FBSコロキウム 413回日本電子YOKOGUSHI協働研究所
| 講演 |
クライオ電子顕微鏡解析が明らかにしたFlhAリングの機能状態構造 木下 実紀[日本電子YOKOGUSHI協働研究所|特任助教(常勤)] クライオ電子線プレセッション照射撮影による微結晶構造の実像観察 難波 啓一[日本電子YOKOGUSHI協働研究所|特任教授(常勤)] |
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| 日時 | 2026年5月19日(火)12:15〜13:00 |
| 場所 | 吹田キャンパス 生命機能研究科 生命システム棟2階 セミナー室 |
| 言語 | 日本語 |
| 世話人 |
宮田 知子 [特任准教授(常勤)] |
クライオ電子顕微鏡解析が明らかにしたFlhAリングの機能状態構造
本コロキウムでは、サルモネラ菌のべん毛モーターの構造解析について概説する。べん毛は細菌の運動を担う生体分子機械であり、その形成には基部に存在する特異的なタンパク質輸送装置が必須である。これまでに、MSリングやフィラメント、さらに輸送装置の中核をなすFliPQR複合体など、べん毛を構成する複数の要素の構造が明らかにされてきた。本発表では、これらの構造研究の進展を概観した上で、近年新たに解明したFlhAリング構造に焦点を当てる。FlhAは、べん毛タンパク質の基質選択および輸送順序の制御に関与する中心的因子であり、その細胞質ドメインは9量体リングを形成して基質結合の足場として機能する。また、その膜貫通ドメインはイオンチャネルとして働き、タンパク質輸送を駆動するエンジンの中核を担う。本研究では、クライオ電子顕微鏡単粒子解析により、膜貫通ドメインと細胞質ドメインを連結するリンカー領域の欠損変異体を用いて、フック型基質輸送状態に対応するFlhAリング構造を高分解能で決定した。その結果、膜貫通領域を含む全体構造が初めて明らかとなり、さらにFHIPEPと呼ばれる領域がリング外側に配置されるなど、AlphaFoldによる構造予測とは大きく異なる配置が観察された。これらの結果は、FlhAの構造変化がべん毛タンパク質輸送の段階的制御において重要な役割を果たすことを示唆している。
クライオ電子線プレセッション照射撮影による微結晶構造の実像観察
本研究室が沖縄科学技術大学院大学 新竹教授と共同研究を進めている最新の成果を発表する。タンパク質の結晶は分子の並進対称性を持つ三次元配列である。特定の角度から観察すると分子が重なり高コントラスト像が得られるが、像形成は回折波と入射波の干渉で起こるため、逆格子空間(フーリエ空間)で回折条件を満たすのはエバルド球表面の曲率により逆格子面の中心付近のみで、そのため投影像の分解能は制限される。本研究ではクライオ電子顕微鏡装置の特殊な工夫により、入射電子線の傾斜によるプレセッション照明とリングスリットの導入による特定逆格子面上の回折波の選択的抽出を可能にすることで、結晶構造投影像の直接観察を実現した。本手法により、タンパク質結晶内の分子配列やペロブスカイト中の有機分子の原子配列など高分解能実像観察に成功した。微小なモザイク結晶にも適用可能で創薬や機能性材料開発への応用が期待される。
