大阪大学大学院 医学系研究科 病理学 幹細胞病理学/大阪大学大学院 生命機能研究科 時空生物学 病因解析学
Department of Pathology, Medical School and Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University

なかのとおるのつぶやき

HOMEなかのとおるのつぶやき(目次) > No.001 Contents

一般誌デビュー!

研究というのは思いのほかいろいろな能力が要求されるものであって、「作文」能力もその一つである。研究費の申請書という重要度の高いものから、雑多な報告書や意味がありそうもない事務書類にいたるまで、はたして年間に何字書くのだろう。書くのが好きで相当なスピードで書けるからいいものの、遅筆の研究者にとってはなかなか大変なことかと思う。

日本のバイオメディカルサイエンス業界の特殊事情で、総説誌のたぐいがたくさん出版されている。若いころは、そういった雑誌に依頼されるとうれしいものであったが、歳をとるとめんどうなだけになってくる。数年前から、総説書きは卒業、と思っている。しかし、最近、ひょんなことから、一般誌にデビューすることになった。

「大阪人」という大正時代から続く雑誌の編集がリニューアルされることになり、遊び仲間である新編集人から、書きませんか、と声をかけてもらえたのである。『細胞工学』誌に、あしかけ4年にわたって連載した『生命科学者の伝記を読む』の連載もちょうど終わったところだったし、ちょっとした刺激になるかと思ってお引き受けした。

お題は、パナソニックの創業者・松下幸之助とダイエーの創業者・中内功についての書評みたいなもの。なんじゃそれは、と思われるだろうが、パナソニックの本社とダイエー創業の地が、京阪電車の沿線でわずか数キロしか離れていないところにあったこと、と、私がそのあたりに住み続けている、という、いかにもいいかげんなコネクションによる依頼であった。1000字たらずの短い文章であったけれど、仕事とは関係のない文章を書くというのは、なかなかいい勉強になった。

面白かったのは、担当編集者とのやりとりである。総説を書く時も、もちろん編集や特集担当の先生とやりとりをするのであるが、不文律でもあるのか、よほどのことがない限り、内容に立ち入ったコメントをもらうことはない。しかし、一般誌は違う。ここがわかりにくい、とか、ラストが弱いからもう一工夫、とか、いろいろと注文を出してくる。

それがいやかというと、決してそのようなことはない。そういわれたらそうやなぁと思いながら書き直していくと、文章がどんどん練れていくのが手に取るようにわかるのである。専門誌と同じように『編集』と呼ばれる仕事ではあるが、まったく違うことをしてくれる。そう、書き手を育ててくれるのである。

総説誌の売れ行きが伸び悩んでおり、老舗の『蛋白質核酸酵素』などは休刊のままである。情報のあり方がかわり、活字離れが進んでいることが理由とされている。しかし、それだけではないのではないか。自分の研究内容をちょこちょこと適当にまとめたような総説ばかり集めて、内容がいまひとつでも注文も出さず、集めて載せてよしとするやり方も大きな理由の一つではないかという気がしている。

2011年6月

ページの先頭へ