月田研究室 Tsukita Lab.(生体バリア細胞生物学研究室:Laboratory of Barriology and Cell Biology)

研究テーマ

1. これまでの研究

月田研究室創設以前、月田早智子は、月田承一郎と共に、東京大学医学部解剖学教室にて、大学院生として、山田英智教授と石川春律助教授に師事し、生体を電子顕微鏡で繊細に観察して、構造と機能について考えることを学びました。同時に、月田承一郎は、東京大学脳研究所生化学教室 (黒川正則教授)、月田早智子は、東京医科歯科大学生化学教室(中尾真教授)に準研究室メンバーとして頻繁に通い、生化学・分子生物学を並行して学びました。1980年前後に、ヘリウムでの急速凍結電子顕微鏡やフリーズフラクチャー・フリーズエッチング法などの新しい電子顕微鏡の技術や、新しい光学顕微鏡法も取り入れて、分子生物学と融合した「視ることにこだわる生物学・医学」を学びました。細胞膜・細胞骨格・細胞運動・膜輸送(神経軸索輸送)などのテーマに沿って研究を進めました。

月田承一郎が東京都臨床医学総合研究所で室長として研究室を開設してから、月田早智子は、共に研究員として共同研究を推進しました。その後、研究室は、自然科学研究機構生理学研究所、京都大学医学部医化学教室と移動しました。京都大学で月田早智子は、京都大学大学院医学研究科教授・月田承一郎と共に、京都大学医療技術短期大学部教授・京都大学大学院医学部保健学科教授として、研究・教育を推進しました。2005年に月田承一郎が病気で急逝し、2007年より、月田早智子は、大阪大学大学院生命機能研究科・医学系研究科教授として、これまでの研究・教育をさらに推進しています。細胞の構造にあくまでこだわり、細胞接着研究・細胞膜研究や細胞骨格研究を発展させています。さらに最近は、特にタイトジャンクション(TJ)研究を主軸とした上皮バリア研究に注力しています。上皮バリア構築上重要な「TJ-アピカル複合体」を上皮細胞シート最表層に見出し、その分子構築と機能解析に取り組んでいます。

20世紀後半、電子顕微鏡の技術進歩は、上皮細胞間のバリアをつくる構造であるタイトジャンクション(TJ)構造を明らかにしました。上皮細胞生理学が盛んに行われ、TJによる上皮細胞間バリア特性についての理解が進みました。ところが、遺伝子や蛋白質レベルでTJ理解を目指す分子生物学的研究は大幅に遅れていました。それはTJが、そのしっかりした構造に特徴があり、難溶性で単離が困難な構造であったこと、接着分子の抗原性の弱さから抗体ができにくく、TJを構成する多くの分子が同定できなかったためでした。

私共では、「電子顕微鏡を駆使する細胞生物学」を進めていたこともあり、ホモジナイズした細胞の断片を詳しく形態学的に吟味していくという独特の手法を用いることで、TJを機能的複合体として単離し、純度の高いTJ画分の精製に成功しました。20世紀終わりのことでした。精製したTJ分画を用いて、クローディン(Claudin: Cldn)ファミリーや ZO1 など新規TJ構成成分を多数同定することができました。 最近では、名古屋大学CeSPIの藤吉好則研究室との共同研究により、高分解能(2.4オングストローム)で、Cldn構造決定に成功しました。これまでは想像に頼っていたTJの細胞間バリアを、より根拠のあるモデルとして構築することができたことで、細胞間バリアを標的とした、TJバリアの構造から考案した創薬の発展も期待されます。細胞間バリアとアピカル面バリアの連携をうかがわせるデータも得られています。その連携を支える「TJ-アピカル複合体」の解析は、現在の私共の主要テーマとなっています。

「TJ-アピカル複合体」は、気管上皮バリアにおいて、多繊毛協調運動を創出します。 そのメカニズム解析のために、分化を対象にした長時間ライブイメージングシステムを新たに開発しています。数理生物学も取りいれ、異分野融合研究として、意欲的に取り組んでいます。

上皮バリア研究の新たな展開は、システム医学生物学を発展させ、生体の構造と機能の操作基盤を開拓するものと期待しています。