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近回避葛藤下の意思決定をコントロールする帯状回皮質-ストリオソーム回路
雨森賢一 (京都大学)

日時

2019年5月17日(金)16:30〜

場所

吹田キャンパス 生命機能研究科 生命システム棟2階 セミナー室

演者

雨森賢一(京都大学)

演題

近回避葛藤下の意思決定をコントロールする帯状回皮質-ストリオソーム回路

要旨

報酬と同時に罰があたえられる場合、その報酬と罰のセットを受け入れるか(接近)受け入れないか(回避)という意思決定に関して心理的な葛藤が生じます。これは接近回避葛藤とよばれ,心理学における重要なコンセプトのひとつです。特に、接近回避の意思決定は不安やうつといった情動や気分と関係が深く、抗不安薬の投与によって変化することが知られています。我々は、この接近回避葛藤を用いて、不安の生成に因果的に関わる大脳皮質-大脳基底核回路の同定を行いました。マカクザルに報酬と罰のセットを受け入れるか、拒否するかの意思決定を行わせ、その選択パターンから、サルがどれほど悲観的であるかを計算論的な手法を使って推定しました。まず、帯状回皮質を局所刺激し、意思決定がどのように変化するかどうかを調べました。すると、刺激により計算論で導かれた悲観度のパラメータが特徴的に上昇することを見つけました(Amemori & Graybiel, Nature Neurosci., 2012)。帯状回皮質の効果のあった部位にトレーサーウイルスを注入し、関連するネットワークを調べたところ、線条体ストリオソーム構造に優先的に投射することがわかりました(Amemori, Amemori et al., under review)。この経路は、齧歯類では前辺縁系皮質-ストリオソーム経路に対応することから、対応経路の選択的な操作を光遺伝学の手法を用いて行ったところ、接近回避行動に変化が現れました (Friedman et al., Cell, 2015; 2017)。このストリオソーム経路はマカクザルでも手綱核に影響を与えることがわかっています(Hong et al., Current Biol., 2018)。このことから接近回避行動の変化はストリオソームが下流回路を制御することで引き起こされるのかもしれません。次に系列学習に関与するマカクザルの線条体(Desrochers, Amemori, et al., Neuron, 2015)においても刺激実験を行い、線条体の局所回路が強迫性障害に似た価値判断の固執に因果的に関わることを同定しました(Amemori et al., Neuron, 2018)。この悲観的な意思決定がどのようなメカニズムで行われているかを調べるために、刺激実験中に線条体の局所電場電位を同時記録したところ、線条体のベータ波が意思決定をコードし、刺激効果に相関して変化することがわかりました。こうした接近回避葛藤に対する神経活動は、齧歯類やマカクザルだけでなく、ヒトでも同様の変化を示すことが明らかになっています(Amemori et al., J. Neurosci., 2015; Ironside, Amemori et al., under review)。ヒトでは不安障害になると、罰に対してより注意を向け、意思決定が悲観的になることが知られています。このことから、帯状回皮質や線条体の過剰な活動は、不安障害に似た「頭から離れない持続的な不安」を引き起こすのかもしれません。

世話人

木津川尚史
Tel: 06-6879-7966
E-mail: kit@fbs.osaka-u.ac.jp