大阪大学大学院 医学系研究科 病理学 幹細胞病理学/大阪大学大学院 生命機能研究科 時空生物学 病因解析学
Department of Pathology, Medical School and Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University

なかのとおるのつぶやき

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マイ・スウィート・アウェイ

ホームとアウェイ。ほとんどの人にとってホームの方が居心地はいいだろう。もちろん私だってそうである。しかし、ホームには心地よさがあるけれど、刺激が少なくて退屈でもある。どこまでを『ホーム』というのかは難しいけれど、意識してアウェイに出ようとしないと、ホームは次第に固定化し矮小化し、どんどんつまらなくなってしまいそうでこわい。

もう20年以上も前の話であるが、ちょっとした理由があって、母校・大阪大学のポストを去らなければならなくなった。(不祥事をおこしたわけではありません、念のため)うまい具合に、京都大学の先生からポジションのオファーをいただいた。行ってからわかったのであるが、京都と大阪というのは40キロしか離れていない、というのは浅はかな考えであって、その心理的距離は、地球を反対側から回って4万キロマイナス40キロ離れているくらい遠かった。

京大では、ホームの阪大に居続けていたら決してわからなかっただろういろいろなカルチャーショックがあった。大学だけでなく分野も違う研究室で、30歳を超えて知り合いもほとんどいないアウェイというのは、いうなれば完全アウェイである。相当にしんどかった。それでも、月日がたつにつれて、仲間が増え、目をかけてくださる先生も増えていった。最初はアウェイであっても、ふんばっていれば、次第にホームみたいになっていくのだということを実感した。

自ら意図したものではなかったが、その経験は私にとって実に貴重なものになった。若いころにそのようなアウェイ経験を一度してみると、物理的な意味だけではなく、いろいろな意味での『アウェイ』に対する恐れがなくなる。それどころか、アウェイが好きになる。研究テーマもその一つであった。これも、意図的と言うわけではなかったのだけれど、振り返って見ると、かなりいろいろな分野を飛び回ってきた。これも、アウェイに出るたびに新しい刺激があった。そして、新しい人に出会えた。

最近は留学を希望する人が減っているという。一も二もなく、手っ取り早くアウェイを経験できるのは、外国生活である。言葉も習慣も違う、自分のことをよく知っている人など少しもいない、究極のアウェイである。たとえ留学そのものがうまくいかなかったとしても、アウェイを若いうちに経験しておく、というだけで、後の人生に大きな好影響を与えるはずなのに、もったいないことである。前にも書いたが、少々無理をしてでも、研究を生業にしようとする人は、ぜひ若い間に留学してもらいたい。

うってかわってちいさい話であるが、アウェイのパーティー、あまり知っている人がいそうにないパーティーに、できるだけひょこひょこ出かけることにしている。ホームの人がたくさんいるパーティーというのは、気軽ではあるけれど、噂話ばかりで目新しいことはほとんどはない。しかし、アウェイには、意外な発見があふれている。それ以上に、いろいろな人とのご縁をいただけることもよくある。

アウェイのパーティーといっても何らかの関係があるからお呼びいただけているわけなのだが、大はずれすることもある。退屈で死にそうになって、黙々と飲み食いするだけになることもなくはない。しかし、それも、たかだか2時間と1〜2万円を損するだけの話である。そんな時は、ほとんどが知らない人ばかりなのであるから、別段恥ずかいこともない。迷惑さえかけなければいいという軽い気持ちで行けばいいのである。とんでもない大きなチャンスが待ち受けている可能性すらあるのだから。

お前はあつかましいから、アウェイに行っても平気なのだと思われるかもしれないが、それは大きな勘違いである。私は、見かけによらず、人との関わりについては非常に神経質なのである。信じられないかもしれないが、赤面恐怖といっていいほどすぐに真っ赤になる子どもだった。いまでも、知らない人と会う前の日や、アウェイのパーティーに出かける前の日などは、いろいろなシミュレーションをしてしまって、ほんとうに眠れない。それでもアウェイが好きなのだ。いや、それだからこそアウェイが好きなのだ。

最初はアウェイであってもホームらしくなっていくこともあるから、程度に違いがあってもホームは一つとは限らない。しかし、ホームあってこそのアウェイである。たとえ勘違いであっても、確固たるホームが存在していると思えているからこそ、アウェイを楽しめるのだ。いつもホームに感謝しながら、知らぬ間に築いてた自分らしさの檻の中(© 桜井和寿)にひきこもることをよしとせず、いつでもアウェイにつっこんでいくような果敢なおっさんであり続けたい。

2013年 2月

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