月田研究室 Tsukita Lab.(生体バリア細胞生物学研究室:Laboratory of Barriology and Cell Biology)

研究テーマ

3. TJ-アピカル複合体研究

TJ-アピカル複合体の発見

上皮細胞シートにおける個々の細胞は、タイトジャンクション(TJ)によって強く接着し、敷石状の規則正しい細胞輪郭を有しています。アピカル側からみると、上皮細胞アピカル面とTJは、ひと繋がりに一体化しているように見えます。私共はごく最近、超解像光学顕微鏡SIMや超高圧電子顕微鏡トモグラフィー(UHVEMT)等の先進的な観察技術を用いることにより、アピカル膜の直下に規則的な微小管格子が分布し、さらにそれらが上皮組織の分化に伴い発達していくことを初めて見出しました(図1)。このアピカル微小管配列は、これまで上皮細胞において知られていた中心体から伸びる微小管とも、中心体と関係なく細胞長軸(アピカルーベーサル軸)にそって配列する微小管とも異なり、微小管の細胞内構築として全く認知されておらず、規則的な繊毛の配置等のアピカル構造の基盤をなしていました。加えて、この微小管がTJにリンクして一体として機能する可能性が示されました。さらに詳しい観察により、アピカル微小管の近傍には、中間径フィラメントやアクチンフィラメントも層状に「アピカル3層構造」として配置することから、アピカル骨格・TJ複合体を「TJ-アピカル複合体」というシステムとして定義しました(図1)。

図1.TJ-アピカル複合体の構造を示す模式図。
アピカル骨格は、アピカル細胞膜直下一面に広がる、上皮細胞シートに特有な新しい厚さ400㎚ほどの薄い細胞骨格構造として観察される。アピカル骨格は、TJにリンクして一体として機能する可能性が示されています。

TJ-アピカル複合体の特徴

アピカル骨格は、アピカル細胞膜直下一面に広がる、上皮細胞シートに特有な新しい厚さ 400 nm ほどの薄い細胞骨格構造として観察されます。上皮細胞種ごとに発達度合いや形態にバリエーションがみられるが、基本的に細胞アピカル表面側から順に、アクチンフィラメント層・中間径フィラメント層・微小管層の3層構造をとります。「TJ-アピカル複合体」は、アピカル面バリアと細胞間バリアを統合すると考えています。私共は、生体部位ごとのTJ-アピカル複合体の多様性も確認しており、組織においてTJ-アピカル複合体の構築は、組織平面内の極性 (PCP; planar cell polarity)(多数の培養上皮細胞のみならず、生体内で気管、小腸、肺、内耳など種々の臓器の上皮細胞で確認 )などの制御を受けることも確認しています。

図2.TJとアピカル複合体の両者に結合して、TJ-アピカル複合体の構築や機能を制御するTJ MAPs構成を示す模式図。
TJとアピカル骨格両者に結合する、複数の、TJ-アピカル複合体構成因子として、TJ-MAPsを同定しました。シグナル因子とも相互作用して、TJ-アピカル複合体のダイナミクスや情報伝達に重要な役割を担います。

TJ-アピカル複合体構成因子の同定と解析

TJ-アピカル複合体の解析を進めていく中で、TJとアピカル骨格両者に結合する、複数の、TJ-アピカル複合体構成因子として(TJMAPs)を同定しました。それらが、PTENやAMPKなどの著名なシグナル因子と相互作用することを見出しました(図2)。 TJ-アピカル複合体は、細胞内外の状況を反映し、細胞シグナル経路のインターフェースとして機能すると考え、その解析を進めています。これらのメカニズムを解明することで、上皮バリアによる生体機能の構築原理が明らかになると思われます。

私共では、上皮バリアを交叉するシグナル経路のハブとして「TJ-アピカル複合体」を考えています。進行中の最近の知見として、次の2点があります。

第1に、TJ-アピカル複合体は、アクチンフィラメント制御に加え、ミオシン収縮・微小管さらには中間径フィラメントの編成をも制御する。その結果、上皮バリアがダイナミックに制御される。

第2に、TJ-アピカル複合体は、当該複合体を構成する蛋白質を介して、複数の細胞シグナル経路の起点となるとの知見を得ている。これらシグナル経路は、上記 TJ-アピカル複合体を制御することにより、上皮細胞シート全体、さらに生体システムを構築する。

TJ-アピカル複合体を軸とした新しい上皮バリア研究は、上皮バリアの統合的理解を促進し、上皮バリアによる生体機能構築研究に新局面を開くと期待されます。それによって、新しい生体制御操作法が開拓されて、広く医療に役立ち、社会貢献につながることを目指します。