サイコロを振って,”6”が出るまでの回数はどのような分布になるか?
さて,一分子計測による解析手法,というコーナーになぜ,さいころ?と疑問に思われる方もおられるかと思いますが,結構重要な問題です.
サイコロを振って,”6”,が出る確率は?という問いはすぐにわかりますね,答えは,1/6,です.
では,サイコロを振って,”6”が出るまで何回サイコロを振るか?その分布は?というのが,今回の問題です.
まずは,一回で6が出る確率は,1/6,です.
では,2回目で6が出る確率は,1/6,ではありません.
この問いをもっと正確に記述すると,
1回目は6が出なくて,2回目に6が出る確率
なのです.
ですので,その確率は,
\( \Large \displaystyle \left( 1 - \frac{1}{6} \right) \times \frac{1}{6}\)
となるのです.
つまり,
1回目 : \( \Large \hspace{ 108pt} \displaystyle \frac{1}{6} \)
2回目 : \( \Large \hspace{ 12pt} \displaystyle \left( 1 - \frac{1}{6} \right) \hspace{ 18pt} \times \frac{1}{6}\)
3回目 : \( \Large \displaystyle \left( 1 - \frac{1}{6} \right)^2 \hspace{ 14pt} \times \frac{1}{6}\)
n回目 : \( \Large \displaystyle \left( 1 - \frac{1}{6} \right)^{n-1} \times \frac{1}{6}\)
という法則性があります.確率で表すと,
\( \Large \displaystyle P(n) = \left( 1 - \frac{1}{6} \right)^{n-1} \times \frac{1}{6}\)
となります.このままでは使いづらいので,指数に直すと,
\( \Large \displaystyle ln \ P(n) = ln \left[ \left( \frac{5}{6} \right)^{n-1} \times \frac{1}{6} \right] \)
\( \Large \displaystyle \hspace{ 49pt} = (n-1) \cdot ln \left( \frac{5}{6} \right) + ln \frac{1}{6} \)
\( \Large \displaystyle \hspace{ 49pt} = n \cdot ln \left( \frac{5}{6} \right) - ln \left( \frac{5}{6} \right)+ ln \frac{1}{6} \)
\( \Large \displaystyle \hspace{ 49pt} = n \cdot ln \left( \frac{5}{6} \right) + ln \frac{1}{5} \)
\( \Large \displaystyle P(n) = \frac{1}{5} \ EXP \left[ n \cdot ln \left( \frac{5}{6} \right) \right] \)
となります.ln(5/6)はマイナスの値なので,単調減少する指数関数となります.
このことが何を意味するかというと,
ランダムな現象でも,そのイベントが起こるまでの回数,時間の分布は指数関数となる
と言うことです.
つまり,さいころを振って6が出る回数は1/6ですが,6が出るまでの回数は6回以下で起こる確率がとても多い.
と言うことです.
その代わり,何回サイコロをふっても,6が出ない場合(100回ふっても,1000回ふっても)もあり得ます.
上のグラフは,442回のトライアルでの結果です(エクセルで計算しました).
計算通り,指数関数となっていることがわかりますね.
あまりよい例ではないですが,飛行機事故,は一度起こると連鎖して次の事故も起こるように感じます.
しかし,もし飛行機事故がお互いに関連なく,ランダムに発生するとしても,事故と事故との間隔は上記のように,指数関数となるので短い確率の方が高くなります.
なので,あたかも連鎖しているように感じ取れるのです(もちろん,気象や人的要因で連鎖する可能性もあります).
このあたりは,このサイト,に詳しく書かれています.
また,この議論は化学反応においても適用できます.
単純な一次反応を考えてみると,
\( \Large \ce{A ->[\ k \ ] B} \)
という反応を考えます.
これは,Aと言う状態からBと言う状態へ速度定数,k,(単位は1/s)で遷移する,というものです.
もし,k=100,とすると,1秒間に100回,となりますので,1回にかかる時間は10msとなります.
しかし,10msごとに遷移が起こる,というわけではなく,平均10ms,であることに注意してください.
この遷移がランダムに起こる,と考えると,上記の計算が適用できます.
つまり,
ある分子Aは10msよりも早くBに遷移する
ある分子Aは10msよりも遅くBに遷移する
10msよりも早く遷移する割合の方が多い
しかし,平均は10msである
と言うことになるのです.
詳しくは,一次反応に対する持続時間の分布について,をご覧ください.
次に,上の確率密度がきちんと規格化されているか,平均値はいくらか,を調べてみましょう.