さて,では生体分子の運動を光学顕微鏡で計測する上での一番の問題点を考えてみましょう.
それは,
可視光を使っているのになぜナノメートルが計れるの?
という疑問です.
確かに,光学の本にも,サブミクロンが限界だ,とかかれていますし,直感的にも,
波長が500ナノメートル程度の可視光でナノメートルは無理でしょう
と感じます.
確かにその通りです.
しかし!上での光学顕微鏡での分解能の定義と,ナノ計測での分解能の定義とは違うのです!
それは,
光学顕微鏡の分解能とは,
2点が近づいていったときに,どの程度まで2点として認識できるか
というものです.
下のアニメーションを見てください.
二つの輝点から発せられた光が,レンズを経由して結像した際の強度分布です.
光は波の性質を持つ以上,結像する際にはある程度の広がりを持ちます.
二つの輝点(赤と青の実線)が離れている場合,合成した光の強度分布(点線)は二つを区別できます.
しかし,だんだん近づいていくと,合成した光はあたかも一つの輝点から発せられたもののように振る舞うのです.
つまり,二つの輝点の間隔が小さいと,我々はそれを二つとして認識できなくなってしまうのです.
それに対して,ナノ計測の分解能とは,
1点から発せられる輝点の重心位置
のことを指すからです.
下のアニメーションを見ればわかるように,1点から発せられる輝点の重心位置の変化は上の光学の分解能の制約を受けません.
つまり,一般的な光学顕微鏡の分解能とは,画像としてどの程度細かいものまで取得できるか,ということであり,
ナノ計測は,画像としてではなく,重心位置の変化をどの程度まで細かく追えるか,というものです.
従って,ナノ計測の分解能は原理的にはありません.
量子力学の世界まで行くとわかりませんが.....
ナノ計測の分解能を決めているのは,それ以外の,
光強度のゆらぎ,センサー本体,電解回路
などなどです.
さて,ここでややこしいのが分解能の定義.
S/N
という概念があります.
S : シグナル,信号
N : ノイズ
であり,S/Nはその比です.
従って,S/Nが高いほど,分解のはよくなります.
つまり,ナノ計測の分解能は
いかにノイズを減らしてS/Nをあげるか
という概念でしかありません.
逆に,光学顕微鏡の分解能は,
シグナルがサブミクロンが限界
と言っているのであり,違う意味での分解能を比較していることになります.
ここらへんの違いをよく理解していかないと,議論がかみ合わなくなってきます.
私もまだ不勉強なので,もうすこしよく考えなくてはなりません.