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FBSコロキウム 193回細胞分子神経生物学研究室

講演

低分子量Gタンパク質R-Rasがシグナルハブとして指揮する多彩な細胞機能

生沼泉[兵庫県立大学]

日時 2018年9月11日(火)15:00〜16:30
場所 生命機能研究科 生命システム棟2階 セミナー室
世話人

白崎竜一(細胞分子神経生物学研究室)
Tel: 06-6879-4637
E-mail: shirasaki[at]fbs.osaka-u.ac.jp

低分子量Gタンパク質R-Rasがシグナルハブとして指揮する多彩な細胞機能

R-Rasは生体に幅広く発現しているRasスーパーファミリー低分子量タンパク質である。原がん遺伝子として精力的に研究が進められた古典的Ras(H-Ras, K-Ras, N-Ras)とは異なり、その細胞機能や情報伝達経路にはいまだ不明な点が多い。R-Rasの活性制御機構として、我々は以前、反発性ガイダンス因子semaphorinが、その1回膜貫通型受容体PlexinのR-Ras GAP(GTPase-activating protein)活性によりR-Rasを直接不活性化することで反発性の神経誘導を行うという、新奇な情報伝達機構を明らかにした。その機構が神経系に限らず、がん細胞を含む幅広い細胞の運動や形態の制御において、普遍的に駆動されることが明らかになった。さらにはsemaphorin以外の他の様々なガイダンス因子や成長因子、そして、接着因子の駆動も、細胞内でのR-Ras活性制御を伴うことがわかり、細胞内のR-Ras活性の亢進・抑制のいかんにより細胞応答の反発性(細胞運動の低下、細胞の脱着、神経突起の伸長阻害など)・誘引性(細胞運動の亢進、細胞の接着、神経突起の伸長促進など)が規定されることを見いだした。以上から、R-Rasは様々な細胞外シグナルの統合地点であると考えられ、その情報伝達経路の解明は、外界刺激によって駆動される細胞機能の統合的理解に役立つ。この数年の研究で、我々はR-Rasのエフェクター分子を同定した。同定したそれぞれのエフェクターは、キナーゼ経路の制御を介した細胞の増殖や分化、細胞骨格系の制御を介した細胞形態調節、さらにはモーター蛋白質の活性制御を介した物質輸送の調節を行っておりR-Rasのシグナルハブとしての多彩な役割が明らかになりつつある。本セミナーでは、R-Rasが担う多彩な細胞機能について、生理的意義および病態とも関連づけながら、最新のデータを含め紹介したい。

実施報告

第193回FBSコロキウムでは、兵庫県立大学・生命理学研究科の生沼泉教授をお招きして「低分子量Gタンパク質R-Rasがシグナルハブとして指揮する多彩な細胞機能」という題目でご講演頂きました。初めに、Rasスーパーファミリーの中でR-Rasファミリーのみが、神経細胞における反発性因子Semaphorinによりその受容体であるPlexinのGAP(GTPase-activating protein)活性を介して不活化されることを示されました。さらにこれを発端として、他のガイダンス因子や成長因子もR-Ras活性の亢進・抑制を介して誘引性・反発性を規定していることを海馬の培養神経細胞を用いた実験で明らかにされました。また、その下流としてキナーゼ経路や細胞骨格系、モーター蛋白質など様々な細胞機能に関与する因子に影響を与えることを明らかにされ、R-Rasは様々な細胞外シグナルを統合して軸索・樹状突起形成を制御する役割を持つことを示されました。さらにこのR-Rasのシグナルハブとしての役割は神経細胞にとどまらず線維芽細胞や癌細胞においても同様の機構で機能していることが明らかにされつつあり、疾患治療への応用も期待されました。講演会場には神経科学のみならず様々な分野から多くの教員、研究員、学生の方々にお越し頂き盛況なコロキウムとなりました。質疑応答の際には神経生物学的な観点のみならず細胞生物学全般的な観点からも幅広く活発な討論が行われました。神経細胞の研究から細胞普遍的な事象を明らかにするというご研究のスタイルに非常に感銘を受けました。

(山本研究室・博士課程5年 植田尭子)

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