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神経回路形成研究グループ
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主要な研究成果の解説

Shirasaki, R., Tamada, A., Katsumata, R., and Murakami, F. (1995).
Guidance of Cerebellofugal Axons in the Rat Embryo: Directed Growth toward the Floor Plate and Subsequent Elongation along the Longitudinal Axis.
Neuron 14, 961-972.

(解説)高等動物の脳における神経回路形成のメカニズムは脳の構造の複雑さゆえに解明が大幅に遅れていた。私たちは、哺乳類胎仔脳の神経回路形成の解析に適した新たな実験標本(脳の2次元展開標本)を独自に開発し、その手法を用いて哺乳類ラットの小脳出力性軸索投射の形成過程の詳細を世界に先駆けて明らかにした。また同時に、コラーゲンゲルを用いた組織培養の技術を神経組織の器官培養系に積極的に導入することで、発生期の脳領域神経管の腹側正中部の細胞群(フロアプレート細胞)が拡散性誘引因子を分泌して、小脳出力性軸索を正中部に誘引していることを見出した。さらに、その誘引因子の実体として、netrin-1分子を同定した。これにより脊髄と脳で共通に作用している回路形成のメカニズムの原理の一つを報告した。


Tamada, A., Shirasaki, R., and Murakami, F. (1995).
Floor Plate Chemoattracts Crossed Axons and Chemorepels Uncrossed Axons in the Vertebrate Brain.
Neuron 14, 1083-1093.

(解説)発生期神経管の腹側正中部のフロアプレートは脊髄において、拡散性誘引因子を分泌することで脊髄の交連性軸索を正中部に導くことが知られていた。本研究において、コラーゲンゲルを用いた神経組織の器官培養法を導入することで、脳の正中部フロアプレートが脳における正中交差を形成する様々な軸索群に対しても、同様な拡散性の誘引活性を有することを示した。さらに、脳において正中交差を形成しない軸索群に対しては、逆の作用である拡散性の反発作用を引き起こすことを示した。


Shirasaki, R., Mirzayan, C., Tessier-Lavigne, M., and Murakami, F. (1996).
Guidance of Circumferentially Growing Axons by Netrin-Dependent and -Independent Floor Plate Chemotropism in the Vertebrate Brain.
Neuron 17, 1079-1088.

(解説)発生期神経管の腹側正中部のフロアプレートは脊髄において、拡散性軸索ガイド分子として同定されたnetrin-1を分泌することで脊髄の交連性軸索を正中部に誘導することが示されていた。本研究において、脳における様々な腹側正中交差性軸索群も脊髄と同様にフロアプレート由来のnetrin-1分子に応答性を示し、それに誘引されることを示した。また、脳の神経管の背側正中交差性軸索に対してはフロアプレートは拡散性反発活性を有することをこの研究で示すとともに、このフロアプレート由来の拡散性反発活性の責任分子に関しては、netrin-1分子とは別のフロアプレート由来の拡散性ガイド分子が関わっていることを示した。


Shirasaki, R., Katsumata, R., and Murakami, F. (1998).
Change in Chemoattractant Responsiveness of Developing Axons at an Intermediate Target.
Science 279, 105-107.

(解説)発生期神経管の腹側正中部で交差を形成する交連性軸索は正中部フロアプレートが分泌する拡散性誘引分子であるnetrin-1によってガイドされ正中部に到達するが、誘引分子の濃度がピークの正中部を越えて、対側に軸索が伸長していくメカニズムは謎であった。本研究において、誘引分子によって正中部にガイドされた交連性軸索が、正中部フロアプレート細胞と相互作用することで、その誘引分子に対する応答性を消失させることが示された。正中部フロアプレートは交連性軸索の中間標的でもあることから、中間標的との相互作用によるダイナミックな軸索応答性の制御が神経回路形成全般にわたる重要なメカニズムの一つであることを提示した。またこの研究成果は神経発生学において数十年来にわたり未解明の問題として扱われてきた命題、すなわち中間標的まで誘引されて辿りついた軸索がどのようなメカニズムで、ここを離れ最終標的に向かうことができるようになるのかという問題に対する一つの答えを与えることとなっただけでなく、この発見が一つの契機となり伸長中の軸索のダイナミックな軸索応答性の制御という、この分野における新たな研究領域を創出するに至った。


Shirasaki, R., and Murakami, F. (2001)
Crossing the Floor Plate Triggers Sharp Turning of Commissural Axons.

