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Vol.5
堀江健生教授のあゆみ(4/4) いつも笑っていること 2022.10.26

唯一のルールは「研究を楽しむこと」
サイエンスが好き

僕の研究室の唯一のルールが「研究を楽しむこと」です。研究成果を出すことも強要していません。研究室に来る時間は10時には来てほしいと言っていますが、滞在時間など細かなルールは定めていません。Michael Levineも「ラボのメンバーがプロジェクトに熱中することを重視している」と言っています。僕が帰国後、彼がプリンストン大学と基礎生物学研究所の提携のキックオフシンポジウムに招待され、その時に彼は、どれほどサイエンスが好きなのかを語っていて、その姿を僕は見習っています。僕の今がなぜあるか、それは「研究が好き!」「サイエンスが好き!」に尽きると思います。いろんな苦労もありますが、その気持ちだけは変わらなかったです。

プリンストン大学と基礎生物学研究所の提携のキックオフシンポジウムにて。Michael Levine博士、深谷雄志博士と。

そして、もう一つ、僕自身に課しているルールがあります。それは、いつも笑っていることです。教授がピリピリしていると学生もピリピリすると思います。だから、学生には、僕がいつもにこやかに研究を楽しんでいる姿を見せて「研究者って楽しそう、研究職を目指したい」と思ってもらえたら良いです。Michael Levineや僕が尊敬する研究者の一人の深田吉孝先生もピリピリしてクヨクヨするよりは、明るくしていた時の方が良いアイデアが浮かぶと言っていました。日々多忙な中で、心の余裕がなくなるときもありますが、自分の苦労を学生には見せないようにすることを心掛けています。ポスドクの時のメンターの笹倉先生と「忙しい」という言葉を使うのをやめようとよく言っていました。忙しいって心を忘れると書くので「忙しい」ではなく、「あぁ、大変や」って思うことにしています。

ホヤを超えて人の脳の理解に
いろんな動物の脳を比較する

今は、脳が作られる仕組み、働く仕組みを1細胞レベルで明らかにするために、シンプルな脳神経系を持ったホヤを使って研究しています。1細胞トランスクリプト―ムが自分でできるようになり、自分自身がやりたかった脳の研究ができるようになりました。アメリカにいたとき、中国の方と一緒に共同研究する機会があったのですが、線虫とホヤの比較をしました。他の生き物を研究する経験がなかったのですが、線虫の神経系を見るとびっくりするぐらい似ていました。

他にもショウジョウバエやアフリカツメガエルまで幅を広げて研究して、いろんな生き物に共通するメカニズムを研究しようというプロジェクトを始めて、今も続いています。そして、それを発展させたのが、今の学術変革領域の研究です。それは、マウスの研究も含めています。それは、線虫、ショウジョウバエ、ホヤ、メダカ、マウスなど、いろんな動物の研究を通して脳神経系の発生の普遍性と多様性を明らかにすることです。

いろんな動物の脳を比較することにより脳神経系の発生の普遍性と多様性を明らかにする

脳はとても多様性に富んでいますが、その中に根源的にずっと保存されているメカニズムを明らかしたいです。1細胞トランスクリプトームを使って、高等脊椎動物に展開していくという研究をしようとしています。今までだとホヤと人の脳はまったく違うのでダイレクトに比較するのは難しいです。けれども1細胞トランスクリプトームがあれば、細胞種を比較できるので、ホヤにある細胞種が人やマウスの脳にあるのかということも調べられるのです。そういった手法を使ってホヤからメダカ、ショウジョウバエ、マウス、マーモセット、ひいてはオルガノイド※1を使って人の脳まで、いろんな動物の脳を比較するという研究をしています。それが学術変革領域(A)※2の研究に繋がっています。

僕らの研究はホヤを使ったシンプルな脳の研究です。でも、今の目標は、ホヤの脳を知ることではないです。最終的には、ホヤを超えて、脊椎動物の人の脳の理解に繋がるような研究がしたいと思っています。そうするためには、誰もが人の脳を研究するのではなく、最もシンプルなモデルを理解することも大事だと思っています。

3分野にまたがった研究

ショウジョウバエを研究している人もいれば、線虫を研究している人もいるように、みんなが同じ動物を研究する必要はないです。自分自身が興味のある現象に一番適したモデル動物を使うことが大事です。その中で、僕は1細胞レベルで脳神経の成り立ちや仕組み、働きが知りたいからホヤを使っているだけです。

