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神経回路形成研究グループ
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脳神経回路の構築を指令している遺伝子発現プログラムとその作用機序を明らかにする

【キーワード】 脳神経回路形成、遺伝子発現、軸索ガイダンス、転写調節因子、小脳、マウス

【研究概要】
本研究グループでは、複雑で緻密な脳神経回路がどのような分子機構によって構築されていくのかという未解明の問題を、発達期の神経細胞に特異的に発現する転写調節因子の遺伝子発現制御の観点から明らかにすることを目指しています。特に、運動制御や高次脳機能発現において重要な役割を担っている小脳の神経回路形成に焦点をあてて、個々の神経細胞の運命・個性決定、軸索の経路選択や標的認識、樹状突起発達などを制御している遺伝子発現プログラムを明らかにしていきます。

【研究方法】
胎生期マウスを用いての遺伝子発現操作技術(子宮内電気穿孔法による遺伝子導入やCRISPR/Cas9によるゲノム編集技術を含む:図1)や蛍光分子イメージング技術(共焦点レーザー走査型顕微鏡 FV1000-Dの活用など)を駆使して研究を行います。そのために分子生物学、マウス遺伝学、発生生物学、組織化学、解剖学などの実験技術を習得して研究を行います。





【研究内容】
記憶や学習などの脳の高次機能発現を規定する細胞生物学的基盤は、その生物がいかに多様な神経回路網を構築しているかによります。近年までの研究により、個々の神経細胞は発生期に、その固有の遺伝子プログラムが付与され運命(個性)が決定されると、その固有の分子プログラムに基づき細胞自律的な挙動を示すようになり、その結果として自分の最終標的への特異的な軸索伸長及び標的認識を行うようになることが示されてきました。この分子プログラムの実体に関しては、個々の神経細胞のサブクラス(サブタイプ)に特異的に発現するようになる転写調節因子が実際の分子プログラムの実行命令を司っていることが示唆されています。またこの過程では、これらの転写調節因子が軸索伸長路選択に関わる特異的なガイダンス分子に対するレセプター発現をONにすることで、個々の神経細胞の軸索が特異的なガイダンス分子に応答できるようになり、その結果として神経細胞の個性を反映した多様な神経回路網が形成されると考えられています (eg., Shirasaki & Pfaff, Annu. Rev. Neurosci. 2002; Shirasaki et al., Neuron 2006; Inamata & Shirasaki, Development 2014)。

  一方で、軸索がどのような細胞外環境を経験して伸長していったのかの情報は随時フィードバックされることで、神経細胞の運命決定時である分化初期に付与された軸索ガイダンスプログラムは個体の発達とともに再編成(リプログラミング)されるようになります。実際このような再編成の結果は、特異的なガイダンス分子に対するレセプターの発現レベルやその局在の変化、さらにはレセプター機能自体のダイナミックな変化につながることが推測されており、初期の遺伝子コードに起因する回路網形成とは異なる階層で、軸索伸長パターンに多様性が付与されていると考えられています。私たちが焦点をあてている小脳の交連ニューロンの系は、初期の軸索ガイダンスプログラムが中間標的の神経管腹側正中部のフロアプレート(底板)で実際に再編成されていることが世界で最初に示された例でもあります (Shirasaki et al., Science 1998)。
  しかしながら、多様な神経細胞の運命決定とそれに連動する回路網レベルでの多様性形成に関する一連の研究は、日本国内はもとより世界的な研究動向の中においても、そのほとんどが端緒についたばかりであり、回路網の多様性形成において中核を担う軸索ガイダンスプログラムの発現制御や再編成の過程に関しては、未だにその多くが不明です。

