・ゆらぎの大きさからの見積もり

わざわざステージを動かさなくても,ビーズの変位そのものから弾性率を見積もることができます.
トラップされたビーズは静止して外力を受けない状態でも,周囲の水分子などからの衝突により,揺動を受けます.
これがあの有名なブラウン運動です.

上のトレースは,時間とトラップされたビーズの位置の関係です.
また,右はビーズの位置のヒストグラムです.
原点を中心にガウス分布していることがわかります.
このブラウン運動はトラップの弾性率に依存して,弾性率が低いほど大きくなります.
この大きさは等分配の法則にしがたい,

 

となります.ここで,kBはボルツマン定数,Tは絶対温度です.
室温においては,
 
という値を用いることができます.
具体的な値を計測してみましょう.

平均のゆらぎの大きさが2 nmの場合,弾性率は約1 pN/nm
平均のゆらぎの大きさが6.4 nmの場合,弾性率は約0.1 pN/nm
平均のゆらぎの大きさが20 nmの場合,弾性率は約0.01 pN/nm

となります.後で述べるナノ計測を使えば,十分に計測可能な値です.
このゆらぎの大きさを計測することにより,トラップの弾性率を見積もることができるのです.
ただし,計測されたビーズのゆらぎ(実波形)はビーズのブラウン運動以外にも様々なドリフト,ノイズが付加されているため,見積もられた弾性率は真の値より低くなる場合があります.
また,データのサンプリングレートが低い場合,高周波の成分がカットされている場合があり,その際には弾性率を高く見積もる可能性があることにも注意しなくてはなりません.

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