ようこそ、細胞核ダイナミクス研究室へ!

私たちは、細胞核の機能構造をダイナミックな視点から理解したいと考えています。


-平岡より-
 細胞核は遺伝子が働くための空間的な場である。その機能を果たすために、多くのタンパク質がダイナミックに相互作用し、離合集散しながら働いている。このダイナミックな生命現象をビジュアルに捉え、その分子的な仕組みを遺伝的に解明するために、顕微鏡イメージングと分子遺伝学の手法を併用し、染色体と細胞核の機能的な構造を解析する。個々の遺伝子産物の記述にとどまらず、細胞の物理化学的実体を意識し、生きている細胞の時空間の中で理解することを目指す。

 ゲノム解析が進み、様々な生物でゲノム塩基配列が解読されているが、遺伝子の発現は一次元の配列情報だけで制御されるわけではない。一つの個体を形成するすべての細胞は同一の一次配列を持つにも関わらず、生体内の異なる細胞がそれぞれに異なる機能を発現する。このように細胞ごとに特異的な遺伝子発現パターンを与えることにより、さまざまな細胞システムが構築され、複雑な生命現象を実現することができる。
 遺伝情報を担うDNAは段階的な構造形成を経て染色体にたたみ込まれ、染色体は細胞核に収納されている。DNAは長大な分子であり、ヒトの細胞を例にとると、太さ2ナノメートルで全長が2メートルにも及ぶ長大な分子が、直径が約5マイクロメートルの細胞核に収納されていることになる。この空間の中で数万に及ぶ遺伝子の発現が正確かつ調節的に進行する。これは、DNAが細胞核内で秩序だった構造をとり、その構造が正確に制御されていることを想像させる。細胞核は遺伝子が働くための空間的な場を提供する。それでは、この細胞核という空間はどのような構造的基盤を持つのか。染色体は細胞核内で何か規則的な構造を持つのか。もし、そのような規則的な構造があるなら、それを実現する分子的基盤は何なのか。私たちの研究は、このような問から出発した。
 高度に秩序ある細胞核の働きは多くのタンパク質の調和の取れた連携作業によって営まれる。生きている細胞の中では、多くのタンパク質がダイナミックに相互作用し、離合集散しながら機能している。生細胞内で局所的かつ過渡的に起こる現象は、集団平均では検出できず、個々の細胞で直接観察することが、唯一の検出方法と言っても過言ではない。そのために、現在の技術では細胞の集団平均でしか計測できないような現象を、単一の生細胞で直接検出することが必要となる。例えば、染色体や細胞核を形づくるタンパク質などの挙動や、ダイナミックな相互作用、細胞核の物性を、個々の生細胞で計測する。これによって、細胞機能の制御の仕組みを、遺伝子を矢印でつなぐことや個々の遺伝子産物の記述にとどまらず、細胞の物質的実体を意識し物理化学的な視点に立って、細胞の時空間の中で理解したいと考えている。
 研究の対象としては、染色体の細胞核内空間配置および染色体の局所的構造を解析する。蛍光顕微鏡によるイメージングの手法と分子遺伝学の手法を併用して、生命現象を顕微鏡でビジュアルに捉え、その分子的な実体を遺伝的に解明する。生物材料として、主に分裂酵母とヒト培養細胞を用いる。分裂酵母とヒトで保存されているものについては、真核細胞に普遍的なメカニズムの理解につながると考えている。また、異なる部分については、ヒトと分裂酵母でその仕組みを比較することで、共通する部分と進化の過程で変化してきた部分を理解できると期待している。

細胞核ダイナミクス研究室では…
  • 生きた細胞の扱い方が身につく
  • 画像データの解析手法が身につく
  • 最先端の蛍光顕微鏡システムを自由に使える
  • 見てわかる生物学に感動する