ナノバイオフォトニクスの研究

1. 蛍光性金属ナノクラスター

数個から10個程度の原子で構成される金属ナノクラスターは強い蛍光を発するようになります。私たちはこれまでに細胞毒性の低い金属(白金)を用いて蛍光性金属ナノクスターの合成に世界で初めて成功しました。図1は調整した金属ナノクラスターの写真で、365nmの光を照射することによって非常に明るい蛍光(青色)を示しています。これらの蛍光性金属ナノクラスターは高輝度、光安定でかつ細胞毒性が非常に低いため、バイオイメージング用の分子プローブとして最適であることが本研究によって明らかとなりました。さらに、量子サイズ(構成原子数)に依存するため、分子サイズを調整することによって多様な発光波長を有する蛍光プローブを実現でき、マルチカラーイメージングも期待されます。現在、私たちはこれらの蛍光性金属ナノクラスターの発光過程を解明するだけでなく、バイオイメージング用の蛍光プローブとしての応用を目指した研究を行っています。


図1. 5個のプラチナ原子で構成されるナノクラスター。
紫外光を照射することで、青色の蛍光を発する。化学的に安定で、生体に優しいプローブとして細胞イメージングへの応用を目指している。
図2. 8個のプラチナ原子で構成されるナノクラスター。
青色の光を照射することで、緑色の蛍光を発する。構成する原子数を多くすることで、発光波長を長くできる。

2. 金属ナノ粒子のプラズモン共鳴を利用した生体分子カイネティクスの光ナノ計測

 生細胞の分子機構を実時間で計測することで、多くの生理現象を理解できるようになります。そこで私たちは光と金ナノ粒子の相互作用である局在プラズモン共鳴を用いて、生体分子のダイナミクスを実時間で計測する手法を提案しました。二つの金微粒子がお互いにナノスケールまで近づくと、散乱光の波長は長くなります。よって、散乱光の波長の変化を評価することで、金ナノ粒子間の微小な距離変化を知ることができます。私たちはこの手法を用いて生体分子カイネティクスをナノレベルで計測する測定法を開発しています。

図3. SOX2によるDNA屈曲前後金ナノダイマーのモデルと
SOX2及びSOX2+PAX6存在下でのDNA連結金ナノダイマーのプラズモン共鳴波長分布

3. 近赤外生体イメージング

生体に透明な近赤外光を用いることで植物内を非破壊で観察できます。よって光合成における水分量変化など植物細胞の機能を解明できます。私たちは植物内水分量分布等を非破壊で計測する手法の確立を目的とし、近赤外光を用いた生体イメージングシステムの開発を行っています。

4. アゾ系ポリマーの光誘起物質移動を利用した光ナノ計測・操作

アゾベンゼン基を側鎖に持つポリマーに光を照射すると、アゾベンゼンの光異性化反応によって分子が空間的に移動することでポリマーが変形する現象が知られています。この現象を利用すれば、光エネルギーを運動エネルギーに直接変換できるので、光によるメカニカル機能を発現できます。また、誘起された変形形状は、入射した光の強度分布や偏光状態に依存することを利用すれば、回折限界によって光学顕微鏡では観察することのできないナノ物質周囲の光の状態を観察することができます。

図4. ナノ光源によって誘起されたポリマー変形。
変形状態からナノ光源の光強度分布や偏光状態が分かる。
回折限界によって光学顕微鏡では見ることのできない
ナノ物質周囲の光の状態を見ることができる。

5. 単一蛍光分子の配向イメージング法の開発とナノ環境測定、1分子FRETへの応用

 単一分子から発光される蛍光の特性(寿命、量子収率)は、界面近傍では分子の向きによって変化します。そのため、単一分子の向きを正確に測定する技術が必要です。また単一蛍光分子からの蛍光は、発光/非発光を繰り返すブリンキングと呼ばれる発光現象を示します。ブリンキングの振る舞いは、その分子周囲の環境(酸素濃度、溶液の粘性など)に強く依存するので、蛍光ブリンキングを測定することで、その分子周囲の環境をナノスケールで測定することができます。さらに分子の向きを考慮することで、FRETによる、より精度の高い分子間距離測定を行うことができます。

図5. 単一蛍光分子の配向イメージング。
それぞれの蛍光パターンから分子の向きを決定できる。