FBSコロキウム 163回心生物学研究室
講演 |
胎生期遺伝子発現制御によりあらかじめ規定された神経結合は生後の経験により変化するか? 足澤悦子[心生物学研究室] |
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日時 | 2017年6月7日(水)12:15〜13:00 |
場所 | 生命機能研究科 生命システム棟2階 セミナー室 |
世話人 |
木津川尚史(心生物学研究室) |
胎生期遺伝子発現制御によりあらかじめ規定された神経結合は生後の経験により変化するか?
大脳皮質複雑ネットワークは、神経細胞間の特異的な結合によって形成されている(Yoshimura et al., 2005 Nature)。近年、大脳皮質において胎生期に同じ神経前駆細胞から発生した興奮性細胞は、生後に高い割合で神経結合することが報告された(Yu et al., 2009 Nature)。我々は、細胞系譜が標識されたキメラマウスの大脳皮質バレル野より切片標本を作製し、4層バレル内の興奮性神経結合を同時ホールセル記録法により調べた。その結果、細胞系譜が同一の星状細胞間には、生後発達過程の一時期に高い割合で神経結合が形成され、その後、双方向性結合だけが維持されることが明らかになった。このような双方向性結合の形成は、細胞系譜が異なる星状細胞間にはみられなかった。さらに、細胞系譜依存的な双方向性結合形成は、胎生期に限局して発現するDNAメチル化酵素であるDnmt3bの欠損あるいはその制御を受けるクラスター型プロトカドヘリンの欠損によって阻害された。以上の結果は、大脳皮質における細胞系譜依存的な双方向性結合は、胎生期のエピジェネティックな遺伝子発現制御により規定されていることを示唆する(Tarusawa et al., 2016 BMC Biology)。細胞系譜に規定される双方向性結合の形成に生後の感覚入力は影響するのだろうか?我々は、マウスでヒゲを使った探索行動が開始される時期(生後13日目)からヒゲを切ることによって感覚遮断を行い、細胞系譜依存的双方向性結合への影響を調べた。その結果、細胞系譜依存的な双方向性結合が有意に減少した。以上の結果より、胎生期の遺伝子発現制御によって規定された神経回路形成は、生後の感覚入力が加わることで完成することが明らかになった。