さて,キメラ菌体を作成したのは,本間研(名古屋大学)の浅井さんという研究者です.
Asai Y, Yakushi T, Kawagishi I, Homma M.
Ion-coupling determinants of Na+-driven and H+-driven flagellar motors.
J Mol Biol. 2003 Mar 21;327(2):453-63.
彼女らは,なんとプロトン型とナトリウム型とのキメラタンパクを作成し,
大腸菌上でナトリウム型のモーター
を作り出してしまったのです!
それが,下の図となります.
先に述べたように,バクテリアべん毛モーターには,固定子と回転子からなることが知られています.
この固定子はプロトン型,ナトリウム型で違い,
プロトン型:MotA, MotB
ナトリウム型:PomA, PomB
となります.
ナトリウム型にはさらに,
MotX, MotY
が回転には必須となります.
彼女らが作ったキメラ菌体は,この固定子の一つをプロトン型(MotB)とナトリウム型(PomB)のキメラタンパク(PotB)にしたものです.
つまり,
菌体:大腸菌
回転子:プロトン型
固定子:PomA+PotB, MotX, MotYはなし
です.
これが,
ナトリウム型
のモーターとして機能しているのです!
となると,
大腸菌でナトリウム型のモーター
となり,計測屋にとって,最高の素材となるのです!
ここで,計測に適するように,
pili(菌体表面に存在する突起物)
FliC sticky(ビーズと結合しやすくなるフラジェラタンパク)
MotAなどを完全削除
などの改変は行いましたが.
これで,正確な回転計側ができるようになったのです.
つまり,回転計測での問題点は,
モーターの複雑さ → 固定子をプラスミドから発現させることにより発現量を調整
回転の速さ → 外部ナトリウム濃度を下げることによりイオン駆動力を下げる
期待されるステップの小ささ → 感度のいいナノ計測システムを用いる
ことにより解決できたのです.
では次に実際の結果を見ていきましょう.