性細胞のエピブラストが作られる際に細胞競合による品質管理が起こっていることの発見。私たちは以前、培養細胞でHippoシグナルの違いによる細胞競合が起こることを見出していたが、同様の細胞競合が発生で起こるのか、起こっているとすれば、どのような役割をしているのかわかっていませんでした。着床前胚に作られるエピブラストは胚の体全体のもとになる多能性細胞で、全ての細胞が高い品質を持っている必要があります。私たちは最近、エピブラスト形成過程では個々の細胞の遺伝子発現状態に大きなばらつきがあり、細胞競合が多能性因子の発現の低い低品質な細胞を排除する品質管理機構として働いていることを見出しました。これは、細胞競合が発生における細胞分化時の遺伝子発現のばらつきを克服して発生を正確に進めるための一つのしくみであることを示すものであり、発生の正確性を支える新たな機構の発見です。
- どのようなバックグラウンドを持つメンバーで研究をすすめていますか?
- 発生生物学の方が中心です。時折、細胞生物学、マイクロデバイス、薬学の方が参画してきました。
- 国内外の研究機関との連携について教えてください。
- 研究上の必要が生じた際や、相手側からの提案があった場合に、プロジェクト単位で国内外の研究機関と連携して研究を進めています。これまでの実績、国内(関西医大、横浜市立大学、東京大学、名古屋大学、熊本大学、RIKEN BDR、基礎生物学研究所、国立遺伝学研究所)、国外(Hospital for Sick Children、MD Anderson Cancer Center、University of California Santa Cruz、CNIC)
- 研究室から巣立った人たちはどのような道を歩まれていますか?
- 大学関係(九州大学准教授、東京医科歯科大学講師)、企業(GeneTech, AGC, 生活協同組合、サンスター, 胚培養士、など)
- 今後どんな展開が期待されますか?
- これまでに、正確な発生を可能にする仕組みの一つに、着床前胚の細胞分化時の細胞競合による品質管理があることを見出してきました。今後、この仕組みとその長期的な役割が明らかにされるとともに、このような細胞競合による品質管理が、発生の様々な局面の細胞分化において普遍的に働いている仕組みであるかどうか、明らかになることが期待されます。また、発生の正確性を可能にする仕組みには、細胞競合以外の細胞間コミュニケーションも関与していると考えられ、そのような新しい機構の探索も期待されます。
研究成果
論文、総説、著書
2020年
Cell competition controls differentiation in mouse embryos and stem cells
Curr Opin Cell Biol 7:1-8 2020 (PMID:32763500 DOI:10.1016/j.ceb.2020.07.001)
The absence of SOX2 in the anterior foregut alters the esophagus into trachea and bronchi in both epithelial and mesenchymal components
Biol. Open 9, bio048728 2020 (PMID:31988094 DOI:10.1242/bio.048728)
Nodal paralogues underlie distinct mechanisms for visceral left-right asymmetry in reptiles and mammals.
Nat. Ecol. Evol. 4(2):261_269 2020 (PMID:31907383 DOI:10.1038/s41559-019-1072-2)
Sox2 gene regulation via the D1 enhancer in embryonic neural tube and neural crest by the combined action of SOX2 and ZIC2.
Genes Cells 25(4):242-256 2020 (PMID:31997540 DOI:10.1111/gtc.12753)
2019年
Epiblast formation by TEAD-YAP-dependent expression of pluripotency factors and competitive elimination of unspecified cells
Dev. Cell 50(2):139-154.e5 2019 (PMID:31204175 DOI:10.1016/j.devcel.2019.05.024)
2018年
Obesity in Yap transgenic mice is associated with TAZ downregulation.
Biochem. Biophys. Res. Commun. 505(3):951-957 2018 (PMID:30309656 DOI:10.1016/j.bbrc.2018.10.037)
Cooperation of Sall4 and Sox8 transcription factors in the regulation of the chicken Sox3 gene during otic placode development.
Dev. Growth Diff. 60(3):133-145 2018 (PMID:29520762 DOI:10.1111/dgd.12427)
Nasal and otic placode specific regulation of Sox2 involves both activation by Sox-Sall4 synergism and multiple repression mechanisms.
Dev. Biol. 433(1):61-74 2018 (PMID:29137924 DOI:10.1016/j.ydbio.2017.11.005)
2017年
Neural Progenitor Cells Undergoing Yap/Tead-Mediated Enhanced Self-Renewal Form Heterotopias More Easily in the Diencephalon than in the Telencephalon.
Neurochem. Res. 43(1):180-189 2017 (PMID:28879493 DOI:10.1007/s11064-017-2390-x)
Notch and Hippo signaling converge on Strawberry Notch 1 (Sbno1) to synergistically activate Cdx2 during specification of the trophectoderm.
Sci Rep 7:46135 2017 (PMID:28401892 DOI:10.1038/srep46135)
Enhancer Analyses Using Chicken Embryo Electroporation.
Methods in Molecular Biology 1650:191-202 2017 (PMID:28809022 DOI:10.1007/978-1-4939-7216-6_12)
A Wnt5 Activity Asymmetry and Intercellular Signaling via PCP Proteins Polarize Node Cells for Left-Right Symmetry Breaking.
Dev. Cell 40(5):439-452 2017 (PMID:28292423 DOI:10.1016/j.devcel.2017.02.010)
2016年
Roles and regulations of Hippo signaling during preimplantation mouse development.
Dev. Growth Diff. 59, 12-20 2016 (PMID:28035666 DOI:10.1111/dgd.12335)
Somatic cell reprogramming-free generation of genetically modified pigs.
Sci. Adv. 2(9)e1600803 2016 (PMID:27652340 DOI:10.1126/sciadv.1600803)
Electroporation of the Cas9 protein/sgRNA into early pronuclear zygotes generates non-mosaic mutants in mouse
Dev. Biol. 418(1):1-9 2016 (PMID:27474397 DOI:10.1016/j.ydbio.2016.07.017)
GFRA2 Identifies Cardiac Progenitors and Mediates Cardiomyocyte Differentiation in a RET-Independent Signaling Pathway
Cell Reports 16, 1-13 2016 (PMID:27396331 DOI:10.1016/j.celrep.2016.06.050)
求める人物像(学生の方へ)
当研究室の研究内容に興味があり、研究をしたいという強い意欲のある方。生き物が好きな方、細かな手作業やモノづくりが好きな方も歓迎します。出身大学や出身学部は一切問いません。
連絡先
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1-3
大阪大学大学院生命機能研究科 生命機能B棟3階 初期胚発生研究室
E-mail: sasaki.hiroshi.fbs[at]osaka-u.ac.jp(佐々木 洋 教授)
- ※メールアドレスの[at]は@に変換してください