Venusはなぜ明るい?
GFP由来の蛍光タンパクは様々な種類があり,我々は目的に応じて蛍光タンパク質を選びます.
選ぶに当たって,重要なポイントは励起波長,蛍光波長があげられますが,もう一つ重要なポイントが,
明るさ
ですね.
簡単に言うと,明るければ明るいだけいい,のです.
そこで,注目を浴びているのが,Venus,です.
これは,2002年に,永井・宮脇らによって発表された蛍光タンパクで,プレスリリースには,
従来の改変 GFPと比較して、大腸菌内で 30~100 倍、ほ乳類の細胞内で 3~100 倍の明るさを達成
とあります.しかし....筑波大学の三輪 佳宏研究室のリストには,
タンパク質名 | 分子吸光係数 | 量子収率 | 輝度 | 半減期 |
EYFP | 84,000 | 0.63 | 52.9 | Long |
Venus | 92,200 | 0.57 | 52.4 | Long |
とEYFPとあまり変わらない値となっています(上記HPより抜粋)
永井さん(阪大・産研)に直接聞いてみました.
ヒントは,さりげなく論文に書かれている,以下の文章です.
some mutations of F64L/M153T/V163A/S175G decreased the pH sensitivity of YFP
つまり, pH感度が下がる ≒ pHによらず安定した蛍光を発する
ということですね.
上記論文のTable 1.を見ると,
Name | pKa |
EYFP | 6.9 |
Venus | 6.0 |
とあります.つまり,YFPとVenusとではpK値が異なるのです.
では,一般的なGFP,YFPはpHによってどのような蛍光強度を示すのでしょうか?
を見ると,cCl-YFPの場合,pHが高くなるほど蛍光高強度が上昇することがわかります.つまり,
脱プロトン化すると蛍光を発する
ということのようです.
つまり,EYFPのpKは約7なので,pH7で実験するばあい,半分程度のEYFPは蛍光を発しないことになります.
VenusのpK値は6.9なので,pH7の環境下においては,ほとんどのVenusは蛍光を発することになります.
では,YFPとVenus,pH7.0ではどの程度脱プロトン化しているのでしょうか?
pK値の計算,から,
YFP
\(\Large H \cdot YFP \longleftrightarrow H^{+} + YFP^{-} \)
\(\Large K = \frac{[H^{+}] [YFP^{-}]}{[H \cdot YFP]} \)
となり,YFP-,が蛍光を発することになりますね.
\(\Large pH = pK + log \frac{ [YFP^{-}]}{[H \cdot YFP]} \)
pK = 6.9なので,pH = 7.0の場合,
\(\Large log \frac{ [YFP^{-}]}{[H \cdot YFP]} = 0.1 \)
\(\Large \frac{ [YFP^{-}]}{[H \cdot YFP]} = 1.26 \)
となるので,YFP全体に対する蛍光を発するYFPの割合は,
\(\Large \frac{ [YFP^{-}]}{[H \cdot YFP] + [YFP^{-}]} = 0.56 \)
となり,約半分のYFPが蛍光を発しないことになります.
Venus
\(\Large pH = pK + log \frac{ [Venus^{-}]}{[H \cdot Venus]} \)
pK = 6.0なので,pH = 7.0の場合,
\(\Large log \frac{ [Venus^{-}]}{[H \cdot Venus]} = 1 \)
\(\Large \frac{ [Venus^{-}]}{[H \cdot Venus]} = 10 \)
となるので,Venus全体に対する蛍光を発するVenusの割合は,
\(\Large \frac{ [Venus^{-}]}{[H \cdot Venus] + [Venus^{-}]} = 0.91 \)
となり,約90%のYFPが蛍光を発することになります.
pHとの関係を図示すると,
となります.
ただ,これだけなら単に2倍程度の差ですね...
さらにもう一つ,フォールディング速度が約14倍もVenusは早いそうなので,フォールディングされている蛍光タンパクの割合の差も考慮に入れなくてはならないようです. (生物物理 Vol. 42(2002) No. 6 通巻244号 より)