パワースペクトルの実際の作業内容-12
トラップされたビーズのブラウン運動の場合
トラップされたビーズのブラウン運動の場合は,ここで説明したように,メトロポリス法を用います.
では実際に確かめてみましょう.
元データ
トラップされたビーズのブラウン運動
実際の波形の時間 (s) : Stime = 262.144 s
サンプル周波数 (1/s) : Sfreq = 20,000 kHz
サンプル時間分解能 (s) : dt = 0.00005 ms
実際の波形の数 : n = 8388608 = 223
FFTサイズ : 1024
とサンプル周波数(およびサンプル時間分解能)を一桁上げています.
それは,トラップされたビーズのブラウン運動の場合,当分配の法則から,
\(\Large \displaystyle \frac{1}{2} \ K <x^2> = = \frac{1}{2} \ k_B \ T \)
K : ばね定数 (pN/nm)
<x2 > : ゆらぎの二乗変位 (nm2)
kB : ボルツマン定数
T : 絶対温度
の関係にあるためで,また,ここ,にあるように,dtとdxとの関係は,拡散の式から,
\(\Large \displaystyle dt = \frac{<x^2> }{2D} \)
\(\Large \displaystyle D = \frac{k_B T}{ \gamma} \)
\(\Large \displaystyle \gamma = 6 \pi \ \eta \ r \) (球の場合)
D : 拡散係数 (nm2/s)
η : 粘度 (N/s)
r : 球の半径 (nm)
ので,dxは,
\(\Large \displaystyle dx = \sqrt{ <x^2> } = \sqrt{2 \times \frac{k_B T}{ 6 \pi \ \eta \ r} \times dt} \)
で決まります.
したがって,上記の条件では,
dx = 4.69 nm
となります.
さて,トラップされたビーズのブラウン運動の場合,パワースペクトルはローレンツ型となりますが,
\(\Large \displaystyle \Phi (f) = \frac{ \Phi(0)}{1 + \left( \frac{f}{f_c} \right)^2}\)
ここで,
\(\Large \displaystyle \Phi (0) = \frac{ 2 \ k_B T \ \gamma}{k^2}\)
\(\Large \displaystyle f_c = \frac{ K}{2 \pi \ \gamma}\)
です.
実際に作成してみると,
となります.
ここで,
\(\Large \displaystyle K = 0.01 pN/nm \)
としたので,
\(\Large \displaystyle <x^2> = \frac{k_B T}{K} = \frac{4.14 \times 10^{-21} Nm}{0.01 \times 10^{-3} N/m} = 414 \ nm^2 \)
と理論上計算できます.実際の波形の分散値は,
413.41 nm2
となり,一致していることがわかります.
これを,
100-10000 Hz
10-100 Hz
1-10 Hz
で分けて考えてみます.
加算平均 | ローパス | 間引き | df | |
100-1000 Hz | 8192 | - | 0 | 19.5 Hz |
10-100 Hz | 81 | 100 Hz | 100 | 0.195 Hz |
1-10 Hz | 8 | 10 Hz | 1000 | 0.0195 Hz |
このようなパラメータでローパス,間引き,加算平均を掛けてみます.
上から,
100-10000 Hz
10-100 Hz
1-10 Hz
となります.
このデータを各周波数帯で切り取り,融合させると,
という形となり,
\(\Large \displaystyle \Phi (f) = \frac{ \Phi(0)}{1 + \left( \frac{f}{f_c} \right)^2}\)
どおりのカーブとなり,
ここで,
\(\Large \displaystyle \Phi (0) = 3.121 nm^2 / Hz\)
\(\Large \displaystyle f_c = 84.43 Hz\)
の理論値とぴったりフィットします.
ちなみに,dt = 0.0005 sと10倍荒くして計算すると,ローレンツ型にはなりますが,Φ(0),fcの値それぞれが若干くるってきます.
dx = 14.8 nm
とビーズのブラウン運動をシミュレートするには荒すぎたのですね.
最後にまとめです.