Developmental Biology 236, 99-108.

(解説)発生期神経管の腹側正中部のフロアプレート細胞は、拡散性誘引因子を分泌して交連性軸索を正中部にガイドするだけでなく、交連性軸索とのその相互作用は、軸索の誘引因子に対する応答性を消失(スイッチオフ)させることが以前の私たちの研究により示されていた。本研究では、交連性軸索の正中部を越えてからの対側での軸索ガイダンス機構を解明するために、正中部を越えてからの軸索の挙動を再現する器官培養系を確立した。この器官培養系を用いることで、交連性軸索とフロアプレートとの相互作用は、正中部を越えてからの軸索伸長に必要なガイダンス分子、特に前後軸方向への伸長に関わるガイダンス分子に対する軸索応答性のスイッチのオンをも制御していることが示された。


Shirasaki, R., and Pfaff, S. L. (2002).
Transcriptional Codes and the Control of Neuronal Identity.
Annual Review of Neuroscience. 25, 251-281.

(解説)発達期に神経細胞の運命が決定されていく過程、すなわちそれぞれの神経細胞に固有の個性が付与されて多様性が形成されていく過程の分子メカニズムを脊髄運動ニューロンを代表的なモデルとして概説した。特に、最終細胞分裂後の分化過程と個性決定に重要な役割りを果たすことが示されているLIMホメオボックス遺伝子群に焦点をあて、この遺伝子群の神経回路形成に果たす役割りを考察した。


Marquardt, T*.(1), Shirasaki, R*.(1), Ghosh, S., Andrews, S. E., Carter, N., Hunter, T, and Pfaff, S. L. (2005).
Coexpressed EphA Receptors and Ephrin-A Ligands Mediate Opposing Actions on Growth Cone Navigation from Distinct Membrane Domains.
Cell 121, 127-139. [1*, Co-first authors].

(解説)神経細胞のみならず多くの細胞では、リガンドとそのレセプターが同一の細胞で共発現されている場合が知られているが、細胞の最終的な特異的出力がそれらリガンド/レセプターの活性化状態、特にcisまたはtrans配置形態でどのように制御されているかは不明であった。本研究において、運動神経軸索に共発現されているEphAレセプターとそのリガンドのephrin-Aのシグナル伝達の最終出力を運動神経軸索の応答性を指標として解析した。その結果、EphAをレセプターとしたシグナルが活性化される場合には、反発抑制性応答が誘導されるが、ephrin-Aがレセプターとして活性化される逆行性シグナルの場合には、逆の応答である誘引促進性の軸索応答が引き起こされることが示された。また、EphAephrin-Aタンパク質は軸索脂質膜上で、お互い別々のドメインに分離して存在し、その状態により個々のシグナル伝達応答が独立に引き起こされていることが示された。


Shirasaki, R., Lewcock, J. W., Lettieri, K., and Pfaff, S. L. (2006).
FGF as a Target-Derived Chemoattractant for Developing Motor Axons Programmed by the LIM Code.
Neuron 50, 841-853.

