研究内容

1. 伝搬型表面プラズモン共鳴を利用したラマン散乱光の増強

特定の条件下で金属に光を照射すると、金属中に存在する自由電子の集団的振動が励起され、金属表面に局在した非常に強い電場分布が形成されます。この現象は表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance (SPR))と呼ばれ、共鳴条件が金属薄膜上部の屈折率に依存することを利用して表面プラズモンセンサーなどの幅広い用途に応用されています。私たちは伝搬型SPRによる電場増強効果の空間的一様性を利用したラマン散乱光の増強イメージングシステムを開発しています。

図1 伝搬型SPRによって増強されたローダミン6G色素のラマン散乱光の増強度と入射光角度の依存性
K. Honda, H. Ishitobi, and Y. Inouye, J. Phys. Chem. C 125, 27678-27684 (2021).

2. 表面プラズモン共鳴を用いた金属イオン顕微イメージング

細胞のイオン授受の動態をラベルフリーかつ高空間分解能にイメージングすることは生命機能の詳細な理解につながるため、様々な病気の原因解明、新薬開発への展開が期待される。私たちは特定の金属イオンを補足することができるイオノファを用いた表面プラズモン顕微イメージングシステムを開発しています。

図2 支持脂質二重膜(SLB)を通過したK+濃度変化のSPRイメージング
H. Tanaka, K. Masui, R. Tero, H. Ishitobi, S. Refki, Z. Sekkat, and Y. Inouye, ACS Photonics 9, 3412-3420 (2022).

3. 神経シナプス活動における神経伝達物質のラマン計測

神経細胞間での信号の伝達において、細胞体から伸びた樹状突起と軸索の間隙に形成されるシナプス部位が重要な役割を担います。このシナプス部位では、グルタミン酸に代表される神経伝達物質が信号の伝達を担います。私たちは化学物質を直接計測・分析する手法であるラマン散乱分光法を用いた神経伝達物質の動態を観察する方法の確立と神経シナプス活動のライブイメージングの実現を目指しています。

図3 グルタミン酸分子を封入したリポソームのレーザートラッピングとラマンスペクトル
K. Masui, Y. Nawa, S. Tokumitsu, T. Nagano, M. Kawarai, H. Tanaka, T. Hamamoto, W. Minoshima, T. Tani, S. Fujita, H. Ishitobi, C. Hosokawa, and Y. Inouye, ACS Omega 7, 9701-9709 (2022).

4. アゾ系ポリマーの光誘起物質移動を利用した光ナノ計測・操作

アゾベンゼン基を側鎖に持つポリマーに光を照射すると、アゾベンゼンの光異性化反応によって分子が空間的に移動することでポリマーが変形する現象が知られています。この現象を利用すれば、光エネルギーを運動エネルギーに直接変換できるので、光によるメカニカル機能を発現できます。また、誘起された変形形状は、入射した光の強度分布や偏光状態に依存することを利用すれば、回折限界によって光学顕微鏡では観察することのできないナノ物質周囲の光の状態を観察することができます。

図4 50 nmの金ナノ粒子が埋め込まれたアゾポリマーフィルムの光誘起ポリマー変形。変形状態から光の回折限界によって光学顕微鏡では見ることのできないナノ粒子周囲の光強度分布および偏光状態が分かる。
H. Ishitobi, T. Akiyama, Z. Sekkat, and Y. Inouye, J. Phys. Chem. C 124, 26037-26042 (2020).
H. Ishitobi, T. Kobayashi, A. Ono, and Y. Inouye, Optics Communications 387, 24-29 (2017).