菌体内ナトリウム濃度の測定,その7

そもそも,なぜ細胞内の蛍光強度分布は図1Eのような分布を持つのでしょう?
その一つの説明が,
 細胞が丸い
です.
細胞は丸いのですから,当然中央の方が断面が長くなり,含まれる蛍光色素の数が増えます.
端に行くに従って,断面は短くなり,蛍光色素の数は減っていきます.

その強度は,細胞の厚みに比例して,

となります.
そのカーブは,図のようになります.

細胞の断面の厚み

当然ながら,半円となりますね.
この図は,直径が1ミクロンの細胞における断面の厚みをプロットしたものです.
しかしながら,実際の強度分布とはだいぶ違いますね.

                            Lo et. al., 2006, BJより

もっとなだらか...
これは,以前にも説明したように,輝点から発せられた光がある幅を持つからなのです.
輝点から発せられた光は200nm程度の偏差を持ったガウス分布(PSF)を取ると思われます(実際にはもっと大きいでしょうが...).

PSF

つまり,先ほどの半円の各ポイントから,上図のような広がった光が出る,と考えればいいのです.
この計算を,コンボリューション,たたみ込み,と言います.
その結果,観測できる蛍光の強度分布は,以下の図のようになるのです.

コンボリューションの結果

このグラフは上の二つのカーブのコンボリューションの結果です.
Loの結果とよく似ていますね.

このように,がんばれば,
 蛍光の強度分布
 細胞の大きさ
 輝点のPSF

から,実際の蛍光強度を見積もることは可能です.

では,なぜこの方法をLoは取らなかったかというと,彼の返事をそのまま掲載しましょう.

The cell size is only few times than diffraction limits.
Thus the cell edge will be blurred. The fluorescence intensity is not simply proportional to sqrt(r2-x2), you can see in Figure1E.
Even more complex in the two long ends. The main problem is how to define the edge of the cell and define a reasonable fluorescence intensity to reflect the true fluorescent signal from a cell.
That's why we come up with this method using histogram.

つまり,
 細胞が小さいので,光の回折限界と同程度である.
 従って,細胞の端を見積もるのは難しいので,今回のような手法を用いた

となりますね.
確かにその通りかも知れません.
 今回の手法で果たして蛍光強度の見積もりが可能か?
 その際の精度はLoらとくらべて勝っているか?

など,試してみたいですね.

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