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FBSコロキウム 319回生理学研究室

講演

生体ナノチューブ構造体・線毛内の物質拡散に関する検証

竹内 裕子[倉橋研究室・准教授]

日時 2023年1月19日(木)12:15〜13:00
場所 Zoomでのオンラインセミナーとなります:参加に必要なミーティングリンク、ID、パスワードは事前に、関係者へメールにてご連絡致します。
言語 日本語
世話人

竹内 裕子
E-mail:hiroko[at]fbs.osaka-u.ac.jp
TEL:06-6879-7996

生体ナノチューブ構造体・線毛内の物質拡散に関する検証

線毛は直径100nmのごく微小な構造で、生物全般にわたり多様な特殊機能を発揮している。 例えば、脊椎動物の嗅細胞の線毛上には、受容体・Gタンパク質・効果酵素・情報変換チャネルが揃っており、Gタンパク質-cAMP経路を介する初段の匂い情報変換が行われる。この変換機構の詳細を知るために、線毛内の物質動態を知る必要があるが、線毛の微細構造ゆえ、顕微鏡で生体線毛に於ける物質の動態を捕えることは難しい。本研究室では電気生理的手法に加えて、レーザー顕微鏡(LSM)によるUV光照射によるケージド化合物解離と画像イメージングを組み合わせて、線毛上のチャネル分布や線毛内の分子拡散を調べてきた。しかし、これまで生体線毛内の分子移動を実時間で可視化した例はほとんどない。そこで、微小構造体内での分子動向をリアルタイムで可視化するため、1本の線毛を対象としてFluo-4によるCaイメージングを行い、実時間で画像を取得後、輝度解析を行うことを目的とした実験系を組み立てた。
 生体ナノチューブ構造体でのサブマイクロレベルという微小区画ゆえの微弱画像の取り扱いや、LSMによるラスタースキャンの実態、励起とイメージングに関わる刺激回数や速度の調節、sumパラメータによるイメージ画像増強に伴う刺激時間経過、それらに伴うデータ処理や、解析の結果に得られた線毛内分子の拡散係数などについて紹介する。これらの研究によって、微細構造体である嗅線毛では情報変換にかかわる細胞内因子、cAMPやCaなどの拡散が極めて遅くなっており、分解や排出と合わせて、これらの分子が数ミクロンを超えて長軸方向へ移動しないことが電気生理学的、蛍光測光実験で示唆された。生理学的には、この物質拡散の制限が情報変換の空間的局在性や信号増幅などにかかわり、線毛構造における生体情報変換を考えるうえで非常に重要な役割を担う。しかし、線毛内には長軸方向を隔てるような分子バリアーなど見当たらず、物質拡散制限現象の機構は全く不明である。仮説の1つは、細胞膜裏側表面に多数存在するこれらの物質に対する結合サイトが物質拡散を妨げる可能性である。線毛は直径100nmの超微細構造であるために、一般的な生体の微小チューブよりもさらに細く、内部の分子移動の際に細胞膜裏面に接触する確率が上がると予想されるからである。そこで私達は、単純なデジタル分子ランダムウォークモデルを作成して、膜結合の強度を設定しながら、チューブ構造の直径を自由に変動させて、拡散の様式を調べた。その結果、線維直径が細くなると、膜の結合サイトの効果が非常に大きく物質拡散に影響を及ぼすことが明らかとなり、線毛内での現象が説明できる。

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