今までの議論から,どうも1回転あたり26ステップというのは,一つのイオンによるものではない,ということがわかってきました.
では,この26ステップ,14度,というものはどうイオンの流れとカップリングしているのでしょう?
いろいろと可能性を考えてみました.
このモデルは,固定子(もしくはイオンを通過するサイト)にイオンを蓄積する部位があり, ある程度のイオン(4つ程度?)が蓄積されると初めて回転子と相互作用し,トルクを発生できる,と言うもの.
この部位は一カ所でも別の箇所でもかまいません.
一説によると,一つの固定子には,
4つのMotA,1つのMotB
4つのPomA,1つのPomB
が存在する,という報告もあるので,ちょうど4つ?
このモデルでは,各イオンは独立に固定子(もしくはイオンを通過するサイト)に流れるのですが,固定子のどこかにイオンの通過により歪みを生じる部位があり,ある程度の歪みを生じると回転子と相互作用し,トルクを発生できる,と言うもの.
このモデルでは,実は我々が計測した,26ステップ,14度,と言う値は実は素過程,elementary step,ではなく,もっと小さいステップが存在する,と言うもの.
この真のステップはイオンとカップリングしているのだけど,我々の計測手法,分解能ではそれを検知できない.
計測できたステップは,たまたま,見えていたステップである,と言うものです.
さて,いったいどのモデルが確からしいのでしょう?
それは,現時点ではわかりません.
なぜかというと,
出力だけで,入力を見ていないから
なのです.
前にも述べましたように,未知の物体,ブラックボックスを明らかにするには,入力と出力との対応をきちんと計測する必要があります.
しかし,今回の研究では,
出力
しか計測していないのです.
では,
入力
は何でしたっけ?
それは,
イオンの流れ
なのです.
ですので,次は
入力であるイオンの流れと,出力である回転力
の,
素過程
を計測することを目的としなければなりません.
しかし,
イオンの流れを1分子レベル
で計測することが非常に困難であることは言うまでもありません.
現時点では,
イオン濃度に応じて蛍光強度,波長
が変化する試薬は市販されています.
しかし,1分子,となるとその感度などなかなか困難です.
しかし,そのような大きな目標をいつも心にとどめておいて研究を続けていきたいものです.
以上で,”キメラ菌体を用いた回転ステップの計測”の説明を終わります.