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アミノ酸システインが細胞を元気づける!

細胞の成長スイッチ「TORC1」が活性化する仕組みの解明

原著論文 Cell Reports (2023)
論文タイトル Pib2 is a cysteine sensor involved in TORC1 activation in Saccharomyces cerevisiae
概要

大阪大学大学院生命機能研究科博士課程(研究当時)のZeng Qingzhongさん、歯学研究科の荒木保弘助教、野田健司教授(生命機能研究科兼任)らの研究グループは、アミノ酸の一種システインがPib2タンパク質に結合し細胞を活性化することを初めて明らかにしました。

細胞はアミノ酸などの栄養源の存在を感知し、TORC1と呼ばれるタンパク質キナーゼ複合体が活性化し、タンパク質や脂質の合成を促進することで細胞が増殖します。一方、栄養が無くなるとTORC1が不活性化し、オートファジーなどの分解過程がはじまります。これらのことよりTORC1は細胞成長やオートファジーに関するスイッチのように働くと考えられています。

これまで酵母では、生体内で利用される20種類のアミノ酸がどのようにTORC1を活性化するかについては詳細に解明されていませんでした。

今回、研究グループは、様々なアミノ酸のTORC1への影響する経路を分析することにより、システインがPib2タンパク質に直接結合し、TORC1を活性化することを解明しました。これにより、アミノ酸がどのように細胞に利用されるかの理解が深まることが期待されます。

研究の背景

TORC1は、アミノ酸などに応答して細胞の成長を促し、それらが枯渇するとオートファジーなどの分解を誘導するスイッチとして機能することが知られていました。TORC1はヒト等の哺乳類から酵母の様な生物まで保存された共通性の高い基本的な細胞の仕組みですが、特に酵母においてアミノ酸がどの様にTORC1に感知されるか不明な点が多く残されていました。これまで、酵母におけるTORC1のアミノ酸による活性化には、Gtr経路とPib2経路の2種類の経路が関与することが分かっていました。

本研究の成果

研究グループは、生体が利用する20種類のアミノ酸とGtr経路とPib2経路の2種類の経路の間の関係性を調べました。その結果、それぞれのアミノ酸は2種類の経路を使い分けながらTORC1を活性化することがわかりました。タイプ1のアミノ酸(ロイシン、メチオニン等)は主にGtr経路を利用していました。タイプ2のアミノ酸(システイン、グルタミン等)は主にPib2経路を利用していました。タイプ3のアミノ酸(プロリン、リジン等)はGtr経路とPib2両方を利用していました。タイプ4のアミノ酸(セリン、アスパラギン等)はGtr経路とPib2経路のいずれかを利用していました。

そのなかでも、システインはPib2タンパク質に直接結合し、そのことによりPib2とTORC1の間の相互作用が強まり、TORC1を活性化することを明らかにしました。

研究成果のポイント
  • アミノ酸の一種システインがPib2 タンパク質により感知されることで、TORC1 と呼ばれるタンパク質が活性化し、細胞の成長を促進することを発見
  • TORC1 は、アミノ酸などに応答して細胞の成長を促し、それらが枯渇するとオートファジーなどの分解を誘導するスイッチとして機能することが知られていたが、これまで酵母細胞において20種類のアミノ酸がどのようにTORC1 を活性化するかについては詳細に解明されていなかった
  • アミノ酸による細胞成長やオートファジーの制御の仕組みの理解が深まることが期待される
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

アミノ酸は私たちの体を構成するタンパク質の部品であり、様々な生理作用に深く影響します。その存在状況は精緻に感知されており、その破綻はガンなどに結びつくこともしられています。本研究成果により、それぞれのアミノ酸が細胞でどの様に感知されTORC1による細胞成長を促すかについて理解が深まることが期待されます。

研究者のコメント

オートファジーはタンパク質を分解してアミノ酸を供給する現象です。その研究を発展させていくと、オートファジーの制御がアミノ酸によってなされていること、またその仕組みがわかってきました。(野田健司)

特記事項

2023年12月21日(木)(日本時間)に米国科学誌「Cell Reports」(オンライン)に掲載されました。

なお、本研究は、科学研究費事業の一環として行われました。

図1.アミノ酸がTORC1を活性化する経路
それぞれのアミノ酸はGtr経路とPib2経路を使い分けてTORC1を活性化する。その中でもシステインはPib2タンパク質に直接結合してTORC1を活性化する。その結果Ser3やSch9などのタンパク質がリン酸化される。

用語解説
  1. タンパク質キナーゼ複合体
    タンパク質キナーゼは細胞の中の信号の伝達に関わる。活性化することにより標的のタンパク質にリン酸基を付加することで、その役割を調節することで信号が伝達される。複合体は複数のタンパク質から構成されることを示す。
  2. オートファジー
    栄養が枯渇した時などに、細胞が自分自身の構成成分を一部分解する現象。
原著論文 Cell Reports (2023)
論文タイトル Pib2 is a cysteine sensor involved in TORC1 activation in Saccharomyces cerevisiae
著者

Qingzhong Zeng (1), Yasuhiro Araki (2), Takeshi Noda (1, 2, 3)

  1. Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University, Osaka 565-0871, Japan
  2. Center for Frontier Oral Sciences, Graduate School of Dentistry, Osaka University, Osaka 565-0871, Japan
  3. Center for Infectious Disease Education and Research, Osaka University, Osaka 565-0871, Japan
PubMed 38127619

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