光学顕微鏡を使うのはなぜ?

タンパク質などの生体分子は,その大きさが,十数ナノメートル,程度です.

また,そこから発せられる力は,数ピコニュートン,程度です.

ここで,ナノメートルとは,10の9乗分の1メートル,0.000000001メートルです.

また,ピコニュートンとは,10の12乗分の1ニュートン,0.000000000001ニュートンです.

 

さて,普通我々がものを観察するとき,いったいどのようなプロセスを追うでしょうか?

まず,見ます.

そして,その物体の形,色,動作,などを観察します.

ここで,見る,という作業は,太陽,室内灯などから発せられた光が物に当たって,反射した光を我々が目で感じ取ることを意味します.

同じことが研究にもいえます.

しかし,このようなとても小さい物体を観察するにはとても普通の光(可視光)では不可能です.

なぜなら,可視光の波長は数百ナノメートル(緑色で約530ナノメートル)であり,対象となる生体分子よりも大きいのです.

つまり,可視光を使う限り,生体分子は光の波間に埋もれてしまうのです(光の分解能の項を参照).

ではどうすればいいのか.

波長を短くすればいいのです.

それが電子顕微鏡です.

 

電子顕微鏡の開発によって生命現象の理解は非常に大きな進歩を遂げました.

しかし,生体分子を生きたまま観察する,という点においては大きな問題があります.

それは,

電子線は水により吸収される

低原子は散乱されにくい

という問題です.

生体分子はほとんどが水溶液中で機能します.

しかし,この周りの水が電子線を吸収してしまい,生体分子まで届かないのです.

また,生体分子はほとんどが,炭素(C),窒素(N),水素(H),からなっています.

これら,低原子,は電子線を散乱させにくいのです.

では,どうするか.

水をとばし,乾燥中,真空中で観察する

生体分子に重原子(ウラン,タングステンなど)を照射し,その形状を見る

という手法を主にとります.

つまり,生体分子の形を見るのです.

先に述べたように,これにより,生命現象の理解が非常に進みました.

 

しかし,我々が望むのは,形状ではなく,機能なのです.

言い換えると,

 スナップショットではなく,ムービーを撮りたい

のです.

もちろん...電子顕微鏡で水もとばさず,重原子も照射しないで観察しようとする様々な研究がありますので,それらの研究を否定する気は全くありません.

電顕の研究者の方...もし見ていただいて,気を悪くされたらごめんなさい....

機能と構造,これは車の両輪のようですね.

片方だけでもだめ...

私は機能に重点を置きたい.

 

そこで,我々はなんとか可視光を使った研究,光学顕微鏡を使って生体分子の機能を明らかにできないか,を考えています.

l t r