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多細胞体形成に必要な細胞運動特性

 細胞の運動は従来、多細胞体中から取り出した細胞をシャーレ上に移して観察されてきました。しかしこの人工的な条件は、細胞が周囲の細胞と押し合いへし合いしながら3次元的に動く生体中とはかなり異なります。実際、より生体中に近い条件で観察された細胞運動は、シャーレ上での運動とは異なる部分があると考えられるようになっています。
 本研究では細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)を用い、多細胞状態での運動特性を調べています。この生物は、細胞運動機構が哺乳類細胞と類似しているうえ、多細胞体中での運動をそのまま観察するのが容易です。更に、単細胞アメーバとして運動する時期もあるので、両条件での運動特性を比較できます。
 細胞は運動する際、周囲に接着して足場とします。この接着点の形成・制御に重要な talinと呼ばれるタンパク質が粘菌には2種類ありますが、それぞれが単細胞期、多細胞期の運動に重要な分子である事がこれまでに分かっています。また、この二つの遺伝子を改変する事により、単細胞状態、多細胞状態でしか運動できない細胞を作る事にも成功しています(ムービー参照)。今後これらの遺伝子、細胞の解析を通して、多細胞体中での運動に必要な要素を明らかにしていく予定です。

参考文献

1) M. Tsujioka, L.M. Machesky, S.L. Cole, K. Yahata and K. Inouye “A unique talin homologue with a villin headpiece-like domain is required for multicellular morphogenesis in Dictyostelium.” Current Biology 9, pp389-392 (1999).
2) M. Tsujioka, K. Yoshida and K. Inouye ”Talin B is required for force transmission in morphogenesis of Dictyostelium.”EMBO J. 23, 2216-2225 (2004).
3) M. Tsujioka, K. Yoshida, A. Nagasaki, S. Yonemura, A. Muller-Taubenberger, and T.Q. Uyeda “Overlapping Functions of the Two Talin Homologues in Dictyostelium. ” Eukaryotic Cell 7, pp906-916. (2008).