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「生命現象の物理B」特設ページ

有賀が生物科学科3,4年生向けに担当している秋学期講義「生命現象の物理B」の特設ページです。
内容は随時更新していく予定です。(有賀のページに戻る

シラバス

目的と概要

「生きているもの(生命現象)」の「理(ことわり)」を理解することを目的に、生命現象の理解に物理学の考え方や手法を取り入れてゆく。 この講義では、対象とする生命現象については生体分子モーターや細胞の運動などに絞りつつ、その理解の基礎となる様々な物理学について幅広く(ただし残念ながら浅く)学んでゆく。 物理学のもつ「普遍的な構造」が、授業では取り上げきれなかった様々な生命現象の理解、ひいては人類全体の知性の向上に役立てることを可能とする。

学習目標

生命現象の背景にある物理学の考え方や手法を学び、それらを各自の興味のもつ生命現象の理解に役立てることができる。

ざっくりいうと

各回の講義で、基礎となる物理学(物理学科では通常半期かけてやる内容)を30分程度で概説し、その応用例となる生命現象や計測技術を原理から紹介していきます。 講義内では式の展開はいちいち追いませんが、数式の持つ物理的な意味や意義は必ず把握するように心がけてください。 論文の中に見慣れない数式や記号が出てきても怯まない心を身につけるのも目的の一つです。 しかし、この講義だけで物理を理解するのは不可能です。もし講義内で紹介した物理学に興味を持った際には、講義内(このページ後半)に挙げた各回の参考資料を入手して、実際に自分の手を動かして数式の展開から追いかけてみましょう。

授業計画

()内は対応する物理学分野です。「▼目次」をクリックすると各回の目次が開きます。

第1回「生命現象の物理学、あるいは生物物理学とは」(生物物理学)

「生物物理学」という学問について概観する(▼目次)

第2回「エネルギー論 ミクロな世界の熱力学」(平衡熱力学)

「熱力学」の概要と、その生命現象への応用例を学ぶ(▼目次)

第3回「反応速度論と力学系」(力学系)

反応速度論や疫学モデル等の「力学系」を通じて、生命現象を数式に落とし込む意義を学ぶ。(▼目次)

第4回「生体分子と相互作用」(平衡統計力学)

「平衡統計力学」の概要と、生体分子に働く様々な力を学ぶ(▼目次)

第5回「熱ゆらぎとブラウン運動」(非平衡統計力学)

ブラウン運動の歴史から、アインシュタインの関係式やランジュバン方程式を学ぶ(▼目次)

第6回「分子機械① 様々な生体分子モーター」(科学史)

生体分子モーターについて研究の歴史を追って学ぶ(▼目次)

第7回「計測手法① 蛍光1分子計測から超解像へ」(量子力学)

「量子力学」の概要と、その応用例となる蛍光1分子計測手法や超解像イメージングを学ぶ(▼目次)

第8回「計測手法② 生体分子の力学操作手法」(電磁気学)

「電磁気学」の概要と、その応用例として生体分子を力学操作する手法である光ピンセット法や磁気ピンセット法などを学ぶ(▼目次)

第9回「計測手法③ 顕微鏡構築の基礎と実際」(光学)

光学顕微鏡の基礎となる「光学」を学び、顕微鏡構築の実際例を理解する(▼目次)

第10回「分子機械② 数理モデルと効率」(非平衡熱力学)

生体分子モーターの数理モデル化手法と、様々な効率の評価方法について学ぶ(▼目次)

第11回「細胞の動的な振る舞いと集団運動」(連続体力学・流体力学)

「連続体力学」と「流体力学」の概要と、それらの応用例として、細胞骨格の動的な振る舞いや、細胞の集団運動について学ぶ(▼目次)

第12回「生命現象の情報処理と自発性」(情報熱力学)

「情報熱力学」を通じて、生命現象における「情報」の取り扱いについて学ぶ(▼目次)

第13回「生体膜の動態と相分離」(相転移と臨界現象)

「相転移」の概要と、その応用例として生体膜の動態や細胞内での相分離現象を学ぶ(▼目次)

第14回「細胞・組織の力学構造と非熱的なゆらぎ」(レオロジー)