それらの研究が、例えば、回路選択的な脳深部刺激などの研究に繋がっていくだろうと思っています。ウィルスベクターを発現させるにしても脳深部特異的なプロモーターを1細胞トランスクリプトームから見つけ、脳深部を効率よく刺激する。それは例えば、脳梗塞などで体が動かないといったところを補償するような神経回路を刺激する手法の開発にも繋がると思います。

もう一つは、神経回路を修復する再生医療です。iPS細胞やオルガノイドを使った神経細胞の分化誘導で、これは実際に進めています。ホヤでいろんな神経細胞を人為的に作り出せるようになっていて、ドーパミン神経を作り出すことやGABAという神経伝達物質を作り出す神経細胞を作り出すという手法も成功しました。このようにホヤから見つけたものをiPS細胞やマウスで研究して、人為的にiPS細胞で作り出して、治療に持っていくという手法も展開していきたいと思っています。こういった研究は医学の研究です。

それから、生物に学ぶ機械学習アルゴリズムの研究も取り入れています。他にも最近は工学部の先生と組み、ホヤの動きを模倣したロボットを作っています。電気回路と神経回路の関連性のシュミレーションや工学領域の研究も進めています。

当研究科では異分野を融合させる研究がすごく大事だと思います。今まで臨海実験所にいたので、ホヤの研究、理学の研究だけをしていたのですが、ここでは医学分野や工学分野の研究も合わせて、3分野にまたがった研究をこれから20年かけて挑戦していきたいなあと思っています。

教授になって一番嬉しいこと
夢の詰まった研究科

これまで温めてきたアイデアを全開にできる夢の詰まった研究科が、生命機能研究科なのです。僕にとってここに来ることが出来たのは、本当に有難く、こんな幸せなことはないです。だから毎日充実しています。よく学生さんに「堀江先生は、アイデアマンですよね」と言われますが、妄想や考えることが好きなのです。

ラボメンバーも14人になりました。下田の時は、僕と学生とテクニシャンで6〜7人くらいでやっていました。今のラボメンバーは、秘書の方を入れて14人です。来年は、さらに10人くらい加わる予定です。すぐに30〜40人くらいの規模になっていくのかなと思っています。

本当に有難いです。半年前までは学生も1〜2人で、それでも狭くて入れないからよそのラボで研究してもらっていたのに、今はこんなにたくさんの学生さんが来てくれて、これまでのアイデアを全部開放して、最高に幸せです。

ホヤを採る様子

これは、学生の頃、ホヤを採っている写真です。今はナショナルバイオリソースプロジェクトというところからホヤを供給されるのですが、当時は植木鉢をロープにつないで漁港に吊るしてホヤを採っていました。

  • ※ ホヤの幼生は暗いところを好むので(逆さに吊るした)植木鉢の内側に固着して、変態を行い、そのままで成長して成体となる。この植木鉢に付いているホヤを採集する。

津田研究室の集合写真。21世紀COEプログラムの研究報告会にて。

これは21世紀COEプログラムの研究報告会の際に撮影した津田研究室の集合写真です。中央が津田先生、右隣が日下部先生、さらにその隣が僕です。日下部先生は当時准教授で、今は甲南大学の教授をされています。当時の同級生は、僕が教授になったときに同級生としてすごく嬉しいと電報を送ってくれました。教授になって一番嬉しいことは、僕よりも周りの人が喜んでくれることです。もちろん僕も嬉しいのですが、それが何より嬉しいです。

今に至るまでには紆余曲折があり、常に順風満帆ではなかったです。挫折の連続でしたが、ホヤを選んで、そして姫路工業大学を選んで良かったと思っています。僕のように研究者としてやっていけるという姿を後輩に見せるというのも自分のミッションとして持っています。生命機能研究科には、兵庫県立大学(旧姫路工業大学)出身の方が多いと聞いています。先輩としてぜひラボに遊びに来てほしいと思っています。他の大学の学生さんも、僕の姿をみて、自信を持ってほしいと思っています。

四回にわたって堀江健生教授の研究人生をお届けしました。またの機会に実験室の様子もご紹介できればと思います。

(上野・木藤)

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