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     吾輩はキリンである.模様はひび割れている

皆さま,申し訳ありません.ジンクピリチオン祭りで燃え尽きてしまい,2カ月ほどお休みをいただきました.今月号からまたよろしくお願いいたします.

寺田寅彦を知ってますか?
今回もちょっと古い話で始まります.図1 の切手の肖像が誰だかわかるでしょうか? 若い人はたぶんご存知ないかもしれないが,この人物が今回の主役の物理学者,寺田寅彦(1878 〜 1935)である.一見,何の変哲もない硬物の昔のおっさんだが,これがまた,たいしたおっさんなのである.大体,この切手の写真にしたって,じつは下の写真のような「きれいどころ」に囲まれて,にやけるのをこらえている一枚なのである.こんな写真が切手になるところからしてただものではないが,科学的な業績は,もっとすごい.

寅彦は,X線結晶解析に関して,非常に先駆的な論文を書き,その功績で学士院恩賜賞を受賞し,日本物理学会の会長も務めた.大物である.結晶解析でノーベル賞をもらったのはBragg 親子だが,寅彦の論文も,ちゃんと回折像が結晶中の原子構造を反映していることを指摘している.しかも掲載時期(いずれも『Nature』)も寅彦のほうが若干早い.郵送にかかる時間を考えれば,タイミング的には明らかに寅彦が勝ちである.では,なぜ寅彦がノーベル賞をとれなかったかというと,寅彦の論文では,結論を定性的に「文章」で表現するのにとどまったのに対し,Bragg 親子の論文はしっかりした数学的な解釈がついていたから,ということらしい.しかし,初出のアイデアを重要視する最近の評価基準を適用すれば,寅彦が受賞していてもよかったのではないかと思う.惜しかった,と言わざるをえない.

だが,この「文章で」,というのがじつに寅彦らしいところなのだ.彼は科学者としてではなく,文学者(文筆家)としてのほうが有名なのである.寅彦は,若い時に,かの夏目漱石に英語を習った.その後,東大を出て学者になってからも,ずっと門弟(というよりも,同格の友人だったという話もある)として深く付き合い,科学と文学が融合した多数の随筆を世に送り出した.ついでに漱石の『吾輩は猫である』に出てくる科学者 水島寒月や,『三四郎』の野々宮宗八のモデルにもなっている.昔はテレビが無かったので,当時の連載小説は,ちょうど現在の連ドラにあたる人気コンテンツだっはず.その登場人物の物理学者が寅彦自身なのだから,女性にももてたに違いない.じつに面白い.

というわけで,寅彦は単なる理系オタクではなく,文系理系を超えた知識人なのである.当然,彼の興味の対象は,物理学の原子の世界にとどまらない.寅彦に感化され,一門の弟子からは,普通の物理学では扱わない身の回りの現象,例えば,「金平糖の角がどうやってできるか?」とか,「ガラスのひび割れの形を決める原理」,さらには「雪の結晶の研究」など,現代的に言えば「非線形の物理学」に関わる多くの先駆的な仕事が輩出した.


対決,「寺田一門 VS 動物学者」
そんな寅彦の弟子の一人である平田森三が,ある時キリンの皮膚模様(図2)を見て,面白いことに気がついた.なんだか,キリンの皮膚模様は田んぼのひび割れに似ているのである.そこから,かなり飛躍したアイデアが生まれる.「キリンは,胎児が成長しているときに,皮膚の成長(拡大)が,体の成長に追いつかず,そのために皮膚がひび割れて,あんな模様になるのだ!」(筆者要約)

これを,科学雑誌(岩波書店発行の『科学』)に投稿し,それが掲載されてしまったことから大騒ぎになる.世に言う「キリンの斑(まだら)論争」である.口火を切ったのは,東大動物学の丘 英通教授である.同じ雑誌に論文を載せ,模様は色素の有無であり物理的な構造ではないから,平田の説はナンセンスだと厳しく断じた.それだけならよかったのであるが,ついでに,門外漢がしゃしゃり出ていい加減なことを言いふらすのは危険であると,露骨に批判したのだ.昔の学者は喧嘩早いのである.

