研究対象
大腸菌の情報伝達システム(走化性システム
生物が生きるためには環境情報を処理しタンパク質等の機能や遺伝子発現を制御するシステムが必要不可欠です.大腸菌のようなバクテリアには「脳」はありません.しかし『一つの細胞』で環境をモニターし,情報を処理し,行動制御を行う『走化性システム』と呼ばれる情報処理システムを持っています.大腸菌を含むバクテリアは,走化性システムによって外環境を認識・判断し,それに応じて運動装置であるべん毛モーターを制御し,自身にとって好ましい環境へ遊泳していきます.私は分子遺伝学的手法や光学顕微鏡技術を用いて,大腸菌1細胞の走化性応答と同時に走化性タンパク質の細胞内動態の計測を,高時間・空間分解能で行っており,ミリ秒で起こる細胞応答や細胞内のタンパク質の結合・解離や酵素活性の定量的な解析から,細胞内の情報伝達のメカニズムを理解しようと考えています.このシンプルな情報伝達システムを明らかにすることで,様々な生物が根源的に持つ情報伝達システムを明らかにしたいと考えています.


生体分子モーターの動作原理(細菌べん毛モーター)
生物には細胞内で,細胞自体が移動するための“動く”タンパク質(分子モーター)が必要です.大腸菌を含むバクテリアはべん毛モーターと呼ばれる回転運動装置を細胞膜内に有しており,モーターにつながったべん毛繊維をスクリューのように回転させることで,潜水艦のように水中を遊泳します.既往の研究によってモーターを構成するタンパク質が同定され,またモーターの力学特性などが明らかにされてきました.しかしながら,その動作原理についてはまだ多くのことがわかっていません.私は分子遺伝学的手法や光学顕微鏡技術を用いて,モーターの回転の計測やモーターを構成するタンパク質のモーター内での動体などを,高時間・空間分解能で計測し,その動作原理に迫りたいと考えています.

研究手法
1.分子生物学・生化学
分子遺伝学的手法を用いて特定遺伝子の欠損株や,特定遺伝子およびそれらの蛍光タンパク質融合体の発現プラスミドを作製します.

<例> 走化性タンパク質と蛍光タンパク質の融合体の作製(走化性タンパク質としての機能を保持)


2.光学顕微鏡を用いた計測システムの開発
べん毛モーターの回転,細胞の走化性応答および細胞内でのタンパク質動体を捉えるための顕微鏡を自分で作製しています.

<例1>走化性タンパク質のGFP-fusionとべん毛モーターの同時計測システム(2波長同時計測システム)


 

<例2>走化性タンパク質間のFRETとべん毛モーターの同時計測システム(3波長同時計測システム)

 

<例3>蛍光タンパク質の蛍光異方性とべん毛モーターの同時計測システム

3.ソフトウェア開発・シミューレションソフト開発
LabVIEWを用いて,計測データの解析や,実験データの整合性を確認するためのソフトを開発しています.

<例1>高速カメラを用いたべん毛モーター回転のリアルタイム計測ソフト

<例2>細胞内の情報伝達タンパク質の拡散と濃度変化のシミュレーションソフト



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