大阪大学大学院 医学系研究科 病理学 幹細胞病理学/大阪大学大学院 生命機能研究科 時空生物学 病因解析学
Department of Pathology, Medical School and Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University

なかのとおるのつぶやき

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中国で考えたこと

この4月、5月、立て続けで上海と北京に出張する機会があった。それぞれ、万博とオリンピックの前に訪問・観光したのであるが、あのころの建築ラッシュの騒々しさに比べると、町も人も落ち着いて大都会の風格が身についてきたような印象であった。どちらも4〜5日の滞在であり、それもほとんど学会場にいたので、えらそうなことは言えないけれど、なにかと思うことがあったので、三つのことについてメモ程度にまとめておこうと思う。

まずは、多様性というか個性というか、について。二つの大都会を歩いて思うことは、そこにいる人たちの多様性である。びっくりするほどキレイなおねえちゃんや格好いいおにいちゃんがいる一方で、どうしたんだと言いたくなるような人もいる。人種の違いも影響しているのであろうが、その落差は、美男美女の増加と、おそらくは農村部からの人の流入によって、ますます拡がってきているのではないか。また、それとは必ずしも一致しないけれど、貧富の差も相当に大きいと見て間違いないだろう。

そのような国では、日本のように「個性をのばしましょう」というような教育は意味をなさないのではないか。のばすまでもなく、その多様性がおのずと個性を形作っているのだから。美醜や貧富、そして見ただけではわからないが教育レベルの差、といったものは、決して大きければいいとうものではない。しかし、厳然とそこにあることを目の当たりにすると、わざわざ「個性」というものを重視したり育成したりすることが、いささかバカげた発想ではないかと思えてしまう。

つぎは、おおらかさについて。ほんとうにそうかどうかはわからないのだけれど、なんとなく、中国の人というのはゆったりとしていておおらかそうに見える。朝の公園を散歩していると、たぶん鳥に散歩させるために鳥かごをぶらさげてゆっくりと歩いている人がたくさんいたりする。街中では我勝ちな人が多くて、日本よりも殺伐とした雰囲気を感じることが多いのだけれど、こういう対立するような状況が共存しているのは、どうしてなんだろう。ふと、ルールに対する考え方の違いなのではないかと思い当たった。

日本で観光している中国人観光客を見ていると、どうもお行儀が悪い。ルールを守ってくれていないのである。しかし、ひょっとすると、中国人から見ると、逆に我々はルールに対して厳格すぎるのかもしれない。自分が守っているから周囲も守るべき、という気持ちが、自分たちには強すぎるのではないか、という気がしてしまったのである。もちろん定められたルールというのは守らなければならないけれど、その境界領域あたりをどのていど許容するかで、おおらかさ、というのはかわってくるのではないだろうか。

そして三つ目は大きさとか量、数に対する考え方の違いについて。出席した二つの学会では「エピゲノム」という新しい領域についての発表がいくつもあった。この研究では、塩基配列の大量解析をおこなわねばならず、次世代シークエンサーという高額機器が必要である。Beijing Genomics Institute(BGI)という中国を本拠地とする研究所には、膨大な数のシークエンサーが備えられており、猛烈なスピードでそのような解析を進めている。また、そのようなデータ解析をおこなうバイオインフォマティシャンたち、日本ではたいへんに人材不足で育成が急務であると大変なのであるが、BGIには、優秀かどうかは別として、若くて活きのいいのがわんさかといるようだ。白髪三千丈などという言葉を繰る国の人々、数や量が多くなれば、質を凌駕する、あるいは、質的な改革が生じうることを、昔から知っていたのだろう。でなければ、天壇や故宮といった、不必要にばかでかいものを作ったりもするまい。その伝でいくと、大規模シークエンシングは、中国の歴史にぴったりフィットではあるまいか。BGIで刊行される予定である学術誌の名前を聞いて、やはりこの考えは正しいのではないかと思った。その名も「GigaScience」。思わず、参りました、と言いたくなってしまう。中国人若手研究者には、日本ではほとんど見られないような貪欲さと勢いが感じられる。個性を武器に、ルールの逸脱にもある程度目をつぶり、大スケールの物量作戦でこられたら、研究分野にもよるだろうけれど、日本だけでなく欧米諸国でも太刀打ちできなくなってしまうのではないかという予感を抱かせる出張であった。

2012年 5月

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