平田もすかさず反撃し,自分はその色素の位置を決める原理のことを問題にしているのであるから,丘の反論はピンボケであると書いた後に,(丘の)論文の最後にずいぶんと無礼な文句が書いてあったが,あれは当然,印刷の間違いかなんかだよなぁ,とやってしまった.売られた喧嘩は買わなければいけないのである.明治の学者は熱いのだ.

その後は,東大の動物学と寺田一門による,岩波『科学』を舞台にしての「朝まで生テレビ」レベルの不毛なバトルが繰り広げられる.収拾がつかなくなったところで,寺田寅彦御大が「まあ,まあ,ご両人そのへんでやめときましょう」とばかりに手打ちを促し,騒動は終息した.掲載雑誌の岩波『科学』にしてみれば,創刊間もないころだということもあり,部数の拡大に一役買ったというメリットはあったかもしれないが,残念ながら,科学的には不毛に終わった騒動であった.


ひび割れ説は,本当にナンセンスか?
キリンに限らず,動物の斑がどのような原理でできるか,という問題は,1952年のAlanTuring(イギリスの天才数学者)の画期的な論文(thechemicalbasisofmorphogenesis)で決着が着いたとされている.Turingはこの論文で,「化学反応が組み合わさると,波を作る場合があり,それが生物のパターンを作る」という説を提示した.つまり,「ひび割れ=模様」でなく,「波=模様」である.Turing の理論は,その後に発達した非線形科学の最も先駆的なものであり,その重要性に対する評価は現在でも日増しに高まり続けている.今では,物理学者はもちろん,ほとんどの生物学者もTuring の答えが正しいと思うようになった.その一方で,ひび割れ説のほうは,「キリンの斑論争という茶番の元になった珍説」という評価しか得ておらず,風化して歴史の隅に追いやられてしまっている.

だが,ここでちょっと考えてみる.平田の説は間違いで,キリンの斑論争は,本当に不毛だったのか? 図3の写真を見ていただこう.みなさん大好きなメロンである.どうでしょう.

これ,明らかにひび割れ模様である.実際,成長過程を見ると,ひび割れが生じたところが盛り上がってあの模様が生まれるので,間違いなく平田模様である.ちゃんと,ひび割れ模様は生物界に存在するだ.だから,平田の説が荒唐無稽というわけではない.

このことを頭において,図4をよーく見てください.真ん中がキリンで,左がシミュレーションで作ったTuringpatternの多角形バージョン.そして,右が地面のひび割れ.で,キリンがどっちに似ているかと言うと……,あれ? なかなか区別つかないけど,どっちかというと,ひび割れのほうに似ているような……,もしかするとひび割れ説のほうが正しかったのか……?
ついでに,トンボの翅(図5)も見てみると……,う〜ん,これも結構ひび割れっぽくないか??


ひび割れ模様のできる原理は?
上の問いに答えるには,このひび割れパターンの特徴が,どのような原理でできるかを理解する必要がある.見れば一目瞭然だが,ひび割れパターンでは,亀裂はランダムに入るのではない.ひび割れで作られた区画は,ほとんど同じような大きさであり,しかも,区画の角はたいてい直角に近い.また,ひびの分岐点の多くはT字型になっている.このようなパターンはどんな原理で生じるのだろう?

図6は,田んぼなどでひび割れが起きる原因を説明した模式図である.ひび割れの原因は,何かの層状の構造の上面と下面の間で収縮率(拡大率)の差が生じることだ.表面が乾燥により収縮しても,底面と接触している下面は収縮しない.そのため,上面に引っぱりの力(テンション)が生じて割れていくのである.また,ひび割れが起こった近傍では張力が消え,もうひび割れは起きないが,遠い場所では張力は開放されない.ひび割れは,張力の強いところでだけ起きるので,一度入ったひびの周囲はもうひび割れない.結果として,ひびは等間隔に入ることになる.

さて,等間隔性が生じる原因はわかったが,2次元パターンとしての特徴はどうやって生まれるのか? じつは,これもテンションのかかり方を見ていけば,簡単に説明できる.

