〜左右非対称性のけんきゅう〜  

*小さな小さな繊毛の動きが体の左と右をきめる!

中村助教のミニ講義>>

繊毛運動>>

私達の体は外から見ると左右対称なかたちなのですが、臓器の形や配置は左右非対称になっています。ヒトに最も近いモデル動物であるマウスの胚では、もともとは臓器のもととなる細胞群は左右対称な形態なのですが、受精後8日目くらいで非対称な形態へと変わっていきます。どうやって左右非対称な形態をつくるのでしょうか? 10年程前、体のおへそ辺りに現れるノードという組織の中には、200本の小さな繊毛(長さ2-3mmの微小管の束)が生えていて、全てが同じ方向に回転することで体液を右から左へ流していることが発見されました(Nonaka et al.2002) 。この水の流れが、左右対称性をやぶるきっかけとなるのです。最近では、200本の小さな繊毛の動きがどのようにして大きな左向きの流れを発生させるのか?という疑問について、生き物を使った実験と数理モデルからの解析でアプローチをしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*前と後を決めないと、左と右が決まらない!?

ノードの中の小さな小さな繊毛が、全て同じ方向に回転することで水を左から右に流していることを書きましたが、でもどのようにして非対称な水の流れができるのでしょう??左と右をきめる時期になると、繊毛を根元で支えている基底小体といわれる構造が細胞の中でも後の方に移動し、繊毛が細胞から斜めに生えてきます (図)。この斜めに生えた状態で、繊毛が全て同じ方向に回転して、右から左へ非対称な水の流れをおこします。でもどうやって基底小体は細胞の後側に動くのでしょうか?  私達の研究室では、平面内細胞極性(Planar Cell Polarity)のコアな因子の一つであるDishevelled (Dvl)という蛋白が細胞の中でも後ろ側の膜に多く存在し、基底小体を後に動かすのに必要だということを発見しました。(Hashimoto et al Nature cell biology ,.2010)。つまり、体の前後の情報をうまくつかって基底小体を後ろに動かし、左と右の非対称性に変換するしくみなのですね。  現在は、Dvlの動きをコントロールする分子をはっけんすることをめざして、研究をすすめています。

 

 

*水の流れは、体の中で何をするの?

ノードの中の水の流れは、ノードの周りで発現している遺伝子の発現状態を変化させます。まず最初に変化するのが、ノード両脇で発現しているCerberus like-2という遺伝子です。Cerberus like-2の発現は、ノードで水の流れができた後から左側で弱くなっていき、左右非対称な発現パターンになります。同じ時期に、ノードの周りではTGF-βスーパーファミリーの仲間である分泌因子Nodalも発現しています。Cerberus like-2タンパクはNodalタンパクの活性を抑える働きを持つので、ノードで2つの因子が相互作用して、Nodalの活性が左側だけに存在するようになります。その後、活性をもつNodalはノード左側から長距離を拡散していき、左側の側板中胚葉(lateral plate mesoderm: LPM)と呼ばれる部分に到達してそのシグナルを伝えます。

 

 

*体の左側だけで働く遺伝子をみつけた!

ノードでつくられた左右非対称な情報は、側板中胚葉(LPM)に伝えられ、左側でのみNodal遺伝子が発現します。でも実は、ノードからのシグナルは左のみではなく左右両方のLPMに伝えられているのです。左側に強いシグナルが伝えられるため、左側ではNodal遺伝子の抑制物質であるLeftyが発現し、右側まで拡散していって右側でのNodal遺伝子の発現は抑えられます。これは、発生遺伝学の実験に数理モデルを組み合わせることで明らかにされました。こんな風にして、体の左側だけでNodalとLeftyといった遺伝子が発現することになります。この時期に左側で発現した遺伝子は転写因子Pitx2を誘導しますが、Pitx2はこのあと、肺や心臓といった左右非対称な器官の形成に重要な働きをします。

Designed by CSS.Design Sample