解説)最近の研究により、神経細胞の個性(運命)決定は特定の転写調節因子群の特異的な組み合わせの発現パターンによって制御されることが明らかとなり、これらの特定の転写因子コードが、さらに特異的な軸索伸長路選択に関わるガイダンス分子のレセプターの発現を促すと考えられている。しかしながら、これらの個性決定化に関わる転写調節因子、特に神経回路形成時に発現されているLIMホメオボックス型の転写調節因子によって制御されている軸索ガイダンスプログラムに関しては未だ不明な点が多い。現在、神経発生学において、中枢神経系を構成する個々の神経細胞の多様性獲得とその個性がいかに確立されていくかという問題に関して、先導的な役割を果たしているモデル系の一つに脊髄運動ニューロンの発生分化過程が挙げられる。今回、私たちはこの脊髄運動ニューロンの系において、運動ニューロンサブタイプの個性決定に関わるLIMホメオボックス型転写因子制御下のガイダンス分子レセプターとそのリガンドを同定し、標的由来のFGF分子がその鍵を握るリガンドの一つであることを突き止めた。これにより脊髄レベルにおいて、神経細胞の個性決定化プログラムに直接連動して制御されるサブタイプ特異的な軸索ガイダンスの分子機構の一端を世界に先駆けて明らかにした。


Inamata, Y., & Shirasaki, R. (2014).
Dbx1 Triggers Crucial Molecular Programs Required for Midline Crossing by Midbrain Commissural Axons.
Development 141, 1260-127

(解説)本研究において、ホメオボックス型転写調節因子であるDbx1が交連ニューロンの運命決定を担う中核的な分子であることを突き止めました。さらに、Dbx1の転写プログラムによって制御されている正中交差に必須の軸索ガイダンスプログラムの実体も明らかにすることに成功しました。交連ニューロンは体の左右の情報の伝達を司る極めて重要な神経細胞群ですが、その生み出される分子メカニズムには不明な点が多く残されています。本研究成果は、交連ニューロンの運命決定因子としての必要十分条件を満たす決定的な転写調節因子を見いだした世界で最初の画期的な成果となります。


Hara, S., Kaneyama, T., Inamata, Y., Onodera, R., & Shirasaki, R. (2016).
Interstitial Branch Formation within the Red Nucleus by Deep Cerebellar Nuclei-Derived Commissural Axons during Target Recognition.
Journal of Comparative Neurology 524, 999-1014
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(解説)本研究では、交連ニューロン特異的な遺伝学的可視化技術を哺乳類マウスの小脳核ニューロン(脳における主要な交連ニューロンで小脳の出力投射系)由来の交連ニューロンに適用し、そのシナプス形成標的細胞である脳幹の赤核細胞をも同時に特異的にラベルできる実験システムを構築することで、小脳核ニューロンの赤核細胞認識過程の詳細を実際の生体内で捉えることに成功しました。本研究成果は交連ニューロンのシナプス形成標的細胞を認識する過程を捉えた初めてのものであり、これにより正中交差後の交連ニューロンの標的認識機構の一端を世界に先駆けて明らかにしました。また、ここで得られた成果は故塚原仲晃博士(1985年、日航123便に乗り合わせ御巣鷹山にて没)が長年解明されようとしていた赤核での神経軸索発芽メカニズムの研究の基盤を進展させる重要な成果ともなります。


Kaneyama, T., & Shirasaki, R. (2018).
Post-Crossing Segment of dI1 Commissural Axons Forms Collateral Branches to Motor Neurons in the Developing Spinal Cord.
Journal of Comparative Neurology 526, 1943-1961


(解説)脊髄交連ニューロンの軸索ガイダンスは、神経回路形成の分野においては、歴史的にも先導的なモデルとして知られています。しかしながら、その回路形成の後期については今までその多くが不明でした。本研究では、マウス脊髄のdI1型交連ニューロンを胎生期の分化初期から生後にいたるまでの長期間、遺伝学的な手法により選択的に可視化させ、伸長中の軸索の形態学的変化をin vivoで詳細に解析できる実験系を確立させました。これにより、dI1型交連ニューロンの回路形成後期過程の全貌を生体内で直接捉えることに成功し、その最終標的細胞の一つとして対側の体幹筋を支配する運動ニューロンが新たに同定されました。本研究により得られた結果はこれまでの研究からは全く予想されてこなかったもので、dI1型交連ニューロンの軸索が脊髄の運動ニューロンに直接投射していることを見出した極めて新規性の高い成果となります


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