まず,2次元の面に均一に張力が生じた状態を考える(図7A).ここで,どこかに1箇所だけ亀裂が入ると,その周囲の張力は図7Bのようになる.亀裂の近傍では,亀裂に垂直な方向には張力は開放されているが,平行な方向は残ったままである.そのため,次のひび割れは,最初の亀裂と垂直の方向に入る.また,ひび割れの両側の面はつながっていないので,次に入るひびの位置は,ずれることが多い.そのため,ひびの枝分かれの形状は,たいていT字型になる(図7C).


ひび割れとTuring Pattern の原理は,じつはかなり似ている
これで,ひび割れ模様ができる原理と模様の特徴が理解できたと思う.で,それとTuring patternとの違いを考えると,意外にも,それほど変わらないことに気がつく.

Turing pattern 形成に必要なのは,活性化因子と抑制因子の反応の組み合わせである.ある場所で活性化が起きると,拡散速度の差のために,周囲の領域では逆に抑制因子の濃度が上がる.そのため,活性化した領域の近傍では,活性化が起きない(図8).なんだか,ひび割れのそばではひび割れが起きない,というのと似ている気がするが,それは気のせいではなく,本質的に似ているのである.違うのは,ひび割れが不可逆的な反応であること(Turingのパターン形成反応は可逆的)と,ひびが直線的に入る性質があることだ.一番大事な「等間隔性をつくる」ところは,結構似ているのである.実際,メロンのように,現実にひび割れ模様が存在するのであるから,「どちらの原理が生物学的により重要であるか?」という問いに対しても「Turingの勝ち」とは言い切れない.メロン模様はあんまり重要そうに見えないと思うかもしれないが,Turingのパターンだって,その点ではあまり変わらない.前ページのシミュレーションのパターンをご覧ください.こんな模様あんまり役に立ちそうもないではないか.形態形成の原理としてTuringの原理が重要であるとされている理由は,Turingの原理とほかの条件(場の形状,初期条件など)が組み合わさることで,方向性のそろったパターンが作れるからである.


ひび割れを自在に制御する
だとすれば,ひび割れ模様のほうも,何かほかの条件を付け加えれば,もっと「使えそうな」パターンになるかもしれない? と思うでしょう.そうなんです.長くなりましたが,ここかからが本題です.ひび割れをコントロールして,もっときれいな模様を作ることができるんですよ.以下,日本大学理工学部の中原明生先生の研究から紹介する.まず,炭酸カルシウム(粘性の小さい粉状のものなら何でも可)の粉を用意する.大体3,000gくらい.これに1,500gの水を加えてよく混ぜ,ペースト状にしてから,シャーレに入れる.これを,ゆっくり時間をかけて乾かす.それだけである.じっくり乾かすと,表面から乾いてきて,田んぼやメロンのような,方向性のないひび割れ模様ができる.ここまでは,不思議なことは何もない.では,乾かす前にちょっとおまじないをかけよう.この器を少し揺すってみるのだ.そんなに激しくしなくてよい.10cmくらいの距離を,1分に10往復でよい.たいした速さではないので,ペーストの表面には,まったく変化は見られない.だが,じっと乾くのを待ち,ひび割れが入ると,図9の左の写真のようにひびがきれいな平行線(揺らした向きに垂直)になるのだ.どうです.不思議でしょう?次は,シャーレを図9右のように回転させてみる.どんなひびになるだろう?

そう,この場合は放射状になる.ペーストが動く方向と垂直のひびが入るのだ.いずれの場合も,ひびができる原理から,ほぼ等間隔になるので,とても秩序だって(つまり位置情報として使えそう)見える.じつは,揺らすのだって,本当は10回もいらないらしい.中原先生に直接たずねたところ,うまくやれば一往復でよいそうだ.まるで魔法だ.しかもハンドパワーは必要ない.

だが,驚くのはまだ早い.加える水の分量を増やして,ペーストを柔らかくすると,アラ不思議,先ほどとは垂直の,動きと平行なひびになる(図10右).当然,丸いシャーレを回転させれば,同心円になる(図11).ペーストの濃度を変えるだけで.う〜ん不思議だ.