細胞や生体組織スケールの力学構造と、その基礎となる「レオロジー」という学問を学ぶ(▼目次)

第15回「最新の研究事例」

最新の研究事例を紹介する(予備日)


参考資料一覧

より深く理解したい人のために、参考となる(講義にも参考にした)物理学の教科書をいくつか挙げておきます。

第1回 生物物理学全般

・鳥谷部祥一「生物物理学」

  本講義は基本的にこの教科書をベースとしています。濃密な内容が非常にコンパクトにまとめられている名著。
  ただし、物理学科向けに書かれているため物理を履修していないと読み通すのは難しい。そのため、各回の講義で対応する物理学を概説しています。

・Ron Milo, Rob Phillips「数でとらえる細胞生物学」

  実例が豊富なのでイラストや数字を講義内で多数引用する。ただし、日本語訳は良くない。原著の英語版は Webで全公開されている。

・Rob Phillips 他「細胞の物理生物学」

  世界的標準とされている生物物理学の教科書。非常に分厚い。独特な構成だが、統計力学の説明が丁寧でよい。分子モーター関連の記述はちと古い。

第2回 熱力学

・佐々真一「熱力学入門」

  必要最小限の情報がコンパクトにまとまっているため、本講義ではこれをベースにした。定理→証明の流れは生物系読者には読みにくいかも?

・田崎晴明「熱力学-現代的な視点から-」

  操作的に各種の熱力学量を定義していく様は圧巻の一冊。ページの半分以上を占める注釈部分を読んでいくだけでも頭が良くなった気になれる。

・清水明「熱力学の基礎 第2版 I,II」

  先にエントロピーの要請を与えて残りを導出してゆく独特な構成。ミクロな立場を無視しない姿勢が、マクロな抽象化を苦手とする人には嬉しいかも。

第3回 力学系

・金子、澤井、高木、古澤「細胞の理論生物学」

  本講義で主に参考にした教科書。生命の起源に迫る第9章の話が面白い。10章では情報理論の基礎から最新の情報熱力学の話まで纏めてある。

・畠山哲央、姫岡優介「システム生物学入門」

  上記著者の弟子達が書いた界隈で話題の教科書。大きめの本なのに縁までみっちりと文字が詰まってる。熱統計力学の説明も丁寧でわかりやすい。

・望月敦史「理論生物学概論」

  基本的なところから著者が独自に開発した理論まで幅広く解説している。「数理的手法」を各章に独立して纏めてある点が便利。

・ストロガッツ「非線形ダイナミクスとカオス」

  こちらは力学系の数学部分の教科書だが、生物への適用例も豊富。ページ数が多い分、本当に基礎の基礎から始まるのでサクサク読みやすい。

第4回 平衡統計力学

・加藤岳生「ゼロから学ぶ統計力学」

  軽妙なタッチだが、現代的な視点でとてもわかりやすく書かれていて生物系読者にもオススメ。ただし、ギャグはすべっている。

・田崎晴明「統計力学I」「統計力学II」

  これが読み通せればあとはいらない。同著者の「熱力学」同様、注釈部分を読んでいくだけでも頭が良くなった気になれる。

第5回 熱ゆらぎとブラウン運動

・江沢洋「だれが原子をみたか」

  名著of名著その1。なんと中学生向けに書かれている。長らく絶版だったが、文庫で復刻した。分子の実在に至る理解の歴史を実験も交えて辿る。

・米澤富美子「ブラウン運動」

  名著of名著その2。こちらは大学1,2年生むけ。薄いのでさっくりと読めるが内容は超濃密。アインシュタイン関係式の原著に沿った導出も。

第6回 生体分子モーター

・Jonathon Howard "Mechanics of Motor Proteins and the Cytoskeleton"

  唯一無二といってよい生体分子モーターと細胞骨格の教科書。2001年出版。前半1/3の微小系での基礎物理の各章はコンパクトでとても良い。

・柳田敏雄「生物分子モーター - ゆらぎと生体機能」

  寝っ転がって読める軽い読み物。2002年出版。マクスウェルのデーモンに触れている。

第7回 量子力学

・高田健次郎「わかりやすい量子力学入門」

  教科書というよりは、黎明期の理解の歴史を数式つきで追いかける読み物といった趣き。本講義で紹介する量子力学はこの本の圧縮版に近い。
  Web解説 http://ne.phys.kyushu-u.ac.jp/seminar/I-seminar.html の書籍版でもある。

