では,この26ステップ/1回転はいったい何を意味しているのでしょう?
回転は,イオンの流れによって起こる,と言われていますが,どうイオンとカップリングしているのでしょう?
先に述べたように,一つのイオンで発生する角度は,
3.6度
ですので,
360度÷26=約14度
には届きません.
つまり,一個のイオンが流れただけでは14度の回転は無理らしいのです.
しかし,これも,あくまで見積もりであって,もし1回転に流れるイオンの数がもっと少なければ,
一個のイオンで1ステップ
を実現できるかもしれません.
それでは別の見積もりをしてましょう.
それは,自由エネルギーから.
モーターの入力エネルギーと出力エネルギーを考えて,その割合から,1ステップあたりの大きさを見積もります.
これは,論文の中には記載されていません.
まず,入力から.
入力エネルギーはイオン駆動力でしたね.
ここで,
e : 素電荷=1.6×10-19 [C]
kBT : 4.14×10-21 [Nm]
です.
とりあえず,
膜電位,ΔΨ=-150mV
内部イオン濃度,[Ion]in=30mM
外部イオン濃度,[Ion]out=100mM
としましょう.
結果は,
29 pN×nm
となります.
つまり,一個のイオンがこの条件で流れる時に使用可能なエネルギーです.
これに一周,2π,を掛けたものが1回転あたりの仕事となります.
次に,出力を.
2003年の曽和らの論文(JMB)では,速度がゼロの場合の発生トルクは,
1320×log[Na]in+1500
となっています(単位はpN×nm,内部ナトリウムイオンの単位はmM).
固定子の数を,10個とすれば,一個あたりの発生トルクは,
414 pN×nm
となります.
では,1イオンでどれだけ回転できるかを計算しましょう.
ここで,大前提は,
効率は100%
と言うこと.
結果は,
(29×2π) / (414) × 360 = 4度
となります.
先ほどの結果,3.6度,とまあまあいい結果.
つまり,多くの仮定を含みますが,
26ステップは一つのイオンによるものではない
らしいです.