ついでにここで問題です.図12のような,らせん渦巻き形のひびは,どうやったら作れるでしょう? わかりますか?
読み進める前に最低1分は考えてみてください.あなたに実験のセンスがあるかどうかがわかります.

正解は,シャーレそのものは回転させず丸く揺する,です.ちょうど,水の入ったコップを回して,渦を作るような感じです.炭酸カルシウムのペーストは,もちろんぐるぐる回ったりはしないのだが,ちゃんと渦のようならせんのひび割れができます.う〜んすごい.不思議ですね.


ひびを制御する原理は?
で,どうしてこんなことが起きるのか.鮮やかな説明で,読者のみなさんをあっと言わせたいのは山々なのだが,残念なことに,まだよくわかっていない.ただ,揺すったときに何が起きるかについては,多少ヒントがある.ペーストの上に炭の粉をまいて,ペーストがどんな動きをするのかを見ると,ペーストの濃度(硬さ?)によって異なるのだ.ペースト中の固形分の体積が12.5%(揺する方向と垂直なひびができる条件)では,炭はまったく動かないように見える.だから,ペースト中の炭酸カルシウムの粒は,互いに位置を(ほとんど)変えないのだろう.言い換えれば,ペーストは固体に近い.一方,6.7% (同じ向きのひびができる条件)だと,揺すっていると上にまいた炭が徐々に広がっていく.だから,少し液状化していることがわかる.ペーストとは,粒子状の小結晶の隙間に水がはいった状態である.完全に乾いた固体であれば,揺すっても粒子と粒子の関係は変わらないが,間に水が入っていると,微視的に位置関係の変化が生じ,それが何かの方向性を生むのではないか?この現象を発見した中原先生は,そう推理する.
例えば,比較的硬い状態のペーストを揺すった場合,粒子間の位置関係は変わらずに,各粒子の方向性が一定方向にそろう.一方,柔らかいペーストだと,粒子の総体的な移動が起きて,縦方向に結合の弱い部分が生じる……とか.(これは,筆者の思いつきなので全然違うかもしれません.あしからず.)


生物学におけるひびの意義を妄想する
まあ,実際に起きるミクロの変化が何なのか,またそのようなミクロの変化が,どうやってマクロな構造につながるのか? これはもう,我々生物学者の守備範囲ではないので,残念ながら,問題の解決は物理の人にお任せせざるをえない.生物学者のお仕事は,これが生物とどんな関係があるのかを想像することである.張力が生じれば,ひびは等間隔に入る.しかもその方向は,ごくわずかの力が加わっただけで,簡単に,しかも正確に決まる.これが何かに使えないだろうか?

最初のほうにも出てきたトンボの翅脈が,とてもひび割れっぽいので,これにそっくりなのを作ってみよう.横長の容器にペーストを入れる時に,左から右へと流し込みます.これでおしまい.数日後には,こんな模様ができます(図13).よく見てください.左から右に,メジャーなひび割れが,分岐しながら水平に走り,マイナーなひび割れは,それぞれの区画の中で,ほぼ等間隔の多角形を作る.しかも,その多角形の大きさは,右に行くに従い,だんだん小さくなる.まさにトンボの翅にそっくりだ.

秘密は,ペーストを一方向に流したことで,ペーストの厚みに連続的に違いを作ったこと.ひびは,ペーストが浅いほど細かくなるので,これで,トンボの翅脈が先端ほど細かくなっているのを表現したのです.トンボの複雑な翅脈がどのようにしてできるのかは,よくわかっていない.ただ,パターンがあまりに複雑なので,1つ1つの翅脈の場所を別個に決めているとは到底思えない.実際に,太い翅脈はともかく,細い翅脈に関しては翅ごとに位置がばらばらなので,ひび割れ原理(あるいは,原理的に相同のメカニズム)が本当に働いている可能性は十分にあると思う.ひび割れなら,こんなパターンが,揺すってホイでできるのである.これを生物が利用しないわけがない、と思うのが人情ってものだろう.

