FBSコロキウム 159回神経可塑性生理学研究室
講演 |
概日リズムの頑強性を担う視交叉上核の分子シグナル:バソプレッシンV1a/V1b受容体欠損マウスは時差症状を示さない 山口賀章[京都大学] |
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日時 | 2017年5月10日(水)12:15〜13:00 |
場所 | 生命機能研究科 生命システム棟2階 セミナー室 |
世話人 |
冨永(吉野)恵子(神経可塑性生理学研究室) |
概日リズムの頑強性を担う視交叉上核の分子シグナル:バソプレッシンV1a/V1b受容体欠損マウスは時差症状を示さない
睡眠・覚醒のみならず、メラトニンやコルチゾルといったホルモン分泌など、私たちの多くの生理現象には約24時間周期のリズム(概日リズム)がある。このリズムを制御する中枢は、脳の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus: SCN)である。私たちは、SCNをターゲットとした分子時間生物学研究と概日リズムの撹乱モデルである時差研究より、概日リズムの頑強性を担う視交叉上核の分子シグナルの解明を試みている。SCNの約半数の神経細胞は、arginine vasopressin(AVP)を発現する。AVP細胞は自身の受容体であるV1aおよびV1b受容体も発現しており、SCN内でAVP細胞同士による局所神経回路を形成する。AVP細胞の時計機能は長らく不明であったが、私たちは、V1aおよびV1bを両方とも欠損したダブルノックアウトマウス(V1aV1bDKOマウス)が、時差症状を全く示さないことを見出した。明暗位相を8時間前進させた時差環境下に野生型マウスをおくと、SCNはそれまでの安定振動を破棄しそのリズムが消失したが、V1aV1bDKOマウスでは、瞬時にSCNのリズムが回復した。また、野生型マウスのSCNにV1aとV1bのアンタゴニストを投与することで、時差期間を半減させることに成功した。以上の結果より、近年社会問題となっているシフトワーカーの病態に対し、AVPシグナルをターゲットとした創薬が期待される。(参考文献、Yamaguchi et al., Science, 342: 85-90, 2013)