月田研究室 Tsukita Lab.(生体バリア細胞生物学研究室:Laboratory of Barriology and Cell Biology)

メッセージ

上皮バリア・タイトジャンクション(TJ)・TJ-アピカル複合体の視角から、生体システム構築を理解する。

月田研究室では、上皮細胞シートを主な研究対象として、細胞生物学研究を進めています。「視て考えて科学する」をモットーとしており、「電子・光学顕微鏡イメージングから展開する細胞生物学」が特徴です。上皮細胞同士を強く結合するタイトジャンクション (Tight Junction:TJ) を基軸に研究を進めています。

TJは、上皮細胞シートの最もアピカル側(体内表面側)で上皮細胞同士を側面で接着させます。その細胞間隙はTJ構成蛋白質であるクローディン(Cldn)でシールされることで細胞間バリアが構築され、細胞間隙の自由な物質透過が遮られ、調節されます。ここでは、上皮細胞のアピカル面バリアと合わせて上皮細胞シート表面全体で構築されるバリアを上皮バリアとよぶことにします。身体中の至るところで上皮バリアが活躍します。マクロには体全体や体内の肺腔・腹腔、ミクロには毛細血管や尿細管にいたるまで、上皮バリアによって覆われ、形作られます。上皮バリアの形態やその透過性は生体部位ごとに様々です。脳血管関門のように透過性が非常に低い上皮バリアや、腸管上皮バリアのようにNaイオン透過性が特に高い上皮バリア、肝内胆菅流に関わる上皮バリア、脳室や神経グリアのバリアなども知られており、研究を進めています。

上皮バリアにより体内微小環境が保たれます。小腸では、内腔に食べ物が隔離され、上皮バリアには微絨毛が多く存在します。微絨毛に栄養吸収トランスポーターなど機能的膜蛋白質の集積があって栄養が吸収されます。気管多繊毛上皮では、上皮バリアに多数の繊毛の同調運動が見られます。上皮・生体機能を考える上で、上皮バリアは重要な役割を果たします。

生体機能に重要な上皮バリア研究は世界的に活発ですが、私共では、TJを含む細胞間接着装置について、構造を保ったまま、生化学的に単離する方法を開発してから、添付の構成成分を多く同定・解析し研究テーマ参照、TJを基軸として上皮バリア分子構築研究を推進してきました。「形態と分子をつなぐ」分子細胞生物学を常に意識してきました。最近では、上皮バリアの構築と機能のために、TJと上皮アピカル膜を裏打ちするアピカル骨格が協働するシステムを「TJ-アピカル複合体」と定義して、生体機能構築についてユニークな視角から研究を進めています。超解像顕微鏡や超高圧電子顕微鏡トモグラフィーなどの新しい「視る技術」から得た発想ですが、このような考え方が受け入れられるには、まだ少し時間がかかるかもしれません。生体機能操作基盤としての「TJ-アピカル複合体」の役割を一歩一歩解明していきます。

当面、「TJ-アピカル複合体」については、細胞骨格動態を制御する様々な接着・骨格関連因子の同定と機能解析や、それに付随した細胞内シグナル経路を解析中です。TJを起点として、上皮バリア動態のシグナルがアピカル骨格に伝わり、「TJ-アピカル複合体」のダイナミズムを制御します。その変化は上皮バリア全体、生体へと波及して生体システムの構築・制御につながります。上皮バリアの細胞の境界を越す横の広がりと、上皮バリアを生体の一階層として捉える縦の広がりを考慮した生体システム構築に、「TJ-アピカル複合体」という切り口で挑みます。

  • TJ-アピカル複合体