ほかにもひび割れの原理が適用できそうな例はたくさんあると思うので,ぜひ考えてみてください.細胞は水がないと存在しえないので,細胞の周囲は,常に水で覆われている.だから,細胞を「粒子」と考えてしまえば,細胞集団は「ペースト」と相同である.ちょっと何らかの力,あるいは動きが加われば,場に位置情報が発生してもおかしくない.よく考えたら,バクテリアのコロニーなんか,まさにペーストそのものである.コロニーを作らせるときに,シェイカーに乗せてうまく揺すってやれば,意外な形のコロニーになるかもしれない.これはちょっとやってみたい.粘菌や菌類の集団が,乾燥した環境に置かれれば,表面が乾いて,ひび割れの可能性が生まれる.キヌガサタケ(図14)の網目構造は,かなりひび割れっぽい.メロンのようにひび割れたところが盛り上がって太くなり,その部分だけが残れば,この構造は簡単にできるだろう.植物は非常に早く成長するので,いろいろなところでひび割れが起きる可能性がある.



例えば,葉っぱが原器から成長するところを考えてみよう.大きさは数十倍になるが,相似形を保って成長するには,葉のすべての領域で同じ拡大率の成長が起きなければならない.これは結構難しいはずだ.逆に,成長率が各場所で違うと,葉が変形する.先端部での成長が遅ければ,そこでひび割れが起きる可能性がある.そう思ってカエデの葉っぱを見ると,なんだか,ひび割れ→成長→ひび割れ→成長,を繰り返しているように見えないだろうか? このやり方(図15)には,葉の形を作る原理が非常に簡単になる,という利点がある.図16は,カエデの仲間の葉のバリエーションであるが,成長と細胞間の結合力のバランスを変えるだけで,これらの様々なギザギザ模様を簡単に作れるはずだ.また,動物の体の中の細胞集団でも,周期的に動く動脈や心臓の近く,あるいは筋肉,関節の近くでは,臓器と動きの相互作用があるだろうから,細胞集団の並びに何か影響するかもしれない.iPSで心臓の細胞を作ることはできても,それは部品にすぎず,臓器を完成させるためには正しく組み立てる必要がある.その原理は,もしかすると動きの中にあるのかも…….

また,動物の初期発生では,いろいろな細胞が集団で動いたり,細胞層が折りたたまれて変形したり,力学的な原理が働く現象がたくさんある.細胞・あるいは細胞集団が動けば,その場に「方向性を持つ記憶」が残るはずであり,それをその後の形態形成で利用できるはずだ.それを使えば,「モルフォゲンの濃度勾配」なんかなくても,正しい形態形成は起こせるのだ.

とまぁ,発想(妄想)はどこまでも広がるのである.生物の進化は,物理の原理の組み合わせ,量,タイミングを変えることで,千変万化のバリエーションを生み出してきた.それを頭の中で想像(妄想)するのが,生物学者の能力だと思っている.その意味で,ひび割れ,金平糖の角,雪の結晶などを研究対象にした寅彦の研究は,生物学的なところがある.身の回りの現象を,虚心坦懐に見つめることで,新たな発見につなげる.寅彦はその達人であった.それには,自然に対する好奇心と,常識にとらわれない頭があればよい.

寅彦の座右の銘は,
「すきなもの,いちご,コーヒー,花,美人,懐手して宇宙見物」
だそうである.カエデの紅葉を見ながら,メロンを食し,飛んできたトンボを愛でる.そこから新たな生物学が生まれたら,楽しいことこの上ないだろう.
(じつは冒頭の写真は,右端にいる男性が,寅彦のためにイチゴ,コーヒー,美人をそろえて花見に行った時のものだそうです.明治の学者さんは,じつに優雅です.あやかりたい,あやかりたい.)

参考文献
1) Nakahara A and Matsuo Y: J Phys Soc Jpn (2005) 74(5): 1362-1365
2) Nakahara A and Matsuo Y: Phys Rev E (2006) 74: 045102(R)
3) Matsuo Y and Nakahara A: J Phys Soc Jpn (2012) 81(2): 024801

細胞工学連載コラム「生命科学の明日はどっちだ?」目次