大阪大学大学院 医学系研究科 病理学 幹細胞病理学/大阪大学大学院 生命機能研究科 時空生物学 病因解析学
Department of Pathology, Medical School and Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University

なかのとおるのつぶやき

HOMEなかのとおるのつぶやき(目次) > No.004 Contents

留学のすすめ

外国へ行きたがらない若者が増えているという。東大はそれを憂慮して、何を勘違いしたか秋入学にするといいだしている。半年間入学をずらしただけで外国留学する人が増えるなら、誰も苦労はしないだろう。そんな流れに身をまかせ、我が大阪大学も付和雷同するのではないかと案じているこのごろである。それとは別に、科学者をめざす若者には、ぜひ留学してほしいと考えている。

生命系のことしかわからないが、大学院を修了してから留学する人が減っている大きな理由は次の三つくらいではないかと思う。一つは、研究をまとめるのに時間がかかるようになっていて、とりあえずで5年もの海外生活を覚悟せねばならず、帰国したときに浦島太郎になってしまい、職がないのではないかという不安。これと関連して、国内にとどまって研究を続けた方が、研究の流れが滞らずに論文業績をあげやすい、というせこい考え。そして三つ目が、一昔前と違って、ポスドクポジションが国内にたくさんあるし、研究費や機器も十分にあるので外国へ行かなくてもいいという言い訳。

博士号をとって、業績効率がよさそうだからと、もとの研究室に残って同じテーマをずっと継続するような精神は、フロンティアをめざす科学者とは相反するものである。であるから、二つ目と三つ目の理由を真剣に考えるような輩は、研究というものを生業にするには不向きなので、留学云々でなく、研究から足をあらったほうがいいだろう。

これらに比べると、一つ目の理由は克服するのがなかなか難しい。結局のところ、そういう状況であっても、留学するだけのメリットがあるかどうか、ということになる。もちろん私はあると考えている。留学が持つ最大のメリットは、変革。思い切って、違うテーマや環境に飛び込んでみる最大のチャンスである、ということだ。こういった思い切りは、間違いなく、後年、研究者として新しいことに挑戦する時に最大の武器になる。言いかえると、留学程度のことに尻込みするようでは、長い研究者生活、つねにチャレンジするだけの勇気を持ち続けられない、ということである。

もう一つは、サイエンスを肌で感じる、ということの重要性。お前みたいな教授がいるからだと言われるかもしれないが、日本の大学にいては、サイエンスの本質というものがなかなかわからない。科学というのは、自然発生的にできたものではなく、ヨーロッパにおいて「考え出された」ものである。その歴史のせいかどうかはわからないが、ヨーロッパ、および、第二次世界大戦前後にその流れを大きくとりいれたアメリカでは、科学および科学者というものに対する感覚が日本とはだいぶ違うように思う。それに、日本の学術業界は狭い。30前後で、一度そういった柵(しがらみ)を断ち切って、違う風土、サイエンスを理解する風土に身を置くのは決して無駄ではない。

たとえ留学で2〜3年出遅れたとしても、それでだめになるようなら、留学しなくてもだめになる可能性も高いだろう。研究を生業にしようとしている若者よ、留学したまえ。何があっても、連絡してくれたら、骨だけはちゃんと拾ってあげるからね。

2012年 1月

ページの先頭へ