我々の研究方針の一つに,
1分子レベルで,
という物があります.
では,なぜ1分子レベルでの研究が重要なのでしょう?
ご存じのように,生体分子の大きさは,
十数ナノメートル
です.
つまり,非常に非常に小さい分子機械なのです.
これらの分子機械が,我々,さらにはすべての地球上の生命体の中で,きちんと機能的に,連携を取り合いながら働いているのです.
そのおかげで,こうして我々は生きていけるのです.
では,どれくらいの数の分子が働いているのでしょう?
たとえば....
筋組織,を考えましょう.
昔,中学生の頃,カエルの解剖を行った人もいるでしょう.
足を裁いて,刺激すると,ピクッ,と動く物,あれが筋組織です.
その中には,主にミオシンというタンパク質とアクチンというタンパク質がお互いに相互作用して筋肉を収縮させます.
カエルの足から長さ1cm,太さ0.1mm程度を取り出します.
その中にミオシン分子はどのくらいあるかというと,
10の12乗個!
もあるのです.
つまり...
1兆個!
です.
詳しい計算は,筋肉の項で計算します.
この膨大な数の分子が一応は連携を取り合って(物理的に,生物的に)運動していますが,基本的には,
確率的,独立に
動いているのです.
その総和として,我々は筋組織が刺激により,縮んだりするのを見ることができるのです.
また,生化学の実験では,これらのタンパク質を,抽出,精製して実験に使います.
そのときの条件を,たとえば,
0.1 mg/l, 1 ml
とした場合に,その中に含まれているタンパク質の数は,やはり1兆個レベル....(***にて計算).
先人たちは,それだけの数の総和,平均から一個一個の性質を明らかにしていたわけです.
その際に,元となる仮定は,
サンプル内の生体分子は独立に,確率的に機能する
という物です.
つまり,
どの分子も同じように,均等に動く
協調するようなことはない
というのが大前提になります.
これらの仮定の下,先人たちは数々の業績を上げてきました.
その優秀さには,脱帽物です.
しかし....そのような優秀な発想,解析が私のような凡人にもできるのでしょうか...
それなら...
1個の分子を直接見て,観察できれば何も難しいことを考えずにわかるのではないか?
と考えたらどうでしょう?
そのために,
1分子で観察して,操作して,計測する技術を開発
すれば,いいじゃないか...というように考えていったのです.
もちろん..1分子の研究で生命現象がすべてわかる,なんて甘いことはありません.
個々の分子の機能,さらにはそれがシステムとしての機能,と生命現象は複雑でさらに階層的です(大沢先生の本を参考にしてください).
ですので,我々の研究,1分子レベルでの研究は,生命現象のごく1面を取り扱った学問であることはしっかりと認識しなくてはなりません.