  私たちは、発生期の小脳交連ニューロン(小脳核ニューロン)とプルキンエ細胞の発生分化プログラムに焦点をあて、以下の目的の達成を目指すことで脳神経回路の特異性と多様性を生み出す分子プログラム(遺伝子発現プログラム)の解明に迫ろうとしています。
  (1) 小脳交連ニューロン回路の多様性を生み出すサブクラス特異的な運命決定プログラムに着目し、これに連動して発現制御を受ける初期軸索ガイダンスプログラムの実体を、小脳交連ニューロンのサブラクラス固有に発現される転写調節因子(運命決定因子)とその転写調節因子カスケードの下流で発現が制御されている軸索ガイダンス制御分子の同定を目指すことで明らかにしていきます。
  (2) 交連ニューロン軸索の中間標的である正中部フロアプレートでの交差前後で引き起こされる初期軸索ガイダンスプログラムの再編成機構を、正中交差前後で発現が変化している遺伝子発現制御分子の役割に着目することで明らかにしていきます。
   (3) 小脳プルキンエ細胞とその標的である小脳核ニューロンが構築する神経回路の形成機構を、プルキンエ細胞の軸索ガイダンスとその標的認識を制御している遺伝子発現プログラムを明らかにすることで解明していきます。また、プルキンエ細胞と小脳核との回路形成異常がASDなどの発達障害発症に関わっていることから、ここで明らかとなる分子プログラムが、発達障害発症のどのような局面に関わっているかを検討していきます。


主要代表論文


Shirasaki, R., Tamada, A., Katsumata, R., & Murakami, F. (1995).
Guidance of Cerebellofugal Axons in the Rat Embryo: Directed Growth toward the Floor Plate and Subsequent Elongation along the Longitudinal Axis.
Neuron 14, 961-972.

Tamada, A., Shirasaki, R., & Murakami, F. (1995).
Floor Plate Chemoattracts Crossed Axons and Chemorepels Uncrossed Axons in the Vertebrate Brain.
Neuron 14, 1083-1093.

Shirasaki, R., Mirzayan, C., Tessier-Lavigne, M., & Murakami, F. (1996).
Guidance of Circumferentially Growing Axons by Netrin-Dependent and -Independent Floor Plate Chemotropism in the Vertebrate Brain.
Neuron
17, 1079-1088.

Shirasaki, R., Katsumata, R., & Murakami, F. (1998).
Change in Chemoattractant Responsiveness of Developing Axons at an Intermediate Target.
Science 279, 105-107.

Shirasaki, R., & Murakami, F. (2001).
Crossing the Floor Plate Triggers Sharp Turning of Commissural Axons.
Developmental Biology 236, 99-108.

Shirasaki, R., & Pfaff, S. L. (2002).
Transcriptional Codes and the Control of Neuronal Identity.
Annual Review of Neuroscience
25, 251-281.

Marquardt, T.(1), Shirasaki, R.(1), Ghosh, S., Andrews, S. E., Carter, N., Hunter, T, & Pfaff, S. L. (2005).
Coexpressed EphA Receptors and Ephrin-A Ligands Mediate Opposing Actions on Growth Cone Navigation from Distinct Membrane Domains.
Cell 121, 127-139. [(1), Co-first authors].

Shirasaki, R., Lewcock, J. W., Lettieri, K., & Pfaff, S. L. (2006).
FGF as a Target-Derived Chemoattractant for Developing Motor Axons Genetically Programmed by the LIM Code.
Neuron 50, 841-853.

Inamata, Y., & Shirasaki, R. (2014).
Dbx1 Triggers Crucial Molecular Programs Required for Midline Crossing by Midbrain Commissural Axons.
Development 141, 1260-1271.

Hara, S., Kaneyama, T., Inamata, Y., Onodera, R., & Shirasaki, R. (2016).
Interstitial Branch Formation within the Red Nucleus by Deep Cerebellar Nuclei-Derived Commissural Axons during Target Recognition.
Journal of Comparative Neurology 524, 999-1014.

Kaneyama, T., & Shirasaki, R. (2018).
Post-Crossing Segment of dI1 Commissural Axons Forms Collateral Branches to Motor Neurons in the Developing Spinal Cord.
Journal of Comparative Neurology 526, 1943-1961.



※ 上記の論文の内容については、「こちらの解説」をご参照下さい。


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