2. TJ-クローディン研究

・TJの単離 と 構成タンパク質の同定

体内には、腸管腔・胸腔などの大きな区画から、毛細血管・毛細胆管などの小さな区画まで、があります。コンパートメントは、上皮細胞シートによりその枠組みが作られます。上皮細胞シートがタイトジャンクション(Tight Junction : TJ) で強く接着して、バリア機能を得て、生体コンパートメントの恒常性を確保します。ですから、TJの分子構築や機能が重要なのです。

TJは、上皮性の肝細胞から、単離されました(図1)。肝臓の細胞では、細胞全体には細胞骨格が発達していませんが、肝細胞間は、毛細胆管部で強く接着し、胆管内部がしっかり隔離されます。胆汁が隔離されないと危険なのです。従って、毛細胆管は、肝臓をホモジナイズすると、パーツとして、構造が保たれたまま残ります。その画分から、TJ構成蛋白質が多く発掘されました。オクルーディン (Occludin)、クローディン(Claudin)、トリセルリン(Tricellulin)、ZO1、ERMなどです。ごく最近のTJ-MAPs(次項参照)を含め、これらのうち数種のものの命名の栄誉に預かりました。




・クローディン(Claudin: Cldn)の機能解析と構造

TJ精製法の開発により同定された TJの主要な細胞間接着分子クローディン (Cldn) は、4回膜貫通型蛋白質として27分子種からなるファミリーを構成します。隣り合う上皮細胞間のCldnどうしが結合(trans結合)するとともに、同じ細胞膜上でCldnどうしが互いに結合(cis結合)することでTJのひも状構造(TJ-strand構造)が形成されます(図2)。TJ-strandは、隣り合う細胞間を隙間なく取り囲み、細胞間に臓器ごとに適切な透過特性を持つバリアを形成します。数種のCldnでは、細胞間チャネルが形成されます

上皮細胞における、Cldnの重合による TJ-strand形成では、細胞質のZO1の制御を受けます(図3)。最近の結晶構造解析の結果は予想外のもので、画期的なものでした。Cldn15、Cldn19、Cldn4において、分子構造の基本骨格は共通しており、同一細胞内のcis 結合や、細胞間のtrans結合ドメインも明らかになりました。細胞間にβバレルが形成されることも示され、 βバレル内の電荷で、バリア型かチャネル型かが決まるメカニズムが明らかになりました。分子構造モデルも提示することができ、Cldnの構造と細胞間バリア機能が分子レベルで議論できるようになりました。細胞間バリアは、Cldnを分子基盤とするTJによって構築されている、との概念が確立しました。細胞間バリアとチャネルは同様に機能するか、研究を進めています。

・クローディン(Claudin: Cldn)の機能解析と構造

27種類のCldnがTJの細胞間バリア特性を決定します。 Cldnは、上皮細胞特異的ではあるのですが、臓器や生体部位ごとに発現パターンが大幅に異なります。私共では、Cldnノックアウト(KO)マウスを作製して解析し、Cldnの生体機能構築原理と病態の解析を行ってきました(図4)。Cldn1のノックダウンマウスのアトピー性皮膚炎、Cldn7KOマウスの潰瘍性大腸炎、胃型Cldn18KOマウスの胃炎と胃腫瘍(図5)、などは、上皮バリアが弱く変化したことによると考えられます。一方で、チャネル型Cldnが変化して上皮細胞シートの透過性損なわれることによる病態も見出されている。Cldn2/15KOマウスの腸管内Na+欠乏による致死性栄養吸収障害(図6)や、Cldn2KOマウスでの胆汁循環障害や胆石などである。
これらの病態メカニズムの解明は、生体システム構築様式を明らかにすることに直結するため、その予防や疾患対策上、有用な情報を得ることができると思われます。

最近では、加齢によるCldn発現変化も注目され、加齢対策上も、Cldn研究が注目されます。
これらの研究成果を合わせて、有用な新しい医療やQOL上昇のために役立てたいと考えています。


      
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