・清水明「新版 量子論の基礎」

  現代的な視点で練り直したガチの教科書。コンパクトながら超濃密で、場の量子化やベルの不等式まで、前提知識なしで読めるようにできている。

・小出昭一郎 「量子力学I, II(新装版)」

  私が学部のときに使ったスタンダードな教科書(の一つ)。新しくはないが、最近になって新装版が出るほどのロングセラー。

第8回 電磁気学

・加藤岳生「電磁気学入門」

  Maxwell方程式と電磁波の導出までを丁寧に解説した教科書。「ゼロから学ぶ統計力学」と同著者だがこちらはネタ成分がなくて物足りない。

第9回 光学

・川田善正「はじめての光学」

  物理向け教科書にしてはやさしめに書かれている。コンパクトだが最新のトピックスまで網羅。電磁気学の説明も超コンパクトに纏まってる。

・野島博「顕微鏡の使い方ノート」

  顕微鏡を実際に使うなら必ず手元に(ラボに)一冊置いておきましょう。

光学に関しては企業のWebページがとてもよく書かれていて参考になります。

・オリンパスライフサイエンス(EVIDENT)「顕微鏡を学ぶ」

  https://www.olympus-lifescience.com/ja/support/learn/

・株式会社ニコン「細胞×画像ラボ」

  https://www.healthcare.nikon.com/ja/ss/cell-image-lab/

・日本顕微鏡工業会「(光学を中心とした)顕微鏡の基礎」

  https://www.microscope.jp/knowledge/index.html

・光響「Optipedia」

  https://optipedia.info/

・「光学技術の基礎知識」

  https://www.optics-words.com/

第12回 情報熱力学

・沙川貴大「非平衡統計力学 - ゆらぎの熱力学から情報熱力学まで」

  いわずとしれた情報熱力学という新しい学問分野を創造した沙川さん自身の書き上げた一冊。日本人に生まれたことを感謝しましょう。

第13回 相転移と臨界現象

・西森秀稔「相転移・臨界現象の統計物理学」

  講義で触れる内容はこの本の2章あたりまで。平均場近似の中でランダウの擬似自由エネルギーにも触れています。後半はまだ読み切れていません^^;

第14回 レオロジー

・村上健吉「レオロジー基礎論」

  レオロジーという学問をちゃんと学ぶならこれ。最後に生物への応用例(バイオレオロジー)についても触れています。

・上田隆宣「測定から読み解く レオロジーの基礎知識」

・荒木修「レオロジーの基本」

  どんな学問かざっくりと知りたい人向けの2冊。企業にとって需要のある学問なわりに大学ではやらないことが多いので、入門本が充実しています。

・Furst & Squires "Microrheology"

  恐らくマイクロレオロジーに関する唯一の教科書。日本語なら九州大学の水野大介教授の書かれた日本語総説を検索するとよいでしょう。

※欠けてる回は徐々に足してゆきます。

その他の担当講義

公開シラバス (シラバス検索から教員名の欄に「有賀隆行」を入れて検索してみてください)
・大阪大学・秋冬学期開講講義・「生命現象の物理B(理学部3,4回生)」→生命現象の物理B 特設ページ
・大阪大学・秋冬学期開講講義・「現代生物科学の基礎(全学)」
・大阪大学・春学期開講実習・「基礎生物学実験・タンパク質の分離(全学)」
・大阪大学・秋学期開講実習・「生物学実験2(理学部3回生)」
・大阪大学・春学期開講講義・「生物科学特論 G3(理学研究院大学院生)」
大阪大学の学生にはCLEにて講義資料を配布しています。履修登録せずに講義にもg資料の欲しい方はメールしてください。

・こちらは前職の山口大学医学部で作成した参考資料(PDF)です→実習レポートを書く際の注意点英語論文の読み方・書き方プレゼンの作り方
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