さて,回転モーター,の項で説明したように,バクテリアには主に二つの種に分けることができます.
それは,
プロトン型:大腸菌など
ナトリウム型:ビブリオ菌など
です.
それぞれ,計測において,メリット,デメリットがあります.
プロトン型
・メリット
大腸菌に代表されるように数多くの研究がある.
菌の周囲にモーターがあるので,菌をしっかり基板上に固定して回転計測できる
・デメリット
入力の制御ができない(イオンの制御)
ナトリウム型
・メリット
入力の制御が簡単(ナトリウムイオンの制御)
・デメリット
研究の数が少ない
極毛のため,回転を計測するためには,菌を斜めにしなくてはならない
と言うものです.
両者一長一短なのです.
ここで,注目したいのが,入力の制御,です.
先に述べたように,1回転中の詳細をきちんと計測するためには,できるだけゆっくりと回転してほしいのです.
では,回転速度は何によって制御されているか,と言うと,
イオン駆動力
なのです.
ですので,イオン駆動力を低くすることができれば,回転速度を落とすことができるのです.
もう一度,イオン駆動力の式を見てみましょう.
つまり,
膜電位を下げる
外部イオン濃度を下げる
内部イオン濃度を上げる
を行えば,イオン駆動力を下げることができます.
では,この中で一番簡単なのが,
外部イオン濃度を下げる
です.
膜電位や内部イオン濃度は,生きている個体において操作するのは大変です.
なぜなら,生き物はそれ自体に補償回路を持っているからなのです.
そのことを,
恒常性 (Homeostasis)
と呼びます.
では,なぜプロトン型の入力の制御が難しいのでしょう?
それは,
外部のプロトン濃度を下げる
と言うことが,
外部のpHを変化させる
ということと等価だからです.
pHを変化させると,生命活動に様々な影響を与えてしまいます.
ですので,単純にイオン駆動力だけを変化させることにならないのです.
プロトン型 | ナトリウム型 |
一つ例を示しましょう.
大腸菌の遊泳速度を外部の溶液のpHを変化させて計測した実験があります(論文名を後で調べます).
その際に,pHを4.7から8.8まで変えました.
しかし,遊泳速度はほとんど変化しなかったのです.
pHを4.7から8.8まで変えるとどのくらい外部プロトンイオン濃度が変化するのでしょう?
pHの定義は,
です.つまり,4.7と8.8のプロトン濃度の差は,
つまり...1万倍ものプロトン濃度を変化させているのです.
もちろん,イオン駆動力の式の中では,外部イオン濃度は対数で効いてくるので,イオン駆動力自体は4倍しか変わりませんが.
それにしても,なぜ遊泳速度も4倍変化しないのでしょうか?
たぶんですが,バクテリアは外部のpHを関知して,イオン駆動力を変化しないようなシステム,膜電位か,内部イオン濃度かはわかりませんが,を持っているのです.
それに対して,ナトリウムイオンはプロトンイオンに比べて,それほどイオン駆動力以外に影響を受けないことが知られています.
つまり,ナトリウム型の方が,イオン駆動力を制御しやすいのです.
この両者の長所のみを取り出したのが,キメラ菌体なのです.